第三話 滅竜士と柔術 1 滅竜士との戦い
僕は自分の左腕に現れた光の盾を見た。
ブレスレットから放たれた光は、腕先の方が尖った緩い五角形をしている。
その左右に、小さな翼のような飾りがついていた。
「翼……? 翼の盾?」
父さんがくれた金のブレスレットに、こんな秘密があったなんて。
しかし驚いてる間もなく、鈍色の髪の男は急襲してくる。異常な速さだ!
「俺のチェンソー・ブレードを受け切るだと! ナメるな!」
斬りかかる男の剣を、翼盾で受ける。男はすぐに剣を戻し、連撃を加えようとする。
僕は空いてる右手で、また男の腹を殴ろうとした。しかし、今度は男も素早く後退してかわす。
「二度も同じ手が通じると思うか!」
男がそう吠えて向かって来ようとした時、プリシアの声が響いた。
「竜閃光!」
プリシアが人差し指から光線を放つ。
が、男はそれを、剣を持ってない左掌で受け止めた。
白く光る男の左掌は、光線をものともしてない。
「そんなチンケな技で、滅竜士を傷つけられるとでも思ったか?」
男は光線を受けたまま、ノコギリ剣を担ぐ。
と、それをプリシアに向けて振った。
「鋼鉄の礫!」
振った剣から、金属片が大量にプリシアに向けて飛来する。
僕は慌ててプリシアを翼盾で庇った。
「なんて奴だ、魔法まで使ってくる!」
なんとか鋼鉄の礫を防ぎきるが、男は余裕の笑みを浮かべた。
「魔法も使うのが、俺の流儀さ。俺の名を教えておいてやろう。お前たちを殺す男の名は、ギルガイン。『鋼鉄の』ギルガインだ」
ギルガイン――そう名乗った男が、剣を横に構えて猛進してくる。
こいつは相当に強い。こいつ相手に、防戦一方では守り切れない。
……僕だって、プリシアから竜の力を貰ったんだじゃないのか?
このままやられる一方じゃ――プリシアを守り切れない!
「オオオォォォッ!」
僕は咆哮して、向かって来るギルガインに正面から突っ込んだ。
「俺を相手に――正面から挑むつもりか、小僧!」
「ウオオォォッッ!!」
ギルガインのノコギリ剣が僕の頭上を襲う。
僕は左腕の翼盾を前に押し出しながら、そのまま突進した。
ノコギリ剣が翼盾に当たるが――斬り割れない。
僕はそのまま、翼盾をギルガインに押し込んだ。
「な――なんだとぉっ!」
「ウワアァァァッッ!」
踏ん張ろうとするギルガインを無視して、僕はそのまま突進してギルガインを壁まで押し込む。
「むっ――ぐぅ……」
壁に背中からぶち当たったギルガインが、僅かに呻く。
僕は左腕の翼盾でギルガインの上半身を抑えつけながら、右のフックをギルガインの脇腹にぶちこんだ。
「ウラアァァッ!」
「ぐおぅっ――ご…ふ――」
ギルガインが呻く。僕は跳んで後退し、壁に押し込まれたギルガインの様子を窺った。ギルガインが、口から血を垂らす。
「う……ぐ――」
そのままずるりと、ギルガインの身体が地面に崩れ落ちる。
どうやら――倒したようだ。
「ふぅ……うぅむ……」
緊張が解け、安堵のため息が洩れる。と同時に、不意に斬られた胸の痛みが襲って来た。
「うわ――痛……」
「大丈夫、クィード!?」
プリシアが心配そうな顔で駆けつけてくる。僕は苦笑してみせた。
「大丈夫、ちょっと痛いけど。まあ、自分で治しとくよ――治癒」
しかし、血は止まったものの、傷がふさがらない。
そして胸に大きな傷を残したまま、もうこれ以上、治癒できなくなった。
「これって……僕が、君の竜核を得たからか。僕も滅竜士の呪いを受けるってことだ――」
「クィード、わたしのために……」
プリシアが涙目になって僕を見つめる。あわわ、泣かしちゃいけない!
「大丈夫! 男の子だし、これくらい全然、平気だよ。それより、あいつが気づく前に、ここを立ち去ろう」
「うん」
僕らは足早に、その場を立ち去った。
少し遠ざかってから、僕らは宿を探した。なんとか一軒、宿を見つける。
「お泊りで?」
「はい。二部屋空いてますか?」
宿の主人に僕がそう言うと、袖を引く気配に、僕は振り返った。
プリシアがうつむいて、僕に小声で言う。
「クィードと離れるなんて……わたし、不安だよ……」
「そ、そうか」
確かに。こんな物騒な街で、いきなり危険な目にあって、それで一人になるのは不安だろう。
「すいません、やっぱり二人用の一部屋で」
「う~ん、今日はツインはもういっぱいで。ダブルなら空いてますが?」
左右にはねてる口髭の主人が、そう言う。……ということは、ベッド二つの部屋はなく、大きなダブルベッドの部屋だけってことか。
けど、もう他の宿をあたる気力もない。まあ、僕は野営用の寝袋で、床で寝ればいいや。
「じゃあ、それでお願いします」
「はい、ありがとうございます。食事を部屋に運ぶこともできますが? もちろん、追加料金ですけど」
「お腹もペコペコだ。お願いします」
そう言って僕らは二階に連れられて、大きなベッドのある部屋に案内された。
「朝食は料金に入ってるんで、明日の朝、下の食堂に来てください」
「判りました」
そう言って宿の主人が出て行くと、僕らはやっと落ち着いた。
「ふぅ……いきなり、大変だったね」
なんか返事がない。見ると、プリシアが、ベッドに腰かけて神妙な顔でうつむいている。
よく見ると、その身体は微かに震えていた。
「プリシア……」
僕は傍にいって、隣に腰かけた。
「恐かった――よね…」
僕の言葉にプリシアは、涙に潤んだ瞳を向けた。
が、またうつむく。
「あの人……わたしの竜閃光がきかなかった……」
プリシアが震える声で話し始める。
「わたしの脇腹を刺した滅竜士もそうだった……わたしの技が全然きかなくて――わたしは…殺されると思って――」
プリシアの声が、そこで息詰まる。恐怖の記憶を――想い出してる眼だった。
僕は思わず、プリシアを抱きしめた。
「プリシア、大丈夫だよ、心配しないで」
「クィード……」
僕に抱きすくめられたプリシアが、涙目で僕を見つめる。
「どんな奴が来たって……君を守るよ。だって君は、何も悪いことはしてないんだもの。君が殺されていい理由なんて――一つもないんだ」
「クィード……」
プリシアの眼から涙がこぼれ落ちた。と、プリシアは、頭を僕の胸に預ける。
「クィード……出会ったのが、クィードで…本当によかった」
「僕も――プリシアに出会えたこと……幸せに思ってるよ」




