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第32話 直したはずなのに

 翌日。


 私は珍しく朝からやる気だった。


「今日は失敗しない」


 クロがじっとこちらを見る。


「無理だな」


「なんで!?」


「お前だからだ」


 ひどい。


---


 結局。


 私が受けた依頼は簡単なものだった。


 街の外れにある農場の手伝い。


「平和だねぇ」


「その言葉が一番怖い」


 クロが言う。


 私は畑を見回した。


 野菜。


 井戸。


 小さな納屋。


 確かに平和だ。


 依頼主のおじいさんが困った顔をしていた。


「実はなぁ」


「はい」


「井戸の汲み上げ装置が壊れてしまってのう」


 なるほど。


 水不足らしい。


---


「私に任せて!」


「待て」


 クロが即座に止める。


「触るな」


「なんで?」


「嫌な予感しかしねぇ」


「またまた」


 私は笑う。


 そして。


 装置へ近づいた。


---


 ガコン。


 ガタン。


 ゴトッ。


「……」


「……」


 壊れた。


 しかも前より。


「壊したぁぁ!!」


 クロが叫ぶ。


「おかしいなぁ」


「おかしいのはお前だ!」


 歯車が外れ。


 木枠が崩れ。


 完全に動かなくなった。


 おじいさんが青ざめる。


「わ、わしの井戸が……」


「ご、ごめんなさい!」


---


 ところが。


 次の瞬間だった。


 崩れた支柱が地面に突き刺さる。


 ズボッ。


 何か変な音がした。


 そして。


 地面から水が噴き出した。


「え?」


 全員が固まる。


 ごぼごぼごぼ。


 勢いよく水が湧いている。


 おじいさんが目を見開いた。


「地下水脈じゃ!」


「へ?」


「昔あった古い水脈じゃ!」


 結果。


 井戸より大量の水が確保できた。


---


 帰り道。


 私は笑顔だった。


「ほら!」


「また助かった!」


 クロは無言だった。


「クロ?」


「……」


 嫌な顔をしている。


「どうしたの?」


「気になることがある」


「?」


 クロは珍しく真面目な声だった。


「井戸だ」


「井戸?」


「あの地下水脈」


 一拍。


「昔の地図に載ってた」


 私はきょとんとした。


「へぇ」


「へぇじゃねぇ」


---


 その日の夕方。


 ギルドへ戻る。


 すると。


 農場のおじいさんが慌てて飛び込んできた。


「大変じゃ!」


「え?」


「どうしたんですか?」


 受付嬢が聞く。


 おじいさんは青い顔をしていた。


「川の水位が下がっとる!」


 静寂。


「……はい?」


 私は首をかしげた。


---


 話を聞くと。


 地下水脈が復活した影響で。


 近くを流れる小川の水量が減ったらしい。


 今すぐ問題ではない。


 でも。


 放置すると別の農地が困る可能性がある。


「そんなぁ」


 私は固まった。


「でも水は出たよ?」


「出た」


 クロが答える。


「でも別の場所から消えた」


---


 帰り道。


 私は少し落ち込んでいた。


「直ったと思ったのに」


 クロは黙って歩く。


「誰も困らない方法ってないのかな」


 小さな声で言う。


 クロはしばらく返事をしなかった。


 そして。


「多分」


「?」


「世界はそういう風にできてねぇ」


 私は空を見上げた。


 夕焼けが赤い。


「難しいね」


「ああ」


 一拍。


「だからアルヴェインが気味悪がってる」


---


 その頃。


 王都。


 魔術塔。


 アルヴェインの前には新しい報告書があった。


 農場。


 地下水脈。


 水量変化。


 彼は静かに読む。


 そして。


 小さく笑った。


「やはり」


 紙に何かを書き込む。


 その文字は。


 ――代償の転移


 だった。


 アルヴェインは椅子にもたれた。


「興味深い」


 一拍。


「最善ではない」


 静かな声。


「成立させるための調整か」


 そして。


 窓の外を見ながらつぶやく。


「君はいったい」


 その目が細くなる。


「何を背負わされているんだろうね」


 その問いの答えを。


 まだ誰も知らなかった。


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