4 龍王具の呼応
ラムーは、身体の奥から来る震えを抑えきれなかった。
(わたくしが怯えている!? このわたくしが――)
水流の気配を感じて、ラムーは自らを四本の魔空帯で包んだ。
その魔空帯は、鳥かごのようにラムーを包んでいる。
魔空帯に当たった水流が、反転して返っていく。
「はぁはぁはぁ……」
恐怖で息があがり、ラムーは肩を揺らして呼吸をしていた。
(息が苦しい……こんなにわたくしが息を切らすなど――)
その屈辱に震えてラムーが唇を噛んだ時、ラムーはその息苦しさに違和感を覚えた。
「違う! ……これは、ただ恐がってるのではない。実際に――わたくしの周囲に酸素が足りないのだわ!」
「やっと気づいたかい? けど、もう遅いかもね」
霧の中でミシュレイの声を聴いて、ラムーは魔空帯の鳥かごの中で、きょろきょろと周囲を見回した。
「何処に隠れているの!? 姿を見せなさい!」
「そんなに叫んでいいのかい? 肺に水が入ってしまうよ」
その声を聴いた時、ラムーは口の中にたまる水分で、むせて咳き込んだ。
「な……なんなんですの…この水分は――」
「水中ではないけど――今、君の周囲は湿度150%だ。気付いているかい? 君の身体ももうびしょびしょだよ」
ラムーは自分の服を見た。それは、水からあがったように濡れている。
その時、ラムーは霧の中に影を見つけて、魔空帯をそこへ飛ばした。
「そこですの!」
魔空帯が影を斬る。しかしそこには、水が切られてばしゃりと壊れる音がした。
「水の柱?」
ラムーが眼を見開くと、今度は斜め後ろに影を感じる。
ラムーはそこにも魔空帯を飛ばした。
しかし、また水の柱を壊しただけ。
ラムーはしかし強気になって、声をあげる。
「フン、このままではラチが開かないわ。あなたもわたくしの反転壁を破れないのでしょう? ここは痛み分けということで――わたくしは引き下がってもいいわ。霧を晴らしなさい――そうしたら、此処から立ち去ってあげる」
ラムーはそう言って、引きつった笑顔をみせた。
しばらくの間があり、ミシュレイの声が聞こえてくる。
「……本当に、ここから立ち去るのね?」
「ええ。わたくしは立ち去り、任務は失敗だったと報告するわ。わたくしは、命を賭けてまで任務を果たそうとは思ってないの。それでいいでしょう?」
ラムーはそう言って、反応を待つ。
(霧を解いて、正体を現しなさい、クソ眼鏡! その瞬間に、ズタズタに切り裂いてやる!)
「……判った。霧を解こう」
ラムーの周囲の霧が晴れていく。
と、目の前に、薙刀を立てて持つミシュレイの姿が現れた。
「こンのクソ眼鏡があぁぁっっ!!」
ラムーは鳥かごを作っていた魔空帯を全部開放して、ミシュレイを襲わせた。
幾状もの魔空帯がミシュレイの身体を、その空間ごと切り裂く。
「ヒャーハッハァッ!! ざまぁないわ、このバカ女がぁっ!」
勝利を確信してラムーがそう叫んだその瞬間――ラムーは胸に衝撃を感じて、自らの胸を見た。
胸から――刃物が突き出している。
「な……なに…これ――」
背後からラムーを薙刀で突き刺したミシュレイが、静かに言った。
「意外に、本性の品性は下品だな……。お前が心底汚い奴で、よかったよ。――後悔しなくて済む」
信じられないものを思いでラムーは振り返ると、その口から血を吐き出した。
ミシュレイが薙刀を引くと、ラムーの身体が背中から地面に倒れる。
ラムーは信じられない想いで眼を見開いていた。
「ウソ……お前は――一体、何処にいたんだ……」
「あそこさ」
ミシュレイは少し離れた高い樹木を指さした。
ラムーはまだ納得できずに、口を開く。
「霧の中にいて……わたくしの姿は見えなかったはず――」
「それはこの『角の冠』の感知能力のおかげだ」
ミシュレイは自分の頭につけた黄金の冠を促した。
「ちなみに、この冠の力で光学魔法に近いものも操れるようになった。お前が最後に攻撃したボクの姿は、水と光の屈折によって作り出した映写像だ」
「そんな……バカ…な――」
金色の瞳を目いっぱいに見開くと、ラムーはごぼり、と口から血を吐いた。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
僕はレディアスを見つめながら、プリシアに声をあげた。
「プリシア、君なら『翼の盾』を本物の翼として使える気がする。上空から、槍で攻撃して!」
「判りましたわ。『翼の盾』!」
プリシアが、翼の盾を展開する。と、それを背中側に置く。
ぶわり、と黄金の翼がはためくと、プリシアの身体が宙に浮いた。
「クィード、行けそうですわ!」
「よし! ――行こう、プリシア!」
「はい!」
僕は内燃気渦を爆発させて、レディアスに迫った。
そして空中に、プリシアが飛来する。
「竜光槍!」
手に創り出した光の槍が、レディアスを襲う。
これならプリシアは、ほぼ反撃されることなく攻撃できる。
レディアスの顔に初めて焦りの影が見えた。
僕は咆哮をあげて、レディアスに拳を打ちこむ。
「オオォォォッ!」
僕の連打と、プリシアの連撃をレディアスは防いでいる。なんて奴だ。
しかし防戦だけかと思っていると、レディアスは隙を見て、僕に返し技をしてくる。
「ムッ!」
それをなんとか防ぐ一方で、プリシアの光槍がレディアスを襲った。
が、レディアスはその光槍に胸を向けると、牙が上下に開く。
「喰らえ、牙の鎧!」
鎧の牙が、光の槍を喰いちぎった。
なんて龍王具だ――凄まじい能力だ。
「フッ、二対一でも、私の優位は変わらない。この牙の鎧は、お前たちの攻撃を通しはしない!」
そうでなくても実力が高い上に、龍王具を身に着けている。
これは厄介だ。だが――その時、プリシアが叫んだ。
「牙の鎧! わたしたちの元に戻ってきなさい! お前の仲間は、こちらです!」
「ハハッ! 鎧に呼びかけているのかい? まったく、竜の考えることは、まったく支離滅裂だ」
レディアスは嘲笑するように、そう声をあげた。
しかしその直後に、別の声があがる。
「そんな事はないさ……龍王具には意志がある」
「そうなんだぞ。呼び掛ければ――きっと、本当の仲間が判るんだぞ!」
そこに現れたのは――ミシュレイとライラだった。
レディアスが初めて驚きの表情を浮かべる。
「バカな……お前たちがここに来るということは――」
絶句するレディアスの続きを、ミシュレイが言った。
「そう。『魔空操士』ラムーは、ボクが倒した」
「あたしもドグランダーをやっつけたんだぞ。……最後は結構、立派な剣士だったんだぞ」
僕は二人を見て、微笑んだ。
「さすが二人だ。よくやったね」
「ミシュレイ、ライラ! 龍王具に力を込めて――あの鎧の牙と共鳴させて!」
プリシアが二人に、強い意志でそう呼びかけた。




