3 ミシュレイvsラムー
倒れたドグランダーに、ライラは声をあげた。
「あたしの……勝ちなんだぞ――」
口から血を流したドグランダーが、笑う。
「そう…だな。さすが――『無双剣士』の弟子……」
ドグランダーは満足げに笑った。
「俺はずっと……弱い剣士だった…」
「何を言ってるんだぞ? あんたは、あたしが今まで戦ったなかで、一番強い剣士だったんだぞ」
ライラは正直なところを言う。それを聞いて、ドグランダーは自嘲気味に苦笑した。
「弱かったのさ……なかなか勝てなかった。純粋な剣の技量では……」
「それで――四本腕になったんだぞ?」
「ああ」
ドグランダーは目を伏せる。
「どんなやり方でも……人に勝ちたかった…。そして四本腕になったら、今まで純粋な剣の勝負で負けていた相手に勝てるようになった。俺は、これが俺のやり方なんだと――そう言ってきた」
ライラはドグランダーに言った。
「あんたの四本腕の剣――『死刀流』は、強かったんだぞ」
「けどな……どこかで負い目があった――。買った相手にも、もし一本の剣で勝負を挑んだら……そう思うことが止められなかった」
ドグランダーは、ライラの方を向いた。
「二刀流の使い手ならそれなりにいる……お前は、そういう相手なら、剣圧で押せると知ってたんだろう?」
「うん」
ライラは素直に頷いた。
それはブレッカーから習った剣技で、対二刀流の対策として学んだものだった。
「師匠から――習ってたんだぞ」
ドグランダーはそれを聞くと、満足そうに笑った。
「そうか……俺は、『無双剣士』の教えた技に負けたか――。やっぱり……本物は強いな――」
そう言うと、ドグランダーはゆっくりと眼を閉じる。
ライラはその姿を見て、目を伏せた。
満足げな笑みを浮かべたドグランダーは――もう話そうとはしなかった。
△ △ △ △ △ △ △ △
『魔空操士』ラムーと対峙したミシュレイは、眼鏡の奥から静かな眼を向けていた。
「自分の仲間をあれほど、ひどい目に合せる人間が上層部にいる組織――それだけで滅竜攻団という組織の性格が判る。……自分が元いた組織ながらな」
ミシュレイの言葉を聴いて、ラムーはその細い眼を線にして微笑んでみせた。
「そうですか、あなたが組織の裏切り者なんですね。……その報いは、当然、命で払うべきですわね」
「短絡で残虐な女だ」
ミシュレイは不快をあらわにする。
そのミシュレイに対し、ラムーは眼を開いて微笑んでみせた。
「わたくしのオモチャをとりあげた罪――あなた自身で払ってもらいますわよ」
ミシュレイは周囲からやってくる気配を感じた。
極薄の帯が、空間を切り裂きながらミシュレイに迫っている。
「水流螺旋壁!」
幾状もの水流が螺旋を描いて卵状のドームをミシュレイの傍に創り出す。
その水流は、ラムーの帯を一つずつ迎撃していた。
「……わたくしの魔空帯を――迎撃してる?」
ラムーが金色の瞳に、訝しむような色をみせる。
ミシュレイは口を開いた。
「言っただろう……アイナから、お前の力を把握するヒントを得たと――」
そう口にするミシュレイの姿が――段々とぼやけていく。
「これは……霧――?」
「ラムー――お前は空間を支配する魔法を使うが……ボクの空間を掴めるかな」
そう言ったミシュレイの姿が、完全に白い霧のなかに消える。
「くっ……霧だと――。小細工を!」
ラムーは魔空帯を、周囲の霧に対してやたらに展開した。
空間を切り裂かれた霧が、その部分だけ霧がなくなる。
――が、すぐに霧はまたたちこめ、ラムーの視界を消した。
と、ラムーは気配を感じて空間魔法を展開した。
「反転壁!」
向かって来たものを反転させる空間魔法を使う。
ラムーに向かって来た水流の攻撃を、ラムーは反転させた。
「フン、目隠しした上での水流攻撃――そんなもので、このわたくしが倒せると思ってるのかしら?」
「そんな簡単には考えていないけどね」
どこからか、ミシュレイの声がする。
(く……あの眼眼女――何処に潜んでるの?)
ラムーは気配を探るために、魔空帯を地面に這わせて自分を中心に三十六方に広げた。
(これでこの帯を踏めば、姿が見えなくてもあの眼鏡が何処にいるか判る)
ラムーは用心を怠らず、霧の中で周囲を警戒した。
しかし、魔空帯に反応する箇所がない。
(どういうことだ……まさか、三十六の帯の間に立っているのか? しかし、この霧の中なら、奴もこちらの姿を把握できないはず――)
ラムーがそう思った瞬間、ラムーは自らに迫る気配を感じて身体を動かした。
飛んできた水流が、ラムーの頬をかすめる。
「あぁっ!!」
ラムーの頬が切り裂かれ、血が流れ始めた。
「バカな……わたくしの位置を掴んでいるというのですか――」
ラムーは初めて――自らが得体のしれないものに襲われる恐怖を感じた。
(なんですって……このわたくしを恐れさせるなど――あっていいことじゃありませんわ!)
「魔空帯――乱れ舞!」
ラムーは三十六本の魔空帯を、縦横無尽に躍らせた。
ほとんど満遍なく周囲の空間を切り裂く魔空帯に、周囲の霧が一瞬だけ晴れる。
しかし、しばらくするとその霧はまた元に戻る。
しかも魔空帯に触れたものがない。
(どういうことなの? この周囲にいないというの?)
ラムーが訝った瞬間、水竜がラムーに襲いかかった。
「ああぁっ!!」
肩を抉られ、ラムーは地面に転がった。
肩の服が破れ、流血を始めている。
「ど…どうして、向うの魔法が使えるの? しかも霧の中で、こっちの位置を正確に把握している――」
「なぶられる側の気分はどうだ、ラムー? お前のことだ、さぞかし今まで、色んな相手をなぶってきたんだろう」
霧の中からミシュレイの声が聞こえる。
ラムーはその声が聞こえたと思う方に、魔空帯を振り回した。
しかし、切り裂いたものない。
「があぁっ!」
そう思っていると、今度は脚に水流が当たる。
ラムーは倒れて、足を抑えた。
大腿が抉られて、出血を始めている。
その手についた血を見て、ラムーは恐怖した。
「ヒッ!」
(このままでは……殺される!)
「このわたくしに向かって――下っ端の分際で!」
「そうやって他人を見下して……人を人とも思わぬ態度でやってきたんだろう? ――その報いを受けるがいい」
ミシュレイの声が静かに響く。ラムーは恐怖にかられて怒鳴った。
「この下っ端が! 下っ端の分際で! ――ブンザイでぇっ!」




