4 ジャック・ドゥルーズの武術修行
僕たちがジャックを訪ねると、ジャックは自分の家からおもむろに出てきて、僕らの丸太小屋を眺めた。
「本当に一週間で作りよるとはのう」
「え? そういつもりじゃなかったんですか?」
「まあ、できたら、そのくらい早く――という意味じゃったんじゃが。それぞれの特性を活かして、頑張ったようじゃな」
ジャックにそう言われ、僕らはお互いに笑顔を見せあった。
「よかろう。約束通り稽古をつけてやる」
「やったぞ!」
ライラが喜びの声をあげるなか、ジャックは厳しい眼を向けた。
「ただし、お前たちは戦い方も課題もバラバラじゃ。同じ稽古をつけても、これ以上の上昇は望めん。なので、それぞれ個別の課題を与える」
「よろしくお願いします!」
僕が声をあげて礼をすると、ジャックは軽く頷いた。
と、まずライラを見る。
「まず、小娘!」
「小娘じゃないぞ、ライラだぞ!」
「小娘で充分じゃ。おぬしはこれを使え」
ジャックが手渡したのは、木製の小刀だった。
「……これ――かだぞ?」
「そうじゃ。そして龍王の娘」
「プリシアです」
プリシアが名乗る。ジャックはプリシアに、かなり幅広で大きな鉄剣を渡した。
「おぬしは――竜娘と呼ぶか。おぬしはこれを使え」
「こ……これですか?」
ジャックは頷く。
「元が竜じゃ。持てんことはあるまい」
「は…はい――」
戸惑いながらも、プリシアは巨大な剣を持つ。
しかし、やはり重たいらしく、ぐっと下がったところをなんとか踏みとどまる。
「一応、刃は入っとらんから、心配するな。――が、当たれば骨くらいは容易に折るぞ」
ジャックの言葉に、プリシアはごくりと唾を呑む。
「――で、お前たち模擬戦をやれ」
「あたしと――プリシアがだぞ?」
ライラの問いに、ジャックは頷いた。
「そうじゃ。お互いに本気で相手を倒す気で行け。幸い、ここには治癒士がおる。少々の怪我をしても大丈夫じゃ。ただし――他の武具を使ってはならん」
ジャックはそう言うと、僕の方を見てにっと笑った。
「お前たちはまず、この二人の戦いを見ておれ」
「「はい」」
僕とミシュレイは頷いた。
巨大な剣を持ったプリシアと、木小刀を持ったライラが向かい合う。
「始めよ!」
「ウラアアアァァァッ!」
ライラが躊躇なく、突進する。
が、巨大剣を持っているプリシアの眼がギン、と据わった。
「ハッ!」
巨大剣をブン、と横なぎに振る。それが巨大剣とは思えないほどの速さだ。
突っ込もうとしていたライラは、慌てて急停止して剣をかわす。
剣をかわされたプリシアは、その巨大剣の重さに振られて横に傾く。
「あ……」
「ダアッ!」
そのよろけたところを狙って、ライラが小刀を突き出す。
が、それが届く前にプリシアが巨大剣を盾のようにして小刀を防ぐ。
と、プリシアは巨大剣を返して、ライラに斬りつけた。
ライラが小刀で受けようとして、その武具の小ささに我に返る。
「くっ!」
小刀で巨大剣を受けた瞬間、巨大剣は小刀の刃を滑り、ライラの拳に当たった。
「うっ! ――痛っ」
指を押さえて、ライラが飛び退く。しかしそこで、ジャックの声が上がった。
「そこまでじゃ!」
「え! あたしはまだ――」
「バカモノ! 実剣だったら指が飛んどる。おぬしの負けじゃ。長い剣に頼りすぎて、相手との正確な間合いを見極め、体操作で相手の攻撃を見切る術をまったく心得ておらん」
ジャックの言葉に、ライラはしょげた。僕はライラの指を治癒した。
すると今度はジャックは、プリシアを見る。
「――が、竜娘の方も、間合いに有利な武器を持っていながら、その武器に振り回されておる。元が竜なのに、その身体の強さを活かしきれてない」
「はい。おっしゃる通りです」
プリシアは神妙な顔で頷いた。
ジャックはさらに言葉を続ける。
「二人とも、相手と戦って自分に足りないところが少しは見えたか?」
ジャックの問いに、ライラは不満げだったが答えた。
「いつもと違って、間合いにうまく入れなかったんだぞ……。今まではスピードで押し切って入ってたけど――小さい武器だと、相手に隙がないと入れない。小さい武器だから攻め崩すこともできない……難しいんだぞ」
「ふむ。まあしかし、そのくらい判っておれば、むしろ充分じゃ。もっと考えなしかと思うとったわい」
「ひどいんだぞ!」
不満な声をあげるライラをよそに、ジャックはプリシアの方を向いた。
「おぬしは人間との暮らしに慣れ過ぎて、竜の力を忘れておる。よいか。武技とは本来、弱い人間が強い獣に対抗するために編み出した小細工じゃ。おぬしは本来、小細工のいらぬ存在。――次は眼鏡とたちあえ」
「ボクのことは眼鏡ですか。……まあ、いいですけど」
ちょっと不満げに、ミシュレイが呟く。
そのミシュレイには、ジャックは杖を差し出した。
「おぬしはこれを使って、竜娘と仕合え。これは想定として、本物の杖じゃ。当たってもダメージがなければ、そのままだと思え」
「……判りました」
そしてプリシアとミシュレイの模擬戦が始まる。
「ハアァァァァ――」
プリシアが巨大剣を構えて、呼吸を行っている。
全身から竜気が放たれ、金髪が宙に揺らめく。
「そうじゃ……己を解放せい」
「ハアアアアァァァァッ!」
呼気とともに、プリシアが巨大剣を持って突進する。
今までに見たことのないような爆発力だ。
「ハアッ!」
巨大剣を軽々と振り切り、ミシュレイに斬りつける。
しかしミシュレイは、杖の先端を少し巨大剣に当てるだけで、巨大剣の剣線を逸らす。
「ほう。少しはできるのう。小娘、眼鏡の戦い方をよく見ておれ」
ジャックはライラにそう促した。ライラは悔しそうな顔をしながらも、ミシュレイの戦い方に目を凝らす。
プリシアが猛攻撃を開始する。
「ハッ! ハッ! ハアァァッッ!!」
凄まじい連続攻撃を、ミシュレイは冷や汗をかきながら、なんとか凌いでいる。と、剣を流した隙に、杖の先端でプリシアの脇腹を突いた。
――が、プリシアは気にした様子がない。
「その竜娘に、そんな弱い一撃は通じぬぞ!」
「むぅ……」
隙を突かれても、プリシアの猛攻が止むことはなく、プリシアの一撃をミシュレイが杖でまともに受けた。
「オオオォォッ!」
プリシアがそのまま力で押し込み、巨大剣の刃がミシュレイの首に当たる。
「あ!」
後退するミシュレイが転倒し、プリシアは杖の上から巨大剣をミシュレイの首に押しあてた。
「そこまで! ――どうじゃ、眼鏡」
「はい……。決定打のなさを――痛感しました」
起き上がったミシュレイは、神妙な顔でそう答えた。




