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辺境の治癒士が竜姫と出会ったら ~癒しの魔法に女性たちはメロメロ!?~  作者: さとうはるか


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2 気流剛術――会得


 一瞬で寸断されたリオガを見て、ギルガインは顔をしかめた。


「元仲間でも容赦なしか――」

「こやつが某(それがし)に爪を向けたのでな。敵となったからには――斬り捨てる」


 ドグランダーはなんでもないように言い捨てた。と同時に、背中から生えていた二本の腕が消える。

 ドグランダーは、ギルガインに訊ねた。


「――で、お前はどうしたい? 滅竜九鬼門に代わりに入ろうというのか?」


 ドグランダーは、ギルガインにそう訊ねる。ギルガインは三白眼の眼で、ドグランダーを見つめた。


「それも悪くない――が、仲間を斬るような奴の傍では働けねえな。それに……現時点では、あの爺ぃに勝つことはできねえ。後はあんたらに任すさ」


 ギルガインはそう言うと、片手をあげて背中を見せた。

 立ち去るギルガインを見送ると、ドグランダーがこぼした。


「……相当に頑丈な奴だったな。リオガのライオンヘアーは、鋼鉄もねじ切るだけの威力がある。しかし、それをものともしてなかった」

「それ以上に硬かったのでしょう……しかし、その頑丈さを持ってしても、ジャック・ドゥルーズには敵わなかった」


 ラムーが感慨深そうに、そう声を洩らす。

 するとそこで、ずっと黙っていたレディアスが、ようやく口を開いた。


「ジャック・ドゥルーズの当身は、対象を内部・外部双方から破壊することができる。あの頑丈さをもってしても、耐えきることはできまい」


 藍色の髪をワイルドに伸ばしたレディアスは、そう口にする。


「しかし……ジャックが未だに、あの硬度の男をやすやすと退けたこと――まだ衰えてはおらぬということはよく判った」

「ふむ……やはり手合わせしたいものだな」


 レディアスの言葉を聴いて、ドグランダーがそう呟く。

 それを聞いて、レディアスは軽く微笑んだ。


「それが望みなら――いいだろう。まずは、お前に預ける」


 その言葉を聴いて、ドグランダーは不敵な笑みを浮かべてみせた。



○  ○   ○   ○   ○   ○   ○   ○



 ジャックの声に僕は反応する。


「有為即転!」


 連続で回転、これは敵の攻撃を躱しながら反撃する動き。


「昇噴撃!」


 これは跳躍しながらの膝蹴り。


「旋舞周脚!」


 跳び後ろ回し蹴り。そこで地面に降りた時に、ぐっと沈み込む。


「そうじゃ、そこで力を貯めて一気に出せ。砕花崩閃破!」


 剛術最大の威力の技の一つ、体内で旋気を創り出し、つま先から指先まで伝導した気力を縦拳の拳に込める。

 僕は打つように言われていた全長が5m以上ある大岩に、拳を打ちこんだ。


「破ァッ!」


 既に習ってた旋気内撃破と同じように浸透させる技だが、浸透させるのは旋気ではなく衝撃そのものだ。体内で渦のように気力が広がる内撃破とは違い、砕花崩閃破は、一気に全体を捉える。


 パァンッ、と空気の弾けるような音がして、大岩は粉々に砕け散った。

 これは大岩が固体だから起きる現象だ。これを人体などの生き物に打つと、全身を一気に襲うダメージになる。


 ……恐ろしい技だ。習った僕が言うのもなんだが、どうして人はこんな恐ろしい技を生み出したのだろう。


「うむ。……まあ、及第点じゃ。短い期間でよく剛術をそこまで身に着けたな。そして柔術と剛術、双方の戦い方を臨機応変に使うことこそ気流躰術の極意じゃ。それが充分に使えるようになった時、剛柔合わせた真の極意がある。――が、それはまだ先の話じゃがの」


 まだ先があるのか。なんて果てしない道なんだ。

 

「しかしクィード、お前は気流躰術だけでなく、その身につけた竜気がある。その竜気を己の気流躰術に活かしきる工夫をせよ」

「ジャック先生、剛術は確かに竜気と相性がよさそうです。剛術に竜気を援用すると、凄い威力だと思います。けど……」


 僕は少し、躊躇があった。


「――強すぎる、か?」


 ジャックは僕の心根を見透かしたように、そう言った。僕は頷く。


「強さをひたすら求める者も多い中で、お前は己が強くなることの恐ろしさを感じている。――面白い話じゃの」

「先生、僕は治癒士です。そもそも強さを求めてるのではなく、人や竜を癒して平和に暮らしたいんです」

「ならば武を捨てて、治癒士に専念するか、クィード?」


 僕はジャックにそう問われ、即答できなかった。


「お前の守りたい平和は、武によってしか得られるものではないのか。クィード、強くなることが即、誰かを傷つけることではない。お前はただ、自分の得た力の意味を理解し、それに慄いているだけじゃ」

「……今までは必死で――プリシアを守ることだけに夢中でした。けど、今の僕の力は――これを自分のために使おうとしたなら、大変な脅威になる力です。こんな力を……僕が持っていていいのか――」


 そう言う僕に、ジャックが軽く笑った。


「心配するな。お前の力なぞ、まだまだヒヨっこ同然じゃ。竜気も使って――儂にかかって来い」


 ジャックがそう言うと、不敵な笑みを浮かべる。

 僕はその戦いを楽しみにしてる師の凄みに、ごくりと唾を呑んだ。


「判りました先生――行かせてもらいます」


 僕はジャックから離れて間合いを取る。

 右前の構え。剣を持たぬ剣の構え――静謐にして爆動。


 外からは制止してるように見えて、中は気流渦が体内を駆け巡っている。

 これこそ新しく身に着けた気流渦の用法――『内燃気渦』。


 そして一瞬の静寂を切り裂いて――仕掛ける!


「ダアッ!」


 掌を突き出す。気流砲が発射され、ジャックに向かう。

 ほとんど動く気配がなそうに見えたジャックの姿が消える。


 ――いや、見えている。以前は見えなかったジャックの動きが、見えた。

 横に跳んだジャックを追い、僕は踏み込んで突きを出す。


 とん、と軽く落とされる。

 大きく崩すのではなく、敢えて軽く受け流すことで、こっちの勢いはそのまま維持されている。


 そのまま踏み込んでしまった僕の方に隙ができる。まずい、来る!

 顔面に向かって来る拳を、ギリギリのところで見切る。


 かわせた――ここから反撃に出る。触れろ、僅かでもいい。

 僕は脇腹を狙って手刀を横振りに繰り出す。


「ムッ――」


 ジャックが外側に足を曲げるように掲げて、僕の手刀を途中で止める。

 威力が乗る前に、手刀が膝で防がれた!


「が……」


 僕は手刀の力を抜いて、ジャックの膝をその手で抱える。


「なに――」


 僕はもう一方の手でジャックの襟を掴むと、膝と襟を持って後方に倒れ込むように投げを打った。

 柔術の投げではなく、剛術の中の『組み技』の投げ。完全に掴んで相手を投げる技だ。


 が、その投げを察知して、ジャックが先に跳んでいる。投げの方向に前転して、僕の投げを無効化する。


「ダアアアァァァッ!」


 すぐに身を起こしたジャックに、僕は急接近して連打を放つ。

 その全てがジャックの気流で防がれる。これは――柔術の防御!


 対戦してみると判るけど……これは凄く厄介な相手だ! 僕はこういう感じで戦ってたのか。

 普通に攻撃しても、多分、柔術の気流渦で防がれる。


 気流渦を崩して入るしかない。そのためには――


「ハアアァァァ……」


 竜気を高める。これを『内燃気渦』に組み込む。

 ボッ、という全身が燃え立つ気配を感じた。


 突っ込む――が、すぐに入りこまない。敢えて間合い内に留まり、ジャックの反応を見る。僅かに……左手が上がった。


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