4 龍王具『牙の鎧』
レディアスがほとんど瞬間移動とも思われる速度でプリシアに迫った。
すぐ傍に来たレディアスの姿に、プリシアが恐怖の表情を浮かべる。
「死になさい、竜!」
レディアスが手刀をプリシアの顔に突き出す。
ダメだ! けど――僕は動けない!
しかしその手刀の腕を、ジャックが上げ受けで跳ね上げていた。
「邪魔をするな! この老いぼれがっ!!」
それまでの平静さをかなぐり捨てた顔で、レディアスがジャックに怒鳴る。
と、レディアスは蹴りを放った。
しかしその蹴りを、ジャックが肘打ちで叩き落とす。
……そんな合わせが、可能なのか? 見ているこっちが信じられない思いだ。
「ぐぅっ――」
「老いぼれの一撃も、なかなかじゃろう?」
いきなりのジャックの連打! それをレディアスが、全て受けている。
レディアスは後方に跳躍して、間合いをとる。
「ところでこの新弟子は、どうやら柔術剛術の双方を身に着けたようですね。……あなたの思い通りの弟子ができて満足でしょう?」
ジャックはその言葉に対し、ぐっと詰まった顔をした。
「あなたは剛術に熱心じゃないレフィーナを破門にした後、柔術を覚えようとしない私を破門した。――あなたは結局、自分の思い通りになる弟子が欲しかっただけだ。弟子の私たちが、何を求めるなんて考えようとしなかった」
……なんだって? ジャックが――母さんを破門にした?
驚く僕に、レディアスは笑いかける。
「君も気を付けた方がいい。この人はね、自分の思い通りにならない人間をすぐに切り捨てる人間だ。『聖凱覇手』などと祭り上げられていたが、実像はただの独善者さ!」
僕はジャックを見る。ジャックは――重々しく口を開いた。
「儂は……気流躰術を正当に伝える使命がある。だから二人に、双方を学ぶように言ったまでだ」
「けど、それを嫌がると破門にした。そして――『竜災事変』の際も、その力を貸してくれと懇願するレフィーナをはねのけたんだ」
……もしジャックが――戦いにおいてその力を発揮していたら?
いや――『本当の敵』との戦いに、もしジャックがいたら……母さんは死ななかったんじゃないか?
「目先の戦いより……大事なことがある。――当時の儂は、そう考えた」
「世界の危機だったのにね! それより大事なことがあるとは、本当に驚きだ! 師匠に拒絶された哀れな姉弟子は、一人戦場へと向かったわけだよ。いいかい、クィードくん? このジャック・ドゥルーズというのはね、そういう身勝手な人間なのさ!」
レディアスはそう言うと、再びジャックに襲いかかった。
しかも龍王具の効果か、さっきより数段、速さも威力も増している。
「フフ……先生、動揺してますね? それに、どうやら足を痛めてるようだ。もう――先生の時代は終わりましたね」
レディアスは連続攻撃の中、ジャックの膝横に蹴りを入れた。
「ぐ……」
ジャックの顔が歪む。痛みを堪えながらもジャックはレディアスの顔面に突きを打つ。
それを後退してかわすと、レディアスは微笑んだ。
「これで動きは封じましたよ」
ジャックが足を引きずるように歩く。その横に先生を支えるように、プリシアが並んだ。
僕は治癒を続けている――はやく、この内臓まで受けた衝撃を治せ――
「もう一つ、この『牙の鎧』の特技を披露しましょう。それはね――私の気力を増大化して、光熱線に変えることです!」
そう言うと、金の鎧の牙のレリーフが、大口を開いた。
「二人いっぺんに消し飛ばしてあげましょう――『龍王の咆哮』!」
胸から巨大な光熱線が発射される。それはプリシアの竜光砲をも上回る大きさだった。
プリシアの竜光砲では対抗できず、逃げようにもジャックの足が動かない。プリシアとジャックは、迫って来る巨大光線をなすすべなく見つめていた。
「くぅっ………」
飛び出した僕は、『翼の盾』を広げて、二人の前に立っていた。
金の翼を広げた盾が、巨大な破壊光線を防いでいる。
光と熱が飛散し、辺りは発光に包まれていた。
「ぐ――う…」
まだ治癒が完璧じゃない。折れたあばらが痛み、口から血が洩れた。
「ほう……それが君の引き継いだ龍王具だね? さすがだね、この龍王の咆哮を受け切るなんて。しかし――君自身は限界近いじゃないか」
光線が止む。と、その瞬間にレディアスが迫っていた。
僕に向かって横蹴りを放ってくる。
「くっ!」
僕は翼の盾で、横蹴りを防ぐ。僕は、翼の盾の新たな使い方を思いついた。
「竜翼の風刃!」
黄金の翼をはためかせて、突風による攻撃を行う。
レディアスは両掌で気流渦をつくり防御したが、その身体は風圧で後方へ飛ばされた。
「……どうしてだ?」
「何がだい?」
僕には疑問があった。
「龍王具は持ち主を選ぶ……何故、あなたが龍王具を使えているんだ?」
僕の問いかけに、レディアスは笑い出した。
「そんなことかい! それはね、龍王具が強者を選ぶからだよ!」
「なんだって……?」
「私がレフィーナに勝ったから、龍王具は私を選んだ。それだけさ!」
そんなはずはない……いや、そうだったのか?
僕は光龍騎士のように、その使命に相応しい人間を龍王具は選ぶのだと思っていた。けど――
「まさか……僕が龍王具に選ばれたのも――プリシアから竜核授与されたから?」
人間離れした力。それを僕が得た――それだけの理由で、僕は龍王具に選ばれたのか?
「あなたは龍王具にふさわしくありません! 返してください!」
その時、プリシアがレディアスに対して声をあげた。
レディアスはそれに対して薄笑いを浮かべる。
「返してほしくば……私を倒すしかありませんねえ。しかし――できるかな?」
レディアスは両腕の拳を立てた。
その拳が白く光る。
「その龍王具の盾を破るのは、相当にしんどそうですね。しかし……」
その拳から、白い刃が伸びる。30cmほどの短いものだが、手の甲から直接伸びているような気力の刃。
「気力刃――とでもいうところか」
呟きとともにレディアスの姿が消える。
僕に襲いかかって来るレディアスに対し、僕は翼の盾を展開した。
「翼の盾!」
「さあ、能力比べといきましょう!」
黄金の盾に対し、レディアスが拳を突き出す。
その白い刃が翼の盾に衝突する。
翼の盾はあらゆる物を今まで防いできた。
しかし――このレディアスの気力刃は、翼の盾に突き刺さって来ている!
「これが龍王具の防御力……さすがですね――」
レディアスは白い刃を押し込んでくる。
端正な顔の割りに、やることはごり押しだ。
――と、ピキ、と何かが軋む音がする。まさか……
「貫け、我が刃!」
白い気力刃が突き破って、僕に向かってくる。
「くっ……こんな!」
盾を貫いた気力刃が、僕に迫ってくる。
僕はとっさに盾を腕輪に戻し、よりかかるものがなくなって勢いづいたレディアスの顔面に突きを撃ち込んだ。
「砕花崩閃破!」
ここなら牙の鎧の防御もない! 僕の拳がレディアスの顔面を歪めた。




