3 修行小屋――最後の夜
僕らが驚いたことが、プリシアは意外そうだった。
「それが……そんなに驚くことですか?」
「いや、だってこの世のものは創造神ゲイニアスから生み出したものだとばかり思ってたからね。……そりゃ、驚くよ」
僕の言葉に、プリシアが答える。
「竜の世界では、精霊神アリアナは世界が人間のものだけではないということを人間に知らしめるために、竜をお創りになった――とされてますわ」
「なるほど……」
ミシュレイが顎に手をあてて、考えながら口を開く。
「滅竜攻団の母体である『来神教団』の来神教では、竜は悪魔の使いとして忌み嫌われる存在だった。それは……竜が人間が至高の存在であることを否定するから――ということか」
僕はミシュレイに訊ねる。
「来神教って、創造神と秩序神以外の神様を信仰してるんだよね、確か」
「救済神ヴァルガだ。この世が破壊された後、世界を救済するために現れる神様――とだけ教わったな。滅竜攻団も上層部へ行くと、そういう宗教的な教えの教育を受けるようになる。けど正直、ボクは不熱心だったので、あまりまともに受けとらなかったんだ」
ミシュレイは苦笑しながら言った。
ライラが顔をしかめて言う。
「どうも難しい話なんだぞ。神様には、食事の時に祈るくらいしか縁がないんだぞ」
僕らは思わず笑った。
「まあ、それくらいがいいだろう。……けど、実はこういう話が、案外、事態の核心に迫る鍵になってくるかもしれない。今までは意識してなかったけど、今後はちょっと意識しておこう」
僕がそう言うと、皆が頷いた。と、プリシアが口を開く。
「ところで、今夜はここでの最後の晩餐ですわ。みんなでご馳走をつくりましょうよ」
「賛成だぞ! 戦ったから、お腹も空いてるし――だぞ!」
「もちろん、先生もご一緒に――ですよ」
僕はジャックに言った。ジャックが微笑む。
「うむ。それじゃあ、馳走になるかのう」
食材を残してもしょうがない――ということで、僕は腕によりをかけて贅沢に食材を使って料理を作った。傍では、ミシュレイも手伝ってくれる。
プリシアとライラは、リビングでジャックとくつろいでもらった。
料理をしてる最中に――ふと、ミシュレイが話しかけてきた。
「レディアスのこと……よく気付いたな」
「うん。少し考えて――そうしたら、ね」
スープの灰汁をとりながら、ミシュレイは複雑な面持ちで口を開いた。
「ボクが元いた組織がおかしなもので――それを、潜伏して探っているかと思うと……レディアスという人の、凄みが判って来る。クィードは途中で気付いたけど――ボクは単純に敵視してるだけだった……」
「気にすることはないよ。僕はあのラムーって人に、どう対抗すべきか全く思いつかなかった。ミシュレイが対峙してくれるって言った時――本当に心強かったよ」
僕はミシュレイに微笑んでみせる。ミシュレイが僕を見て、少し赤くなって視線を逸らした。
「ボクも……役にたってるんだろうか――」
「もちろんだよ、何言ってるのさ、今さら。ミシュレイは、大切な仲間だよ」
僕がそう言うと、ミシュレイがふと顔をあげて僕を見つめた。
「仲間……以上の気持ちは――ないよね?」
え……どういうこと? 僕は返答に困って――黙る。
と、ミシュレイが慌てた様子で首を振った。
「ううん、なんでもない。なんでもないんだ……。うん! スープはもう大丈夫! 夕飯にしよう!」
ミシュレイが眼鏡の奥の眼で微笑む。
僕は戸惑いを残しつつ――笑って頷いた。
それから料理ができたので、プリシアとライラを呼ぶ。
「プリシア、ライラ! 料理を運ぶの手伝って~!」
「やった! 美味しそうな匂いがするんだぞ!」
「本当、凄くいい匂いですわ」
プリシアとライラがやってきて、盛りつけた料理をリビングに運ぶ。
テーブルの上はふんだんに作った料理で彩られた。
「普段は呑まんじゃが……置いていっても仕方あるまい」
手製の杖をついて歩いているジャックが、ワインの瓶を抱えてやってきた。
「何本か置いてあってのう。いい機会だから開けるか」
「え、僕たち17歳ですけど」
「あたしは16だぞ!」
僕が言った後に、ライラも声をあげる。と、ジャックが笑った。
「酒なんぞ、儂は12の時から呑んどるわ。まあ、毎日呑むわけじゃないんだ。試しに呑んでみい」
「やった! 一度、呑んでみたかったんだぞ!」
ライラはご機嫌だが、ミシュレイは躊躇している。
「ボクも……呑むのか?」
「まあ、いいじゃない。僕らも呑んでみようよ。プリシアもさ」
「竜にはお酒を呑むという習慣がないんですの。――美味しいのかしら?」
「どうだろうね」
僕は微笑した。
それから乾杯をして、夕餉をいただく。
談笑して、ワインを口にして料理を食べた。
初めて呑んだお酒は――悪くなかった。
「だかりゃあ、あたひは――最強の剣士になぁるんだぞ!」
「そうか、頑張れよ、小娘」
ジャックも少し頬を赤くして、酔っぱらったライラに笑いかける。
「小娘ってなんだぞ! 小娘ってことは――小さい娘でぇ……こむすめだけど――ライラなんだぞ!」
「そうか、ライラか。……ライラ、お前の剣筋は随分、成長したぞ」
「あたしの口真似だぞ」
「そうか!?」
二人はなんだか、意気投合している。
と、プリシアはなんだかつまらなそうに呟いた。
「正直……全然、酔うという感じがないですわ。つまらない~~」
そう言うと、プリシアは、う~んと言って身体をプルプルを振った。
「あぁ……そういう可愛い感じを出すのか。そうやって、美人だけど可愛い雰囲気で魅了するんだな?」
なんかミシュレイの、眼鏡の奥の眼が据わっている。
けど、プリシアはまったく臆した様子もない。
「魅了って……例の話ですの?」
「いいよな――かわいげのある人柄というのは……。なんか、今までそんなこと考えたことなかったのに――。最近、ちょっと考えてしまうんだ……」
「ミシュレイは充分、可愛いですわ!」
プリシアがそう声をあげたので、『例の話』がなんなのかは判らなかったけど、僕も口を挟んだ。
「そうだよ、ミシュレイは充分、綺麗だよ」
「!!…………」
僕の言葉にミシュレイが驚いて、絶句してる。
な――なんか、まずいこと言ったか?
「き! 君の……そういうところが――」
そこまで言って、ミシュレイは顔を赤くして横を向いた。
と、プリシアが、微笑みながら口を開く。
「そういうところが――なんですの? ミシュレイ」
「う、うるさい!」
「ミシュレイはもっと自分に自信をもってもいいんですのよ。ねえ? クィード」
「うん、そう思うよ」
「――君は黙ってて!」
赤くなったミシュレイに怒られたので、僕はおとなしくすることにした。
宴は進み、夕食を終える頃にはライラは酔いつぶれていた。
「あらひは……むしょうの剣しぬぃ――」
寝言でもまだ剣のことを言ってる。よっぽど、剣術が好きなんだろう。
「それじゃあ先生、おやすみなさい」
「うむ……ゆっくり休むことじゃな」
ジャック先生におやすみを言って、僕らは僕らが造った小屋へと戻ってきた。
おぶってきたライラを寝かせると、ライラはもう寝息をたてている。
と、プリシアが口を開いた。
「クィード……ライラは治癒を受けましたけど、わたしたちは――」
僕が眼を向けると、プリシアとライラが服を脱ぎ始めた。




