2 プリシアと二人の夜
抱きしめたプリシアが、僕の腕の中で濡れた瞳を向けてくる。
その瞳と唇が光っていた。
「プリシア……」
僕が思わずその腕に力を込めようとした時、不意にノック音がした。
「――お食事持ってきましたが~!」
思わず我に返って、僕は跳び退いてベッドから降りた。
「あ、は~い、今、開けます!」
動揺を押し殺しながらドアを開けると、はね髭の宿の主人が料理を持って入ってきた。
と、なんか僕の顔を見て、妙な顔をする。
「もしかして、お邪魔でしたかな?」
「いえいえ、全然! うわぁ、美味しそうな料理ですね!」
僕がそう言うと、はね髭の主人は嬉しそうに笑った。
「うちのかみさんの料理は結構な評判でしてね。まあ、味わってください。あ、食べ終わった食器は、部屋のドア傍に置いといてください」
「はい、判りました」
僕がそう返事をすると、主人はまた妙な眼で僕を覗き込む。
「それじゃあ……ごゆっくり」
そう言うと、うっすらと笑って主人は出て行った。
ちょっと! 何を勘ぐってんだか――
「じゃあ――夕飯にしようか!」
「うん! わたし……人間の料理、大好き」
そう言ってプリシアは微笑んだ。よかった、少し元気が出たみたいだ。
小さなテーブルで、二人で夕食をいただく。
「美味しい! 凄く美味しいわ」
「そうだね。おかみさん自慢の料理だけのことはある」
僕はそう言って笑った。プリシアも、リラックスした顔で微笑んでいる。
「けど……わたし、最初に食べたクィードの料理が好きだわ」
「そう? あれ以外にも、結構レパートリーあるんだよ。料理は嫌いじゃなかったから、12歳頃から食事は僕が作ってたんだ」
「クィードの料理、もっと食べたいな」
「これからきっとご馳走する機会があるよ」
僕はそう言って笑った。
やがてお腹が満たされると、想い出したように疲れが襲ってくる。
「それじゃあ、そろそろ寝ようか。プリシアはベッドを使って。僕は床に寝袋しいて寝るから」
「え……一緒に寝ないの?」
プリシアが、不安げな顔で言う。僕は苦笑して見せた。
「結婚してない二人は、一緒に寝たりしないんだよ。大丈夫、ちゃんと傍にいるから。――安心して寝て」
「うん……」
少し寂し気な表情で、プリシアは頷いた。
そしてプリシアはベッド、僕は床で寝る。灯りを消して、横になった。
「おやすみ、プリシア」
「おやすみなさい、クィード」
疲れのせいもあってか、僕はすぐ眠りに落ちた。
――けど、どれくらい寝たのだろう。何か異変を感じて、僕の眼が覚めた。
「う……うぅん……くぅ――」
プリシアの苦しむ声だ! 僕は一気に覚醒した。
灯りをつけてプリシアを見る。
ベッドの上で、プリシアは悶え苦しんでいた。
「プリシア!」
声をかけても、プリシアは起きない。その顔は、苦痛に耐えて汗ばんでいる。
タンクトップの脇腹を見ると、白骨の竜の紋章が紫色に光って浮かび上がっている。
「いけない! 治癒!」
僕は治癒魔法をかける。と、苦しむプリシアの顔が、少しずつやわらいでいった。と、プリシアがうっすらと目を開ける。
「プリシア、大丈夫!?」
「うん……だいぶラクになった――」
少し苦し気だけど、微笑しながらプリシアが言う。
「もう少し、治癒をかけとくね」
僕は白骨の竜の紋章が、その光を鎮めるまで治癒をかけることにした。
治癒の光を紋章に浴びせる。
「あン……んくぅ……」
プリシアが顔を赤らめて、喘ぎ声をあげる。
「んんーっ……あ…はっ、ンっ……くぅン――」
プリシアが身をよじらせる。僕は心配になって訊いた。
「大丈夫? 痛むの?」
「いぇ……あの…気持ちよくて――」
プリシアが恥ずかしそうに、赤らめた顔を見せる。
「そ…うなの?」
「はい……」
「あの…イヤだったら、このくらいでやめとくけど――」
「いえ! あの……もっと……」
プリシアが恥ずかしそうに口元に手を寄せて、眼を伏せがちに横を向く。
こんな時になんだけど――それが凄く可愛く見えて…
「じゃあ……もうちょっと、かけとくね――」
「お……お願いします……」
小さな声を出すプリシアに、僕は手をかざした。
「あぅンっ――」
びくり、とプリシアの身体が揺れる。僕はそのまま治癒の光を当て続けた。
「あうふぅ……ン…んン――あっ、あ、はぁン――っくぅ……」
しばらく治癒を施すと、プリシアの身悶えが激しくなりだす。
「アッ、はあンッ――ンっ、あ、ああっ、アァンッ――」
やがて一際大きく身体をのけぞらせると、プリシアの声がやんだ。
「はぁ……はぁ…はぁ……」
「大丈夫、プリシア?」
「あ……はい…だいじょう…ぶ…です……」
顔を赤くしたプリシアが、僕を見ないようにか横を向いてそう囁いた。
ちょっと――ドキドキしたけど、とりあえず痛みは治まったみたいだからよかった。
「それじゃあ、もう寝れるかな? ゆっくりおやすみ」
僕はそう言ってベッドを離れようとした。と、僕のシャツが後ろから引っ張られる。
え、と思って振り返ると、プリシアが恥ずかしそうにしながらも、僕のシャツを掴んでいた。
「あの……一緒に…寝てください。その方が、安心して眠れそうだから……」
僕は少し驚いたけど、微笑してみせた。
「わかった。いいよ」
「……ありがとうございます」
僕がベッドに身を横たえると、プリシアがぴと、と、くっついてくる。
プリシアの柔らかい身体の感触が僕に触れて、その長い睫毛がすぐ傍に見えた。
「わがまま言ってごめんなさい……けど、なんだか安心して寝れる気がします」
「そう。それならよかったよ」
僕は安心どころじゃないかもだけど! 女の子と一緒に寝るとか、もちろんしたことないし!
けど、僕が緊張してちゃ、プリシアが安心して寝れないかもしれない。
僕がゆったりと構えてないと。
「おやすみ、プリシア」
「おやすみなさい、クィード」
その夜は僕もゆっくり休み、翌朝、朝食をとりに食堂へ降りた。
と、はね髭の主人が、にやにやしながら近づいてきて僕に囁きかける。
「昨夜はお楽しみの様子でしたね。けど、隣の部屋の客にも刺激が強いから、ほどほどにお願いしますよ」
「ちょっと! そういうのじゃありませんから!」
「いやぁ、若いっていいですなぁ」
なんか一人納得して、主人はニコニコしてる。敢えて説明するのも大変なので、僕は別のことを話しかけた。
「ところでご主人、この街でネフィーラって人、知りませんか?」
「ああ、それなら――」




