第31話 助かった、そのあと
薬品輸送の依頼から数日後。
私はギルドの掲示板の前で悩んでいた。
「うーん……」
クロが肩の上で言う。
「今度は何だ」
「依頼選び」
「珍しいな」
いつもなら面白そうかどうかで決める。
でも今日は違った。
私は少し考えていた。
「ちゃんと役に立つ依頼がいいなって」
クロがこちらを見る。
「ほう」
「ほら、この前」
私は言葉を探した。
「人は助かったけど」
「薬は助からなかったでしょ」
クロは少し黙った。
「気にしてたのか」
「してるよ?」
私はむっとした。
「そんなに薄情じゃないよ」
「そこは心配してねぇ」
クロはため息をついた。
「考えてるのが珍しいだけだ」
「失礼だなぁ」
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その時だった。
「リリアさん!」
受付嬢が駆け寄ってきた。
「あ、この前はどうも」
私は頭を下げる。
薬品輸送の件で迷惑をかけたばかりだ。
受付嬢は首を振った。
「違うんです」
「?」
「その件なんですが」
少し表情が曇る。
「薬は届きませんでしたが」
私は肩を落とした。
「やっぱり……」
「ただ」
受付嬢は続ける。
「暴走馬車の方に乗っていた方が」
「実は医師だったそうなんです」
「え?」
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私は思わず聞き返した。
「お医者さん?」
「はい」
「隣町へ向かう途中だったそうです」
クロの耳がぴくりと動く。
受付嬢は言った。
「結果的に、その医師が診察を行い」
「重症化する患者は出なかったそうです」
私は目をぱちぱちさせた。
「えっと」
「じゃあ」
一拍。
「大丈夫だったの?」
「はい」
受付嬢は笑った。
「少なくとも最悪の事態にはならなかったようです」
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受付嬢が去ったあと。
私はほっと息を吐いた。
「よかったぁ」
心からそう思った。
でも。
クロは黙っていた。
「クロ?」
「……」
「どうしたの?」
クロは遠くを見る。
何かを考えるように。
「なぁ」
「うん」
「偶然だと思うか?」
私は首をかしげた。
「偶然じゃないの?」
「医師がたまたまいた」
「薬は壊れた」
「でも結果的に患者は助かった」
クロは低くつぶやく。
「帳尻が合いすぎてる」
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私は少し考えた。
「でも助かったんだよ?」
「ああ」
「じゃあいいじゃない」
クロは苦い顔をした。
「それが問題なんだ」
「?」
「お前はいつもそう言う」
私はよく分からなかった。
助かったなら良いことだ。
少なくとも私はそう思う。
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その日の夜。
宿の部屋。
私はベッドに寝転がっていた。
クロは窓辺に座っている。
「ねぇ」
「なんだ」
「私のスキルって」
一拍。
「本当に何なんだろうね」
クロは答えなかった。
月明かりが差し込む。
静かな夜だった。
「失敗なのに」
私は天井を見る。
「なんで結果だけ良くなるんだろ」
クロはしばらく黙っていた。
そして。
小さくつぶやく。
「俺が知りたいくらいだ」
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窓の外で風が吹く。
その頃。
王都。
魔術塔の最上階。
アルヴェインは新しい報告書を読んでいた。
薬品輸送。
暴走馬車。
医師の存在。
そして。
結果として患者は救われたこと。
彼は静かに目を閉じた。
「また成立した」
小さな声。
机の上には、一枚の紙が置かれている。
その上に書かれた文字。
――観測対象:リリア
アルヴェインは静かに言った。
「次の段階へ進みましょう」
その言葉を聞いた者はいない。
だが。
静かに動き始めていた。




