3 最悪の再会
髭が左右で跳ね上がってる宿の主人は、知ってる風な感じで口を開いた。
「知ってるんですか? ネフィーラさんを!」
「あ、いえ、私は知りませんが――もしかしたら、冒険者ギルドで訊くと、知ってる人がいるかもしれませんよ。冒険者なら、登録もしてるでしょうし、依頼者として名前が判るかもしれない」
「あ、そうなんですか! ありがとうございます」
僕は礼を言って、頭を下げた。
「朝御飯を食べたら行ってみようと思います。場所を教えてもらえますか?」
「ああ、それなら――」
主人は少しすると戻ってきた。
「この街の地図をどうぞ。別料金ですけど」
「ありがとうございます、いただきます」
なかなか商売上手だけど、いい人だ。
僕とプリシアは朝食を食べると、早速、宿を出た。
地図を片手にギルドを探す。
やっぱりダリアードの街は人で溢れていたけど――
昨日とは違って、街のにぎわいはちょっと輝いてみえた。
朝市では沢山の物が売られ、買い物客と店の人の笑い声がとびかっている。
僕とプリシアは目を輝かせながら、街の豊かさのなかを歩き見回った。
と、やがて石造りの堅牢な建物に行きつく。
「ここが冒険者ギルドか――入ってみよう」
僕とプリシアは中に入った。中では鎧とかローブとかをまとった冒険者が沢山いる。
「お、新人か? 見慣れない顔だな」
「随分な美人連れてるな」
何人かのいかにも屈強な男が、笑いながら話しかけてくる。
「あ、あの……受付って何処ですか?」
「ああ、奥だよ。ま、頑張りな」
冒険者の男は、僕にそう笑った。
なんか見た目は恐い人だと思ったけど――そうじゃないんだな。
考えてみたら、昨日の盗賊の男は、見た目は親切そうだった。
見た目で騙されてちゃいけないんだな。街に来て、一つ学習したぞ。
奥に行って受付のカウンターに向かう。
受付には、黒髪で青いフレームの眼鏡をかけた女性がいた。
「あの、すみません」
「はい。新しい人ですね、冒険者登録ですか?」
「あ、いやそうじゃなくて……人を探してるんです。ネフィーラさんって方、ご存知ないですか?」
青眼鏡の女性は、少し怪訝そうな顔をする。
「本来、個人情報は洩らせないのが原則なんですが――ま、ネフィーラさんのことなら問題ないでしょう」
「問題ないってのは……どうして?」
僕が訊くと、青眼鏡の女性は素晴らしい微笑を浮かべた。
「ネフィーラさんは有名人ですからね。知らない人の方が珍しいくらいですから――今さら隠すのもヘンなんですよ」
そ、そうなの? ……叔母さんて、どういう人?
「あの……それじゃ住んでる処とかは――」
「あ、それは判らないですね。そもそも冒険者は定住してない方も多いですし。二、三日待ってれば、ギルドにふらっと来ると思いますよ」
「二、三日か……」
僕はプリシアと顔を見合わせると、ギルドを出た。
「二、三日かぁ……どうしようかな。また前の宿に戻って、しばらく泊まるって言った方がいいかもしれないね」
「そうですね! また二人で泊まるの、いいと思いますわ!」
なんかプリシアは嬉しそうにそう声をあげる。
とりあえず体調はよさそうだし……プリシアが喜んでる顔が見れるなら、それもいいか。
そう思って、僕らは元来た道を戻り宿に向かおうとした。
その時、目の前に現れた男に、僕らの顔が凍り付いた。
「おいおい……朝っぱらからデートしてるとはな――探す手間が省けたぜ」
「滅竜士の……ギルガイン――」
僕は絶句する。こいつ、僕らを探してたのか?
鈍色の髪をしたギルガインは、僕らを見るとにやりと笑った。
「昨日はよくもやってくれたな……今日は――逃がしゃしねえぜ!」
いきなりノコギリ剣を抜くと、その切先をプリシアに向ける。
「鋼鉄の礫!」
金属片が魔法で飛んでくる。僕はプリシアの前に立って、左腕を立てた。
「翼盾!」
なんとか飛んできた金属片を防ぐ。けど、広範囲に飛ばされた金属片は、周囲にも飛び散っていた。
「うわっ、なんだ!」
「い、痛いっ!」
飛び散った金属片が、通りすがりの人たちを傷つけている。
僕は声をあげた。
「やめろ! 街の人がまきぞいになってるじゃないか!」
「お前らが俺に殺されれば――それ以上、まきぞいを増やさなくて済むぜ」
ギルガインはそう言うと、ノコギリ剣を担いだまま突進してくる。
僕はプリシアに近づけないために、自分からギルガインに向かっていった。
「死ねっ!」
ギルガインが剣を振り下ろす。僕はそれを翼盾で防いだ。
既にノコギリ剣が唸りをあげている。盾とノコギリ剣が軋みあう処で、火花が散った。
「おとなしく、あの女をよこせ!」
「絶対に、お前なんかに渡さない! 誰にも傷つけさせないぞ!」
僕は右拳を出すが、それが空を切る。と、ギルガインが斬りつけてくる。
僕はそれをなんとか盾で防ぐ。僕は攻撃を止めて、拳で殴りつける。
「力は強いが素人だな! 動きが丸見えなんだよ!」
僕の拳がかわされたと思った瞬間、逆に僕の胴体に横蹴りがぶちこまれた。
「う……ぐ――」
凄い威力だ。なんとか飛ばされないように踏ん張るが、少しよろける。
そこをギルガインは、斬りかかってくる。
「くそぉっ!」
僕は昨日のように、盾をかざしながらギルガインに突っ込んだ。
が、僕の突進が空を切る。
「同じ手を二度も喰うか!」
僕の前にギルガインはおらず、いつの間にか後ろに回り込まれている。
と、僕の背中に焼け付くような痛みが走った。
「グワァァァッ!」
背中を斬られた。
「クィード! 竜閃光!」
プリシアの叫び声が聞こえる。と、プリシアはギルガインに向けて指先から光線を発射していた。
が、ギルガインはその光線をノコギリ剣で弾き返す。
「死ね、竜!」
ギルガインがまっすぐプリシアに向かう。しまった、このままじゃプリシアが襲われる!
僕は必死になって、ギルガインに飛びついた。
「く――離せ!」
「放すものか!」
僕は地面に倒れ込みながらも、ギルガインの足首を捕らえていた。
ギルガインが、僕の顔を何度も蹴る。
「このっ! 離せって言ってんだよ!」
「ぐ……この――やめろぉっ!」
僕は足首を持ったまま立ち上がりざまに、ギルガインの身体をプリシアとは逆方向に放り投げた。
地面を滑るように吹っ飛んでいくギルガインが、途中で跳ね起きる。
「この野郎……てめぇも殺してやる――」
ギルガインは口元を手首で拭いながら、凄い目つきで睨んできた。
ギルガインが突進してくる。本気の一撃だ――!
が、その途中で突然、ギルガインの身体が宙に舞った。
僕の眼の前に、紫の髪を長めにした人の背中があった。




