第三十話 新光龍騎士団 1 魔空操士ラムー
ライラがドグランダーの攻撃をすべていなしている。が、よく見ると、それは剣さばきだけで行っているのではなく、僅かな体移動が伴ってのことだ。
「最小限の動きで最大の効果を発揮してる――」
僕は驚いた。以前のライラは直線的な動きと大振りばかりあったが、そこに細かい動きと可変的な剣さばきが身についている。
「これが先生の指導の結果か……」
「確かに、あんたは強いんだぞ」
ライラは四本の剣を攻撃を受けつつ、口を開いた。
「けど、あたしの師匠ほどじゃないんだぞ!」
突然、ライラは相手に背を向けた。戦闘中に背中を見せる? 何を考えてるんだ、ライラ!
それは対峙するドグランダーにも驚きだった。四本の剣の動きが一瞬、止まる。
と、身を翻したライラが出発点を捉えづらい突きを出した。
「ムッ――」
ドグランダーが、右手に持つ剣で突きを防ごうとする。
が、その防御を撥ねつけ、黄金剣はまっすぐ進む。
「ヤアァァァッ!」
鎧を着るドグランダーの腹に、黄金剣が刺さった。
「ぐおっ――まさか……某の身体に当てるなど――」
背中の二本腕が、突きをさらに入れようとするライラに剣を振り下ろす。
ライラは一旦、離脱して、攻撃をかわした。
「四本の剣という数に頼りすぎていて、一つ一つが雑なんだぞ。……まるで、以前のあたしを見てるようだぞ」
ライラは苦笑まじりにそう言った。
――うん、この分ならライラたちは大丈夫だ。
「プリシア、僕は先生の後を追う。ここは頼んだ」
「判りましたわ」
僕はそう言って、ジャックとレディアスの後を追おうとした。
が、その瞬間、眼の前の風景が変わる。
「反転空間域」
先へ進もうとしていたのに――後ろにいたプリシアの方を向いて走っている。
一体……何が起きた?
「この一帯は、閉鎖空間にさせていただきました。あなた方に逃げ場はありません」
純白のボブ、細眼女性がそう僕らに告げた。
「あなたの魔法か?」
「そう。わたくしはラムー。『魔空操士』と呼ばれております」
「つまり……あなたを倒せば、出られるってことだ!」
僕は純白髪の女――ラムーに急進した。
が、そこに一陣の風を感じて、僕は跳び退いた。
避けた空間に、斬り込んできた奴がいる。
「『風雅の』ディラン……」
「フフ……ようやく、君と再戦するチャンスを掴みましたよ」
黒髪を長く伸ばしたディランは、そう言うと片刃の刀を横にして構えた。
「クィード・ロラン――この前はギルガインに獲られてしまったが、私も君との再戦を望む一人だったのですよ」
端正な顔に、ディランは嬉しそうな笑みを浮かべた。
しかし、その背後からラムーの声がする。
「手出しは無用です――ディラン」
「しかし……」
振り返るディランに、ラムーはその細い眼を開いてみせた。
中から覗くのは――金色の瞳。
「わたくしを庇ったつもりなのでしょう? ……出過ぎた真似だと知りなさい」
ラムーが金色の瞳を輝かせたかと思うと、その白い肌の腕を軽く振った。
ディランが一瞬で危険に反応し、刀を立てて防御する。
が、その刀が真ん中から切れた。
「な――」
驚くディランが、その口から血を吐く。
「ガハッ! ……バカな――いつの間に……」
「真っ二つにしなかったのは慈悲です。そこでおとなしくしてなさい」
防御した刀を斬った剣線で、ディランは腕と胸に横一直線の傷を負っていた。
小さく呻くと、ディランが地面に倒れる。
「なんだ一体――? 何を使った?」
「次はあなたですよ、クィード・ロラン」
ラム-が僕に向かって歩いて来る。まったく、急ぐ様子はない。
速さなら恐らく僕の方が上だ。
僕は横にいったん跳んで、そこから爆発的な急襲を仕掛けた。
「位相転換」
「な――」
いつの間にか――ラムーの姿が消えている。
気配は……後ろ!?
振り返った瞬間に、ラムーがその手を軽く振る仕草が見えた。
マズい! このままでは、ディランのように斬られる!
「水竜突閃破!」
突如、三匹の水竜が突進してきて、ラムーと僕に間に割って入った。
その水竜たちが、スパリ、と途中で断ち斬られる。
「ミシュレイ!」
「クィード……この人は――空間を切っている。そういう魔法だ」
ミシュレイが眼鏡の奥から、鋭い眼光を放って言った。
ラムーが微笑む。
「まあ、少しは魔法が判る者がいたようですわね。その通り、わたくしは空間魔法の使い手。しかしそれと知ったからと言って――防げるものではありませんよ」
しかしミシュレイは緊張した面持ちで口を開いた。
「確かに空間それ自体を斬ってしまうなら、物理的防御も気力による防御も通じないだろう。それでも……魔力による干渉ならば、魔力で妨害できるはず――クィード、この人の攻撃はボクがなんとかする。君は隙を見つけて攻撃して、この閉鎖空間を脱出してくれ」
「判った、ミシュレイ」
僕が頷くと、別の場所から声が上がった。
「と、いうことは? ……ワタシはその竜の娘を相手にしていいってことですよねぇ?」
声をあげたのは『氷華姫』アイナだ。口が三日月に見えるくらい、端を吊り上げて笑っている。
ラムーはそれを聞いて、不快そうな顔をみせた。
「あなた……ディランの様子を見てなかったのかしら? ――あなたも斬られないと判らないの?」
「ワタシが――斬れますかねぇ?」
静かな顔で凄むラムーに対し、アイナは挑発するかのように笑みを浮かべたままだ。ピクリ、とラムーの眉が動いた。
「下っ端が……身の程を知りなさい!」
アイナに向かって手を振る。
が、アイナは笑ったまま、扇を持った両手を胸の前で交差した。
「氷扇嵐!」
扇から生み出された吹雪が、ラムーとアイナの間に吹き荒れる。
と――ラムーの手から、白い極薄の帯状のものが出ているのが見えた。
「あ~ら、タネが見えちゃったんじゃありません?」
「……貴様――」
挑発的に笑みを浮かべるアイナに対し、ラムーが苛立ちをあらわにした。
「そうか……あれが空間魔法の担い手――」
あの極薄の帯はほとんど見えないものだが、それに触れた空間を切り裂く力がある。ディランの刀を斬ったのも、あの帯だ。
「言っておきますけどワタシの吹雪の中では……ラムー様の帯は、ミエミエですのよ」
愉快気にアイナが微笑む。
それを見たラムーが、不愉快そうな顔をみせた。
「それでわたくしの空間魔法を見切ったつもりなの? ……いいでしょう、わたくしを嘲笑った罰が、どれほど重いか知りなさい」
ラムーがそう言うと、両手を広げた。と、周囲を囲んでいた白いフィールドが凝縮していく気配を感じる。
その空間はアイナだけを虜にして、凝縮した。
「こ――これは……」




