第三十一話 滅竜九鬼門との死闘 1 ジャック・ドゥルーズの戦い
向かって来るレディアスの顔面に突きを撃ち込む。
向うの勢いも加算され、威力は倍増するはずだ。その直撃が、レディアスの顔面を捉えた!
「むぅっ――」
レディアスの身体が吹っ飛ぶ。
「ぐ……」
僕は痛みを感じてよろめいた。僕の脇腹を――レディアスの気力刃がかすめていた。
脇腹から血が滴り、僕は手で抑える。
「クィード、血が!」
プリシアが声をあげて僕に駆け寄ってくる。
僕は膝をついて、自分の治癒を始める。
「大丈夫、自分でなんとか……」
眼が霞む――まだあばらの治癒も済んでない。その上で、脇腹の切り傷を治さなければ。
「竜の娘、小僧が治るまで時間を稼げ!」
ジャックが飛び出して、レディアスに襲いかかった。
しかし左足の動きが鈍く、いつもの力を発揮できてない。
プリシアも飛び出す。その手には巨大光剣が振り上げられている。
「よくもクィードを傷つけましたね! 許しませんわ!」
巨大な見かけに反する鋭い斬りつけ。だが、レディアスは白の刃を十字にして、巨大光剣を受け止めた。
「凄まじい力だ――さすが竜。しかし……」
レディアスが身を沈めて、プリシアを急襲する。
レディアスの刃が、プリシアの腹に向かって向かっていく。マズイ!
「キャアァッ!」
その時、プリシアの身体が吹っ飛んだ。
ジャックがプリシアを突き飛ばしたのだ。
「先生っ!」
ジャックは――片膝を上げて、レディアスの気力刃を受けていた。
その膝に、レディアスの白い刃が深々と刺さっている。
「先生ッ――逃げてくださいッ!!」
「逃がしませんよ!」
レディアスが腕を振った。
その時、僕らは見た。
「先生ぃっ!」
ジャックの膝から下の脚が、空中を舞っている。
ジャックは顔を歪めて苦痛に耐えている。
レディアスは口に笑みを浮かべていた。
「ぐ……」
ジャックが地面に倒れると同時に、その膝から下が地面に落ちた。
レディアスは凶悪な目つきでジャックを睨む。
「死ぬがいい、この老いぼれ!」
レディアスが気力刃でジャックに襲いかかる。
しかしそこにプリシアが竜光剣を持って割って入った。
「させませんわ!」
「どけ、竜! お前の出る幕じゃないっ!」
プリシアは元の長さの竜光剣で、レディアスに斬りかかる。
しかしレディアスはそれを見切り、受け流し、プリシアからの攻撃をよせつけない。
「所詮、姫様の遊戯なんだよ、竜!」
レディアスが怒鳴り、竜光剣を気力刃で跳ね飛ばす。
と、ガラ空きになった腹部に、レディアスはもう一方の拳にも創り出した気力刃を刺し込んだ。
「――な…に?」
が、レディアスの気力刃は、プリシアの腹には刺さってはいなかった。
プリシアの腹部を、翼の盾の翼がガードしている。
「なんだとっ!?」
僕がギリギリのところで、プリシアに向かって腕輪を投げたのだ。
それはプリシアの腕に嵌まり、翼の盾を展開したのだった。
「やっぱり……そうか」
僕は立ち上がった。
レディアスが僕を睨む。
「小僧……僅かながら生きながらえたようだな。しかしお前たちの戦力と、私の力の差は明白。おとなしく、死を待てばよいものを」
「いや――あなたに放った一撃は、効いている」
僕はレディアスに言った。
「僕の一撃を受けてからは、その速さも威力も落ちている。それを隠して動いていたけど……僕には判った。あなたは今、ギリギリのところで立っている」
僕の言葉を聴いたレディアスは、フッと笑った。
と、その口の端から血が滴る。
「見抜かれてしまっては、隠す意味もないだろう……。確かに、お前の一撃は私の顎を砕き、全身に衝撃を与えた。剛術の当てを完全にマスターしたようだな……。だからこそ、私はここで――お前を殺さなければならん」
レディアスの言葉を聴いて、僕はレディアスに一つ問いを投げかけた。
「あなたに訊きたいことがある」
「……なんだというのだ、この後に及んで」
「『本当の敵』――とは、何だ?」
レディアスの眼が、僅かに開く。
「……父親に――聴かされてないのか?」
僕は頷いた。レディアスが、憐れみの眼を向ける。
「そうか。お前がひ弱だったから、戦いに巻き込みたくなかったんだろう。健気な親の愛だ」
「お前は知ってるんだな? 『本当の敵』の正体を」
僕はレディアスを見つめた。レディアスも、僕を凝視している。
レディアスは、不意に息をつくと笑みを浮かべた。
「――『異魔人』」
イマジン? ……初めて聴く言葉だった。
「そう……レフィーナは言ってたな。とりあえず、そう呼んでいる、と」
「それは一体――なんなんだ?」
僕の問いに、レディアスは答える。
「姉弟子が言うには……『外宇宙の生命体』、だそうだ。にわかには信じがたい話だがね。だが、本人は真剣そのものだった。私はてっきり、姉弟子は頭がおかしくなったのだと思ったよ」
レディアスは嘲笑うかのように口元を歪め、言葉を続けた。
「けどなんでも、私たちのよく知る言葉で言えば『悪魔』、だそうだ。それなら、そうと言えばいいのにね。ただ、それだと完全に空想の産物だと思われる。だから敢えて、我々の世界の外側から来た存在だということを強調したかったらしい」
「それを聞いて……あなたはどうした?」
僕はさらにレディアスに問うた。レディアスが笑う。
「さっきも言った通りさ。戦いに協力するフリをしてレフィーナを襲い、龍王具を奪った。命までは取らなかったが――そのまま戦いに赴いた姉弟子は、帰らぬ人となったわけさ」
「そうか……」
僕はうつむいた。涙がこぼれてくる。
母さんの――最後の気持ちを……僕は知りたかった。
――僕は顔を上げた。
「レディアス・カミュ……龍王具を返してもらうぞ!」
「今の話を聞かせたのは、冥途のみやげだよクィード」
レディアスはそう言うと、降ろしたままの両手の拳に気力刃を出した。
△ △ △ △ △ △ △ △
四本腕のドグランダーは、凄まじい勢いでライラに連撃を繰り出していた。
ライラは『爪の剣』――黄金剣で、それをなんとか捌いている。
「くっっ――手数が多すぎるんだぞ!」
「手数だけだと思うなよ」
屈強な体格のドグランダーはそう笑みを浮かべると、変幻自在の攻撃を繰り出してきた。
そのうちの攻撃の一つに、ライラの剣が手から飛ばされる。
「あっ!!」
手から空中に跳んでいく黄金剣を見て、ライラが思わず声をあげた。




