3 解散、攻魔四元将
ゼーレ司教の言葉に、ディランは疑義を挟んだ。
「案内……だけですか? 竜姫一味を征圧するのに、手助けが必要なのでは?」
ディランがそう言った時、奥から声が上がった。
「手助けぇ!? 下っ端の分際で、よくも思い上がったものだな!」
声の主が現れる。それはライオンヘアーの金髪で、両耳に輪っかのピアスをした男だった。
吊り目のキツい目つきのその男は、口元に笑みを浮かべながら言った。
「お前らなんざ、いてもどうせ役に立たねえ! 黙って道案内さえしときゃいいんだよ!」
「く……」
バルガスは憤りのあまりに飛び出しそうだったが、ディランに眼で制された。
ゼーレ司教は、口を開く。
「九鬼門の四人――『獅子王』リオガ」
ライオンヘアーの男が、にやり、と笑った。
それに続いて一際大きな体格の、鎧を着た男が口を開く。
「しかし我々を四人も召喚とは……そこまでするような事態ですかな」
目深にかぶった兜の下は、目元も覆われている。くり抜きの中から覗く眼は、ギン、と光を放った。
鎧は胸当てのみで、その隆起した肩が剥き出しになっている。異常なのは、その左右の腰に剣を差し、背中にも左右に一本ずつ剣を差してることだった。
「『死刀流』ドグランダー、不満があるのかね?」
ゼーレ司教の言葉を受けて、その巨魁の傍に佇んでいた女が口を開く。
「……それなりの相手、ということではないでしょうか。油断は禁物ですよ」
静かにそう言った女は、純白の髪を肩まで垂らしていた。
その白い睫毛の眼は閉じているかの如く細く、女の全身も華奢といっていいほど細い外観だった。
「『魔空操士』ラムー、よい判断だ」
ゼーレ司教が純白髪の女を見る。
そして最後の一人である藍色の髪を長めにした男が、冷厳な表情で口を開いた。
「むしろ相手は、その竜姫たちではなく、『聖凱覇手』ジャック・ドゥッルーズであることは明らか。そして師は……私が倒そう」
藍色の髪の男は、冷厳な表情のままそう口にした。
ディランが驚きの声を洩らす。
「師? まさか……ジャック・ドゥルーズの弟子――?」
「ジャック・ドゥルーズの最後の弟子、『砕鬼』レディアス。心強い言葉だ。九鬼門の四人よ、光龍王の娘とその仲間を討つのだ」
ゼーレ司教の命に、九鬼門の四人は頭を下げて応えた。
「おまかせあれ」
そうして九鬼門の四人と、ディランたちは部屋を退出した。
しかしその直後に、バルガスはディランに言う。
「おい、道案内なら二人いりゃ充分だろ。オレは抜けさせてもらうぜ」
「バルガス。勝手なことを――」
たしなめようとしたディランを、バルガスがギッと睨んだ。
「ハハン、連中と再会するのが、大方恐ろしいのだろう。何処へなりと消えな!」
『獅子王』リオガが、蔑んだような笑みを浮かべてそう言い放った。
バルガスはリオガを一瞬睨んだが、すぐに目を逸らす。
「そうさ。俺は連中が恐ろしい。――だから抜けさせてもらう」
バルガスはそう言うと、その場から立ち去った。
ディランは黙って、ただその背中を見送るだけだった。
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ジャック・ドゥルーズに稽古をつけてもらうようになってから、二週間が経っている。
僕はジャックから気流剛術を習っていた。
「上げ受けはただ相手の攻撃を上に逸らすための動きなのではない」
相手が突いて来るのに対し、上腕でそれを上に逸らすような動きの上げ受け。
それを見せた上で、ジャックは言った。
「突いて来なさい」
「はい。――ダァッ!」
顔面に向かって突きを入れる。が、ジャックの腕が僕の拳の軌道を逸らすと同時に、ジャックの拳が僕の顎に決まっていた。
こういう時に、ピタリと寸止めできること自体に感心するのだが。
「防御するだけでなく、攻撃にも使える。攻防は一体。守るだけではなく、常に攻めを考えるのじゃ」
「はい、先生」
「では基本の『竜乗』の型」
剛術には、柔術とは違う独り稽古の『型』がある。柔術は二人一組で、仕手と受けに分かれて演武する型が中心だったが、剛術の型は一人で動く型だ。
その中でも基本の『竜乗』の型は、足を開いて膝を曲げて腰を落とし、その姿勢を維持しつつ、突きを色々な形で繰り出すのが中心の型だ。脚をコの字の形に維持するのは、竜に乗っても落されないため――と、伝承されてるという。
僕は『竜乗』の型に続いて、『空破』の型を行う。
『空破』の型は『竜乗』よりも上位の型で、様々な動きをするが、それは皆、攻防の隠れた意味を持っている。型の中の動きを、実戦でどう使うか――というのは、先生に教わらないと判らない。
しかし型を一人稽古すること自体が、気持ちよく、僕は毎朝日課のように型稽古をしているのだった。
「――どうやら、客人のようじゃのう」
ふと、ジャックが呟いた。
僕は気配を探ってみる。確かに、誰かが山に入って来て、此処を目指しているのだった。
「先生、どうしますか? 滅竜士たちは、この場所を探そうと思えば判るはずです。来ているのも、滅竜士かもしれません」
「此処に来るのなら、目的があるのじゃろう。少なくとも徒党を組んでやってきたわけではなさそうじゃ。待ってやろう」
ジャックの言葉に従い、僕らはその気配の相手が現れるのを待った。
そこに現れたのは――赤髪を逆立てた男、『炎爆の』バルガスだった。
「――何をしに来た?」
僕はバルガスの前に立ちふさがった。事と次第によっては、すぐに応戦できる臨戦態勢だ。
赤い髪を逆立てたバルガスは、面倒くさそうな顔で言う。
「そう睨むな、別に戦いに来たんじゃねえ」
「じゃあ、何の用だ?」
バルガスは少しうつむくと、顔を上げた。
「……シュラと話がしたい」
そう言って、顔を上げたバルガスは、神妙な顔をしていた。
「もう『水禍の』シュラはいない。此処にいるのは、ミシュレイだ」
「面倒くせぇな……じゃあミシュレイでもい。とにかく、あいつに会わせろ」
バルガスの申し出を聴き、どうしようかと僕が迷っていると、背後からミシュレイの声がした。
「――構わないよ。話を聞こう」
振り返ると、眼鏡をかけたミシュレイが青い髪を風に揺らしている。
「ミシュレイ、いいのかい?」
「大丈夫だ」
ミシュレイはそう言うと、少し微笑んだ。
「判った、君に任す」
「うん」
ミシュレイは頷くと、バルガスを眼で誘った。
二人は連れ立って、少し離れた場所へと歩いていった。
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バルガスを誘ったミシュレイは、大木の木陰に入るとバルガスに振り返った。
「独りで来たのか?」
「そうだ」
バルガスは答えた。そして、さらに言葉を紡ぐ。
「イーストリアの方で――竜の一群が、人間を襲ったという事件を聴いた」
「……なに?」
バルガスの言葉に、ミシュレイは眉根を寄せた。
「ミシュレイ――オレには判らないんだ。どうしてお前が、オレたちを裏切ったのか。……判るように説明してくれ」




