第二十九話 滅竜九鬼門の到来 1 反動のギルガイン
ギルガインは、滅竜九鬼門の一人『獅子王』リオガに言った。
「お前は俺たちのことを『下っ端』と言ったな。そして『いてもどうせ役に立たねえ』と。確かに、あの爺ぃの処に行くんじゃ、役には立たねえかもしれない。だが、それをてめぇ程度の奴に言われることには、我慢がならねえ」
ギルアインはリオガを睨みつける。
金色のライオンヘアを持つリオガが、愉快そうに笑った。
「ヒャッハッハーッ! ザコがザコって呼ばれて、悔しがってるのか? じゃあいいぜ、お前がどれだけザコか、教えてやるよ!」
リオガがそう言うと、前に出る。ギルガインも間を詰めるように、前へ出た。
二人が対峙する。
「思い上がりを後悔させてやるぜ……」
「そりゃあ、こっちのセリフだろ? 愉快奴だなあ、ザコ!」
リオガの身体がいきなり変貌した。
躰に金の体毛が現れ、巨大化する。リオガは体高3mくらいの、ライオン人間と化した。
「グアアオゥッ!」
跳びかかるリオガの爪を、ギルガインは取り出したノコギリ剣で受けた。
しかし片手のままでだ。左手はだらんと垂れ下がっている。
「グアァゥッ!」
リオガがその鋭い爪で、ギルガインの脇腹や側頭部を狙うが、ギルガインはそれを片手で持ったノコギリ剣で、なんなく受けている。
「チ……やっぱり、この程度か――」
ギルガインはそう呟くと、左手を鋼鉄色の拳に変えてリオガの腹を殴った。
「ゴアアァッ!」
リオガが呻く。ギルガインはさらに、押し込むように前蹴りを放ち、リオガの顔面を蹴り飛ばした。
「ガフッ!」
呻き声とともに、リオガが吹っ飛ぶ。
倒れる寸前で、四足で踏みとどまったリオガに、ギルガインは言った。
「やっぱりてめぇは、クソ弱ぇ。そこで死んでろ」
「ハッ! この程度で、オレを見切ったつもりか? バカが!」
リオガは首を振る――と、そのたてがみが異常に伸びてきて、ギルガインを取り巻いた。
たてがみはギルガインに巻き付き、その動きを拘束する。
「ヘッ、動けねえだろ!? 今さら、泣いて詫びを入れても遅いぜ!」
リオガはそのたてがみを宙に持ち上げると、ギルガインを地面へと叩きつけた。
リオガは頭は左右に振って、ギルガインを右へ左へと叩きつける。
「ヒャッハーッ! どうだ、地面の味は!? 美味いだろう!」
リオガがそう声を上げて、もう一度持ちあげようとした時、そのたてがみが持ちあがらず、リオガは慄いた。
「なに? ……動かん――」
「くだらねえ技だ……これならクィードの投げの方が数倍効くぜ」
たてがみに拘束されているギルガインが、そう声を洩らす。
「黙って投げられてやったが、やっぱりお前、大したことないな」
「なんだと!?」
憤るリオガをよそに、ギルガインは気力の発光で、たてがみを焼き尽くした。
「なに!? オレのたてがみが――」
「今度はこっちの番だ」
ギルガインはノコギリ剣を肩に担ぐと、リオガに突進した。
その行く手をたてがみが迎撃しようとする。
が、ギルガインは向かって来るたてがみを、全て切り飛ばした。
「ウラアァッッ!」
ノコギリ剣を、思い切りリオガに叩きつける。
リオガはそれを後退して素早くかわすが、その下がり際に、ギルガインは流れるたてがみを掴んだ。
「ヘッ! 逃がしゃしねえよ」
左手でたてがみを引き寄せながら、右手のノコギリ剣をリオガの左肩に叩きこむ。逃げ場を失ったリオガは、思わず左腕を上げてノコギリ剣を防いだ。
「ぐうっ!」
ノコギリ剣が、左腕に喰い込む。が、そこからノコギリ剣は、二枚刃で振動を始めた。
「ぐああぁぁぁ――」
二枚刃の振動により、腕を斬り割っていくノコギリ剣。リオガは、慌ててギルガインの腹部に前蹴りを放ち、離脱した。
腕を押さえる。半分以上斬られていた腕からは、血が滴り落ちていた。
「次は頭をかち割ってやるぜ!」
ギルガインがそう言って突進しようとした時、不意にギルガインの見ている景色が変わった。
「位相転移」
リオガに向かっていたはずのギルガインは、もっと離れた場所に一瞬で移動している。
「なに!? ……何をしやがった?」
ギルガインは滅竜九鬼門の残り三人を見た。
純白の髪をした女性――『魔空操士』ラムーが、手をかざしている。
「お前か……妙な技を使うのは」
「あなたとリオガの位相を転換させてもらいましたわ。もう勝負はついてます、おやめなさい」
純白髪のラムーは、開いてるのか閉じてるのか判らない眼を向けて、そう静かに言った。
しかし、それを聞いたリオガが怒り出す。
「勝負はついてるだと!? オレはこんな奴に負けてなどいない!」
「往生際が悪いぞ、リオガ」
憤るリオガの前に踏み出たのは、『死刀流』ドグランダーだった。
その巨体の影がリオガの身体に差すと、リオガは怯えた表情をみせる。
「お、おい、待ってくれ……オレはまだ負けちゃいねえ――」
「その腕で何ができる? お前はもう任務に不要だ、帰れ」
「しかし――」
まだ何か言おうとしたリオガを、ドグランダーが睨みつける。
「お前からは滅竜九鬼門の名をはく奪する。無様に負けおって――恥さらしな」
吐き捨てるようにドグランダーが言うと、リオガがうなだれた。
その変身が解け、元の姿に戻る。
「立ち去れ、リオガ」
「……なんだ、てめぇは? リーダー面してオレに命令だと? ――てめぇの命令に従う義理はねえぜ! オレは好きにやらせてもらう!」
「立ち去れ、と言ったんだ。聞こえなかったのか、リオガ」
ドグランダーが、凄みのある声を響かせる。
が、リオガはもう一度、獅子人間の姿に戻り、ドグランダーを睨みつけた。
「オレは大体……てめぇの偉そうな態度が気に入らなかったんだよ!」
獅子のたてがみがドグランダーを襲う。――かに、見えた。
「なに!?」
襲いかかったたてがみが、全て断ち切られている。
そこにいたのは、四本の腕を持ち、その全てに剣を持ったドグランダーの姿であった。
「……四本腕――それが、てめぇの能力か……」
「二本の腕を仮現質で創り出す。お前のくだらない攻撃など、二本腕で充分だったが、曲がりなりにも九鬼門として肩を並べたお前に敬意を表した――。これで判ったか。お前はすぐに去れ」
四本のドグランダーは、厳しい顔でリオガに告げた。
リオガは口惜しそうな顔をしていたが、ギリ、と歯ぎしりをする。
「オレの攻撃を――くだらないだと……」
リオガはドグランダーを睨みつけると、その爪を伸ばして襲い掛かった。
「ナメんじゃねええぇぇっ!」
襲いかかったリオガの身体が、空中で制止する。
ギルガインはその様子を、驚愕の眼で見ていた。
「あが――」
一瞬の呻き。の後に、リオガの身体は空中でバラバラに四散した。
ギルガインにも見えない速さで、ドグランダーは四本の刀でリオガを切り刻んでいたのだった。
リオガの身体が破片と化し、地面に落ちる。ギルガインはそれを睨んだ。
「仲間でも……容赦なしかよ――」




