4 ライラ対ジャック・ドゥルーズ
僕はジャック・ドゥルーズに近寄った。
「ところで――干し肉ですか?」
「うむ。冬の間は獣がとれんからのう。その獲物を狩りに出たら、お前らが暴れとったというワケじゃ。あんなに山で騒がれては、獣が逃げる。まったく迷惑じゃ」
「どうも、申し訳ありませんでした」
僕は頭を下げる。そして顔を上げて、ジャックに言った。
「そして小屋に運んで手当してくれたのも、先生なのでしょう? どうも、ありがとうございます」
僕は深く礼をする。
ジャックは手を止めて僕を見ていたが、やがて口を開いた。
「……フン、小娘と違って礼儀はわきまえとるようじゃの」
「また小娘って言ったぞ! 礼儀くらい知ってるんだぞ!」
ライラはぶりぶり怒りながら声をあげた。
僕は思わず苦笑を洩らしながら、ジャックを見た。
「ジャック先生、お手数ではありますが、ライラに稽古をつけていただけませんでしょうか? 一合で結構です」
僕はジャックを見つめた。ジャックが僕を見返している。
「……一合でいいのか?」
「はい」
僕は微笑した。
……本当は――もっとこの人の技が見たい。知りたい。
けど――この一合という限定で、ジャック・ドゥルーズの本質的なものが見られるかもしれない。
「お願いします――ジャック・ドゥルーズ先生」
「……おぬしがそこまで言うなら――よかろう。小娘、相手をしてやる。来い!」
ジャック・ドゥルーズは庭の先の、もっと開けた場所に歩いていく。
それについていこうとするライラを、僕は呼び止めた。
「ライラ!」
「判ってる! 即死するような攻撃はしないんだぞ」
「違うよ」
僕は一瞬だけ笑ったが、真剣な眼でライラに言った。
「ライラ、巨大な竜と戦うつもりで――本気で行くんだ」
「え……? いいのかだぞ?」
「そうでなければ……一瞬で殺される――くらいのつもりで」
僕の言葉に、ライラが驚いた顔をみせる。が、ライラは、厳しい顔つきで答えた。
「判った――全力で行くんだぞ」
ライラは不敵な笑みを見せると、ジャックの後についていった。
と、隣にミシュレイがやってくる。
「おい、いいのか? 立ち合いなんかさせて」
「ライラが納得しないだろ? それに……僕が見たい」
僕の言葉に、ミシュレイは呆れたように肩をすくめた。
そうしてライラは、ジャック・ドゥルーズの前に立った。
「爺ちゃん、『剣でも握っとれ』はひどい侮辱だぞ」
「侮辱したつもりはない。……まあよい。来なさい」
ライラが手の内に、黄金剣を出す。
その全身から気力が立ちのぼり、やがてオレンジ色にスパークする。
「いきなりスパーク状態か、ライラ!」
ミシュレイが驚きの声をあげる。
するとライラは、凄まじい速度でジャックに斬りかかった。
「デェェイッ!」
――が、そこにジャックはいない。黄金剣が空を切る。
「え――」
ライラのすぐ右横に、ジャックはいた。
次の瞬間、ライラの身体が吹っ飛ばされる。
数10mも先に吹っ飛ばされたライラは、地面を数回転がって動かなくなった。
「おい、おぬしは治癒士じゃろう。治癒して連れ帰れ」
「お手合わせいただき――ありがとうございました」
僕は深く礼をすると、倒れたライラの元に走る。
ジャックはそのまま、悠然と歩いて小屋へと戻っていった。
僕はライラの状態を見て、治癒を施す。
「治癒」
「う……ぐ――あ、あたし、なんで倒れてるんだぞ……」
「ジャック先生に、一撃貰ったんだよ。覚えてないかい?」
僕の言葉に、ライラが歯噛みする。
「全然――勝負にならなかったんだぞ……」
ライラの眼に涙が滲んできた。
「悔しい! 悔しいっ悔しいっ、悔しいんだぞっ!」
ライラが声をあげて、涙をボロボロとこぼし始めた。
「とりあえず、ジャック・ドゥルーズ先生の居場所は判ったんだ。今日のところは帰ろう。また、後日だ」
僕は皆にそう言った。
峡谷を少し戻り、荷馬車のところまで戻る。僕らは荷馬車を寝床にして、野営をした。
治癒はしたものの、やはり皆、戦闘で受けたダメージからの疲労はただならぬものだった。
軽く食事を済ませると、皆、泥のように寝てしまう。
翌日、僕らは朝食をとると、またジャック・ドゥルーズの小屋を訪ねた。
「おはようございます」
ドアをノックするが返事がない。
「留守かな?」
「昨日いたんだぞ。何処かへ出てるんだろう」
「やっぱり、あたしの口真似だぞ?」
「真似てない!」
ライラとミシュレイのやりとりに笑いながら、僕らは小屋の裏手にまわった。
山の斜面が段々畑になっていて、そこの一角に――人影がある。
「ジャックせんせーい! おはようございます!」
手を振ってみる。向うはこちらに気付いているが、反応がない。
興味なさそうに顔を背けると、また元の作業に戻った。
「近くまで行ってみよう」
「あたしは、ここにいるんだぞ」
ライラが少しむくれっ面で、そう言う。
「わかった、そうしなよ」
僕とプリシア、ミシュレイは段々畑を登って、ジャック・ドゥルーズの処まで近寄った。
「ジャック先生、おはようございます」
僕がそう言い、後ろの二人が頭を下げると、ジャック・ドゥルーズは、じろり、と僕を見た。
「なにしにきた?」
「ジャック先生にお訊ねしたいことがありまして――先生、何をされてるんですか?」
僕はジャックが答える前に、問いを入れた。
「見ての通り、畑仕事じゃ」
「具体的には?」
「……雑草とり。それと、わき芽摘みじゃ」
「お手伝いしますよ」
僕は笑ってみせると、ジャックの傍の苗を見た。
「トマトですね。よく育ってる」
「……判るのか」
「田舎で僕も畑仕事してましたから。ここも相当に山奥ですけど、僕の田舎も相当に山奥でした。だから、食料は自給自足が原則。獣を狩って干し肉を作り、野菜は自分で育てる。――懐かしいです」
僕の顔を見て、ジャックはフン、と息をついた。
「田舎者じゃな」
「はい、田舎者です」
僕は笑った。そして傍のトマトのわき芽を摘む。
「クィード、ワキメツミってなんですの?」
プリシアが訊いてきた。ミシュレイも、その問いに頷いている。
「ここ見て。枝が伸びてる分かれ目のところから、また芽が生えてきてるだろ?」
「そうですね」
「これが脇芽。これを取っちゃうんだ」




