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第35話 助けたい

「助けてくれ!」


 ギルドへ飛び込んできた冒険者の声で、空気が変わった。


 ヴァルドが立ち上がる。


「状況は」


「森の北の監視塔です!」


 冒険者は息を切らしていた。


「崩落しました!」


「怪我人は?」


「分かりません!」


 ギルド内が騒がしくなる。




 私はクロを見る。


「行こう」


「お前な」


 クロは頭を抱えた。


「嫌な予感しかしねぇ」


「でも」


 私は言った。


「困ってる人がいる」


 クロは黙る。


 その顔は諦め半分だった。


「……止めても行くだろ」


「うん」


「知ってた」




 結局。


 救助隊の一員として現場へ向かうことになった。


 ヴァルド。


 数人の冒険者。


 そして私。


 なぜかアルヴェインもいる。


「なんでいるんですか?」


「観察です」


「正直に言った」


 クロが嫌そうに言う。




 森へ入って一時間ほど。


 問題の監視塔が見えてきた。


 いや。


 見えていた、が正しい。


 今は半分崩れている。


「うわぁ……」


 私は思わず声を漏らした。


 石造りの塔が傾き。


 上部が崩落していた。




「生存者を探せ!」


 ヴァルドの声が響く。


 冒険者たちが動き出す。


 私は瓦礫へ近づいた。


「誰かいるー?」


 返事はない。


 嫌な空気だった。




 しばらくして。


「いたぞ!」


 声が上がる。


 瓦礫の下。


 若い見張り番が閉じ込められていた。


 意識はある。


 だが。


 大きな石材が脚を挟んでいる。


「まずいな」


 ヴァルドが顔をしかめる。


「無理に動かせば崩れる」


 周囲の石も不安定だった。


 誰も簡単には手を出せない。


 私は見張り番を見る。


 顔色が悪い。


 苦しそうだ。


「助かるよね?」


 誰に聞くでもなく言った。


 ヴァルドは答えない。


 クロも答えない。


 代わりにアルヴェインが言う。


「分かりません」


 静かな声だった。


「現状の成功率は高くありません」


 私は少しだけ腹が立った。


「成功率じゃないよ」


 アルヴェインがこちらを見る。


「?」


「助けたいんだよ」


 一拍。


「助かってほしい」


 その瞬間。


 アルヴェインの表情が変わった。


 ほんの少しだけ。


 本当にわずかに。


 驚いたように。


「リリア」


 クロが低く言う。


「落ち着け」


「でも」


「頼むから余計なことするな」


 私は瓦礫を見る。


 苦しそうな見張り番を見る。


 そして。


 思った。


 助けたい。


 ただそれだけだった。


「リリア!」


 クロが叫ぶ。


 私は瓦礫へ駆け出していた。


「待てぇぇぇ!!」


 足を滑らせた。


「わっ」


 当然である。


 リリアだから。


 盛大に転ぶ。


 冒険者たちが顔を覆う。


「ああ……」


「またか……」


 だが。


 その瞬間だった。


 崩れた石の一つが外れる。


 ゴトリ。


 そして。


 連鎖するように別の石がずれる。


 ガガガガガ……


「!?」


 全員が息を呑む。


 崩れる。


 そう思った。


 しかし。


 違った。


 石材同士が噛み合い。


 別方向へ荷重が逃げる。


 挟まっていた大石が浮いた。


「今だ!」


 ヴァルドが叫ぶ。


 冒険者たちが飛び込む。


 見張り番を引きずり出す。


 数秒後。


 救出完了。


 静寂。


 私は地面にうつ伏せだった。


「いてて……」


 助かった。


 全員がそう思った。


 だが。


 アルヴェインだけは違った。


 彼は崩れた塔を見ている。


 その視線は鋭かった。


「あり得ない」


 小さくつぶやく。


 石材の崩れ方。


 荷重移動。


 角度。


 重心。


 全てが。


 救出のためだけに成立している。


 まるで。


 世界そのものが。


 救出を選んだかのように。


 アルヴェインは静かに目を細めた。


「君は」


 誰にも聞こえない声。


「本当に何なんだ」


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