2 レディアスの真意
レディアスたちが立ち去るのを見送ると、ミシュレイが呟いた。
「クイード……よかったのか? あいつを行かせて」
「うん、いいんだ」
僕は少し、複雑な想いで微笑した。
「それで……いいですよね、先生?」
「うむ――」
ジャックは生返事をする。それから僕らは、二人の滅竜士の埋葬を済ませた。
そしてジャックをプリシアが支えて、僕らはジャックの小屋へと戻ってくる。
皆が席に着いたところで、僕は口を開いた。
「一つ言っておこうと思うんだけど……レディアス・カミュは敵じゃない」
僕の言葉に、皆が驚きの顔になった。
「な――」「ど、どういうことなんだぞ、それは!?」「まさか……そんな――」
動揺する三人に、僕は言った。
「僕がプリシアに『翼の盾』を渡して、はっきり判ったんだ」
「なにが――判ったんだぞ!?」
ライラの声に、僕は応えた。
「龍王具は移譲できる。ただし、その相手も龍王具が認めないと――だけど」
「え? それじゃあ翼の盾は、わたしに譲られたんですか?」
プリシアの声に、僕は頷いた。
「うん、あの時は、それしか方法がない――と思ってそうした。そしたらうまくいったんだ。――けど、そうなると考えられるのは……『牙の鎧』を母さんがレディアスに移譲したってことだ」
ミシュレイが眼鏡の奥の眼を見開く。
「レディアスは奪ったのではなく――譲られた、ということか……」
「そう考えた方が自然だ。僕らの知ってる龍王具は、強い相手だからといって力づくで奪えるものじゃないだろう?」
「――確かに……」
ミシュレイが頷く。ライラも腕組みをして、うんうんと頷いた。
「じゃあ――レディアスはどうして敵のフリをしてるんですか?」
プリシアの問いに、僕は答える。
「レディアスは……『本当の敵』、つまり異魔人を探ってるんだ」
皆の顔に、驚きが走る。
僕はジャックの方を向いて、確認した。
「――そうですよね? 先生」
「うむ……」
ジャックは深く頷く。それを見たプリシアが、驚きの声を洩らした。
「先生は――レディアスが敵ではないと、最初から知ってたんですか!?」
「そうじゃ。まあ、敵を欺くにはまず味方から――お前たちがレディアスを見て敵視しないようでは、滅竜攻団にレディアスの真意がバレるからのう」
「すっかり、騙されたんだぞ」
ライラがちょっと不服そうに、唇を尖らす。
「つまり……滅竜攻団の上層部に――異魔人がいる。いや……滅竜攻団それ自体が――異魔人の意図によってつくられた組織、ということなのか?」
ミシュレイは、事の重大さが判ったらしい。
ほとんど震えるような声で、眼鏡の奥の眼を見開いていた。
「バカな……ボクは――そんな組織に……」
「ミシュレイ、過去より――大事なもんがあるだろ?」
僕の声に、ミシュレイははっと顔を上げる。
「――未来……これからのことが――」
「そう、大事だ。レディアスもそのために、組織の上層部に喰い込もうとしてるんだと思う」
僕がそう言うと、ライラが声をあげた。
「けどさあ、そこまで判ってたなら、もう仲間になったらよかったんじゃないのかだぞ?」
「いや――レディアスはまだ探るつもりだった。だから……僕に龍王具を移譲してくれたんだ」
プリシアが声をあげる。
「あれは――他の龍王具の呼びかけに応えたのではなくて、レディアスが移譲したんでしたの?」
「共鳴したのは確かだよ。だからこそ、牙の鎧も僕を主と認めてくれた」
僕は笑ってみせた。
「そう――レディアスは、最初から僕たちに協力するつもりだった……だから『本当の敵』、異魔人のことも教えてくれたんだ。レディアスは、僕が父さんからその話を聞かされてなかったことに、実は驚いていた」
僕はあの時のレディアスの反応を想い出した。
「それで――他の滅竜士が見ても不自然にならないように、僕らに情報をくれ、そして龍王具を移譲してくれたんだ。ジャック先生の脚を斬ったのも――あくまで滅竜士として行動してるという証のためだ」
僕がそう自分の推理を話すと、皆は驚きの顔でいきをついた。
と、ミシュレイがジャックの方を見る。
「けど先生、そのために――片足まで犠牲にするなんて……」
「なに、この脚はもう斬らねばならんかったのだ。レディアスは傷口から儂の病変を見て、斬る決断をしてくれた。――なかなかの名医じゃわい」
ジャックはそう言うと、カッカッカと笑ってみせた。
しかし、その後で真顔になって言う。
「じゃが、こうなったからには――儂もここを立ち去らねばいかん」
「え、なんでだぞ?」
ライラが驚きを隠さない。
「これでも無駄に名前がある身じゃからの。儂を倒して名前を上げようなんて輩がおらんとも限らん。特に滅竜士の中に、そういうのがいても厄介じゃ。儂は何処かで身を潜めることとしよう。……悪いが、お前たちとの稽古もここまでじゃ」
「先生……」
ミシュレイが切なげな顔をみせる。ジャックは、それを気にする必要はないと言わんばかりに笑顔をみせた。
僕は立ち上がって、ジャックに礼をする。
「先生、今まで――ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
三人も、席を立ってジャックに頭を下げた。
ジャックは、少し涙目になって、うむ、とだけ頷いた。
「まあ……そういう訳で、儂もお前たちも、明朝にはここを発たねばならん。お前たちが何処を目指すべきなのか――それを龍王具に訊ねる時が来たのじゃ」
僕はジャックに頷いた。そして皆を見る。
席を立ったまま、僕らはテーブルの上にそれぞれの手をかざす。
プリシアとライラが腕輪、僕とミシュレイが指輪を中心に近づけた。
「教えてくれ、龍王具。光龍王レイミアードは――今、何処に?」
僕らは眼を閉じた。
集まった龍王具たちが熱を持っているのが判る。
“精霊島”
不意に――なんの前触れもなく、その言葉が頭に浮かんだ。
僕は眼を開けた。皆も眼を開けている。
「今……判った?」
「うん、聞こえた――というより感じた、というべきか」
僕の問いに、ミシュレイが声をあげる。
そしてプリシアが、確信をもって口にした。
「精霊島――そう、教えてくれましたね」
「あたしにも、そう聞こえたんだぞ」
ライラがにぃ、と笑う。
一人、座っているジャックがそこで口を開いた。
「精霊島、と言ったか――」
「はい、先生」
「ふむ……精霊島は、精霊神を祭る、このアザルドの中でも特殊な地域じゃ。そして精霊と竜の間には、特別な関係があるとされている。――そこに光龍王がいても、不思議はない」
ちなみにだが――この世界で一般的な宗教は、創造神ゲイアニス(女性神)と秩序神オルドレイク(男性神)を敬うアザルド教だ。
しかし二神以外に、大地の精霊の長である精霊神アリアナを敬う土着の信仰がある。村のサラン婆ちゃんは、精霊神様を敬ってたな。
「精霊神アリアナと、竜との関係――プリシア、何か知らない?」
「精霊神は……わたしたち竜の創造神ですけど」
プリシアがなんでもないように、そう言った。
――僕らは一瞬の間の後に、驚きの声をあげる。
「「「え~っ!?」」」
むしろ、僕らが驚いたことに――プリシアは驚いていた。




