3 久しぶりの二人きり
家造り一日目で結構材料が揃ったので、僕は朝、みんなに言った。
「ライラとミシュレイは、一回、オーランドの街に戻って買い出しに行ってほしいんだ。寝具とか着替えとか食器とか――生活に必要なものを、みんなで書き出していこう」
それで僕らは生活に必要なものを思いつくだけ挙げていき、ミシュレイとライラには買い出しにいってもらった。
残ったプリシアが僕に言う。
「それで、わたしたちはどうしすの?」
「僕たちは小屋を組み上げるんだ」
「人間の家って、釘とかそういうものを使うじゃありませんの? そういうものが此処にはありませんけど」
僕はプリシアに少し微笑んだ。
「大丈夫。釘がなくても、木材の一部を削って、その凸凹の部分を嚙合わせる方法で、木材を組み上げられるんだ。早速、やってみよう」
まず丸太の上下を、僕たちの光剣で軽くスライスする。
それから礎石の上に置いて、組み合わせる木を仮置きする。
「ここの重なる部分を、丸太型に削ればいいんだ」
僕は上に乗る丸太を、丸く削って下の丸太が入り込むようにする。
「なるほど! そうすれば、ずれないで木を組んでいけるんですね!」
「うん。プリシアも削ってみて」
竜の力を持ってるから軽々組めるけど、普通の大工さんは大変だと改めて思った。こういう作業はやっぱり、集団でやるんだろう。
柱を立てないで、横木の壁だけで小屋を作るやり方だ。
一つの部屋しかできないけど、とにかく一週間で寝起きする部屋を作るにはこれしかない。
そんな感じで僕とプリシアは丸太小屋を作っていった。なるべく隙間ができないように細かい調整とかをすると、中々、組み上げられない。
半分くらいまで作ると、その日は終わった。
僕とプリシアは夕食を食べた後、二人でテントに入る。
カンテラの灯りの中で、ふとプリシアが囁いた。
「なんだか……二人っきりって久しぶりですね」
「そうだね」
プリシアが微笑する。
「ミシュレイとライラがいないと、寂しいですか?」
「寂しいというか……大丈夫かなって。まあ、なんとか大丈夫と思うんだけど」
紋章の呪いは、五日おきくらいに強くなるペースだった。
呪いが強くなってきたら、僕がみんなに治癒を施す――そういう感じでやっていたのだった。
「わたしのこと……負担ではないですか?」
「そんなこと考えた事ないよ。いつもプリシアに助けてもらってるのに」
僕がそう言うと、プリシアは少し悲し気に首を振った。
「そんな、わたしが助けられてばかりで――ミシュレイもライラも、攻魔四元将とちゃんと渡り合ってたのに……わたしは完全に劣勢でした」
「それを言うなら、僕だってそうだったよ。ギルガインもそうだけど――あいつら、凄く強くなってた。だから、ジャック先生のところで学びたいと思ったんだ」
僕がそう言うと、プリシアは軽く微笑んで、僕の方に不意に近づいてきた。
プリシアの輝いてる瞳が――僕を見つめている。
「……クィードは、いつも先のことを見ているんですね」
「ううん。いつも、今を――必死なだけだよ」
「わたしは……目の前のクィードを見てるんです――」
そう言ったプリシアの唇が煌めいていて――僕はその瞳を思わず見つめた。
……綺麗だ。竜とか人とか関係なく、プリシアのことが凄く――
「プリシア……」
けど――人と竜の恋愛関係なんてあるんだろうか。
前にプリシアは、竜の相手が人間でも構わないって、母親から聴いたって言ってたけど……
「クィードは……わたしのこと、どう思ってるんですか?」
「僕は――」
ぐっと胸が掴まれたように苦しくなる。
「――プリシアのこと…守りたいって……思ってる」
それだけ言うのが――精一杯だ。
僕の言葉を聴いて、プリシアは少し残念そうに苦笑した。
「ありがとうございます、クィード」
「あ……う、うん」
「――もう寝ましょうか」
「そ……そうだね」
僕はなんか心臓がバクバクしながら、熱くなった顔を見られたくなくて横を向いた。プリシアが、くす、と笑ったのが聞こえる。
「おやすみなさい、クィード」
「おやすみ……プリシア」
僕は……何を言おうとした? あ、危ない、危ない。
今、そんなことを言ってる場合じゃない! 父親の龍王は行方不明で、敵はさらに強くなってるんだ。
僕はなかなか寝つけないまま――すぐ傍にいるプリシアを意識しながら眠りについた。
翌日はまた二人で組み上げをする。最終的に屋根の部分とかに苦労したけど、なんとか作り上げた。
「できましたわ! わたしたちの丸太小屋!」
プリシアが喜びの声をあげる。昨夜、何事もなかったみたいだ。
「うん。これで母屋は完成だね。けど、ミシュレイたちが戻ってくるまでに、もう二日あるし、木材もまだある。別棟として風呂小屋を作ろうか」
「いいですわね! 大賛成です!」
そうして僕らは、翌日からは風呂小屋造りに取り掛かった。
風呂桶はデカい石を切り出して、それをくり抜いて作る。
その風呂桶を囲うように、木の板で作った簡易の小屋を作り終わる頃に、ミシュレイたちが帰ってきた。
丸太小屋を見て、ライラが声をあげる。
「お~!!! 小屋ができてるんだぞ!」
「小屋造りごくろうさま。大変だったろう?」
ミシュレイが僕たちに言った。僕はミシュレイに返す。
「ううん。そっちこそ買い出しご苦労さま。荷車引き、大変だったでしょ」
ライラたちは荷馬車を雇って途中で返し、そこからは荷を積んだ荷車を自分たちで引っ張って、山を登ってきたのだった。
ミシュレイはそれに対し、笑ってみせた。
「ライラがかなりの力持ちでね。助かったよ」
「あたしに任せるんだぞ!」
ライラは力こぶを作ってみせた。
荷物を運びこむと、何もなかった小屋に少し暮らしの感じが出てきた。
「少し、家具を作らないとね。テーブルと――棚くらいつくるか」
「また木を伐り出すんだぞ」
「薪にも使うから、少し多めに切り出しておこう」
そうしてまた木を加工し、家具と薪を作る。
小屋を造れと言われて六日目。ほぼ、丸太小屋が生活できる環境に整った。
「実は待ってる間に、風呂も作ったんだ。今日は、初風呂を使ってみよう」
「お~! 凄いんだぞ!」
喜ぶライラとミシュレイを、風呂小屋に案内する。
小さな小屋で洗い場があり、石の風呂桶が置いてある風呂場だ。一応、排水にの流れも確保してある。
「薪をくべるようにはできてるんだけど、多分、それだと凄く時間がかかる。ミシュレイとプリシアが協力してお湯を作った方が、多分、早いね」
「やってみますわ」
「うん」
ミシュレイが水魔法で水を出すところに、プリシアが光熱をあてて温度を高める。保温のために、薪も同時にくべた。
やがて湯気のたつ、お湯が風呂桶いっぱいになる。
「お風呂だ! あたし、入っていいかだぞ?」
「どうぞ。中に入る時は、その傍にある板をお湯に沈めて入って。出ないと、風呂底で火傷しちゃうから」
「判ったんだぞ!」
それから僕らは順番に風呂に入り、小屋の隅につくった竈で料理をして夕飯をとった。竈の上は煙突を作ってあったけど、家の中が多少煙たくなるのは仕方なかった。
寝具を四枚敷くと、ミシュレイが少し顔を赤らめて僕に言った。
「クィード……その…そろそろボクたち限界だ」
「うん、判ってるよ。……みんな集まって」
ミシュレイとライラ、プリシアが集まって来る。
僕は翼の盾をドームに展開すると、みんなの紋章の治癒をした。
――そして翌朝、僕たちはジャック・ドゥルーズを訪ねた。




