2 丸太小屋造り
僕の後ろで、ライラが慌てたように正座して頭を下げた。
しばらく――ジャック・ドゥルーズは沈黙している。
が、その声がした。
「判った。しかし儂が教えられるのは武技だけで、魔導のことは専門外じゃ。それと――お前の剣技には、お前の師の教えがある。それを崩す必要はない」
ジャックはライラとミシュレイに、そう言った。
「承知してます。その上で――よろしくお願いします」
「判ったぞ! 師匠の教えを守りつつ、あたしの剣技を高めるんだぞ!」
二人の返事に、ジャックは頷く。
「しかし、やるからには一日二日の話ではない。それなりの期間を考えねばならんが、見ての通り小さな小屋じゃ。お前たちを泊める余裕はない。最初の課題は家造りじゃ。儂の小屋の傍に、お前たちが寝泊まりする小屋を一週間で建てろ」
「一週間!?」
ジャックの言葉に、ライラが声をあげる。ジャックは、じろり、とライラを睨んだ。
「一週間じゃ。それ以上時間がかかるようでは、修行など無駄じゃ」
「判りました、先生。ありがとうございます」
僕は頭を下げる。うむ、と頷くと、ジャックは再び農作業に戻る。
僕は皆に言った。
「よし、じゃあ皆で計画を話し合おう。一度、下に降りよう」
僕らは段々畑を降りて、家の傍にある大樹の陰に座り込んだ。
ミシュレイが口を開く。
「どうする、クィード? 小屋を建てるにも、なんの道具もボクたちは持ってないんだ」
「一度、街に戻るんだぞ?」
ライラの言葉に、僕は首を振った。
「オーランドにまで戻っていたら、二日かかってしまう。往復したら四日だ。一週間で家を建てるなんて無理になってしまう」
「じゃあ、どうするんだぞ?」
「その道具は、自分たちの武技で補うしかない」
僕は言った。と、プリシアが訊いてくる。
「そもそもですけど――家って、どう建てるんですの?」
「丸木小屋を建てると想定して――まずは木を伐り出さないと。そしてそれを木材として加工し、地面に基礎を作って組み上げる。……そんな感じだよ」
「大変なんだぞ。それまでは、何処に寝泊まりするんだぞ?」
ライラがあからさまに不満な顔をする。僕は苦笑した。
「テントで野営だね」
「もう、ずっとテントでいいんだぞ」
「いや、課題は小屋造りだ。それをクリアしなければ意味がない。まずは木材集めから始めよう」
僕は皆に言った。
それから森に入り、枝の少ない杉の樹林を見つける。
一度戻って、ジャックに伐採してもいいかと訊ねると、「構わん」という答えだったので、ここの木を伐採することにした。
樹林の木はどれも4,5mはありそうだ。そのうちの一本の前に立つ。
「ミシュレイ、枝を落とせる?」
「やってみよう――竜巻水流刃!」
ミシュレイが竜巻状の水流で、樹を包む。と、水流の力で、枝を全部落としてしまった。
「さすがミシュレイだね。次はこの木を切り倒すけど――支えが必要だな」
僕は弱体化ベルトを外して、備えた。
「ライラ、この木を切り倒して。なるべく根元の方から、水平斬りで」
「判ったんだぞ」
ライラが手に黄金剣を出す。きっとした顔で構えると、剣を横なぎに一閃した。
木は――倒れてこない。
「切ったんだぞ」
僕は木を抱えると、持ち上げてみた。確かに根本で斬れている。
「ライラ、凄い剣技だね」
「ヘヘヘ……」
ライラは嬉しそうに笑っている。
僕は枝落ちした丸太を抱えて少し倒すと、まだ枝が残っている先端の方をライラに向けた。
「ライラ、先端も落して」
「判ったぞ――それにしても、クィードは怪力だぞ」
ポン、と剣を一閃させて先端を落とす。これで丸木ができあがった。
僕はその丸木を小屋傍の広場へと運んだ。
「木の皮を剥がないといけない。プリシア、手伝ってもらえる?」
「もちろんですわ」
プリシアがにっこりと微笑む。
僕も微笑みかえすと、僕は手に把気の要領で気力を貯めた。
「プリシア、竜光剣はどういう要領で形を形成してるの?」
「あ、形を作ってるというより、出力を一定にしてるんですわ。竜閃光は光線を飛ばしきってしまうけど、それを飛ばさないけど高出力な光を、ずっと出し続けてる感覚です」
「なるほど」
僕は気力を発力しながら、それを一定の出力に保つようにしてみた。
気力の白い光で、手の中に剣状のものを創り出す。
「気力剣――だな」
「クィード、凄いんだぞ」
ライラが感心したように声をあげる。
僕はプリシアに言った。
「プリシア、真ん中に立って、先端に向けて皮を剥いて」
「判りましたわ」
プリシアはそう答えると、竜光剣を手に創り出す。
僕とプリシアは丸木の中央に立ち、二本の光る剣を使って表面の皮をそれぞれ剥いた。
剥いたら少し丸太を転がし、また光剣で表面の皮を剥ぐ。
六回くらい転がすと、皮が剥がれた丸太ができあがった。
「木材として使用するには生木じゃダメなんだ。プリシア、焼かない程度に、強い光を浴びせて木を乾かせる?」
「やってみますわ」
プリシアは木の傍で、人差し指を立てて腕を上げた。
その指先に、光の球が生まれてくる。
「竜光照!」
光の球は強い光を木面に降り注いだ。
傍にいると熱い。そして丸太から、水分が蒸発して水蒸気が上がっているのが見える。
「こんな感じで丸太をまず切り出そう」
「おー!」
ライラが元気に腕を上げる。
それから僕らは各自の役割を果たしながら、50本ほど丸太を切り出した。
「それじゃあ、ライラとミシュレイは、このうち……20本くらいを、スライスして板にして。一本の木を四枚にスライスする感じで」
「こんな感じか? ――水刃!」
取り出した薙刀を振ると、水のカッターが噴射される。
ミシュレイはまず横になった木の真ん中の線を横なぎに振ると、その後にその半分をさらに半分にした。
「おー! あたしもやるんだぞ!」
ライラは黄金剣から気力の刃を飛ばして、四枚にする。
「うまい、うまい! それじゃあ、プリシア。僕らは礎石を切り出しに行こう」
「はい!」
僕とプリシアは近くの崖まで来ると、角になって切り出しやすそうな処を見つけた。
「プリシア、この角の塊を切り出して」
「おまかせですわ」
プリシアは竜光剣を出すと、2m四方くらいの大きさの岩を崖から切り出す。
僕はそれを持つと、作業場まで運んだ。
切り出した石を、さらにプリシアに小さくしてもらい、それを平らな地面の処に適当に離して置く。そんな作業で一日目は終わった。
「ふ~、今日はよく働いたんだぞ」
テントを張って、野営する。焚火を囲んだ三人の顔が、オレンジ色に照らし出された。
そのオレンジ色の灯りのなかで、プリシアが微笑む。
「けど――なんだか、みんなで力を合わせて……楽しかったですわ」
「そうだな……ボクも楽しかった」
ミシュレイの眼鏡の奥の眼が微笑んでいる。
みんな綺麗だ。ふと、そう思った。
……こんな穏やかな時間が続けばいいと――そう、思った。




