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【失敗】スキルなのに、なぜか最善の結果になるんですが?  作者: ソル
第三章  計算外の少女
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第29話 観測者

 薬品輸送の件から二日後。


 私はギルドの隅でしょんぼりしていた。


「うぅ……」


 クロが机の上で言う。


「珍しく落ち込んでるな」


「だって薬……」


 割れた薬瓶を思い出す。


 人は助かった。


 でも。


 必要だった薬は届かなかった。


 私は小さく息を吐く。


「なんとかならなかった」


 クロは少し黙った。


 それから低く言う。


「……いや」


「?」


「あれでも、多分“成立”してる」


 私は首をかしげた。


「どういうこと?」


「分かりたくねぇ」


 クロは顔をしかめる。


「でも、多分お前の力は」


 一拍。


「“全部”は救わねぇ」


 私は黙った。


 少しだけ胸が重い。


 その時。


「失礼」


 静かな声が聞こえた。


 私は顔を上げる。


 ギルドの入り口。


 黒いローブ。


 銀色の髪。


 落ち着いた雰囲気の男。


 周囲の冒険者たちがざわつく。


「王都の……」


「魔術塔の……?」


 クロの空気が変わった。


「……来やがった」


 男は静かにこちらへ歩いてくる。


 足音すら綺麗だった。


 私は思わず言った。


「優しそうな人だね」


「最悪だ」


 クロが即答した。


 男は私たちの前で止まる。


 そして、軽く一礼した。


「初めまして」


「アルヴェインです」


 私はぺこりと頭を下げる。


「リリアです」


「知っています」


 静かな声だった。


 でも。


 その目は、まっすぐこちらを見ている。


 観察するみたいに。


「猫も一緒ですか」


「相棒です!」


「違う」


 クロが低く言う。


 アルヴェインは小さく笑った。


「なるほど」


 そして。


 机の上に置かれていた報告書へ視線を向ける。


「薬品輸送の件、聞きました」


 私は少ししょんぼりする。


「薬、壊れちゃって」


「ですが人命は守られた」


「はい」


「興味深い」


 クロのしっぽが揺れる。


「……何が言いたい」


 アルヴェインは壊れた薬箱の報告を見る。


 静かに。


 まるで計算式を見るみたいに。


「なるほど」


 一拍。


「“全体最適”ですか」


 私は「?」となった。


「ぜんたい?」


 アルヴェインは私を見る。


「あなたは失敗する」


「はい」


「ですが結果は成立する」


「うーん?」


 私は困った。


「よく分かんないです!」


「だろうな」


 クロが顔を覆う。


 アルヴェインは少しだけ目を細めた。


「通常、失敗は破綻を生む」


「ですがあなたの場合」


 一拍。


「世界が結果を修正している」


 ギルドが静かだった。


 周囲の冒険者たちも、なんとなく息を呑んでいる。


 私は少し考えた。


「世界って、そんな便利かな?」


「便利ではありません」


 アルヴェインは静かに答える。


「だから異常なんです」


 クロが低く言う。


「リリア」


「うん?」


「もう帰るぞ」


 明らかに警戒していた。


 アルヴェインはそれを見ても表情を変えない。


「警戒されていますね」


「当然だ」


「私はまだ何もしていません」


「それが怖ぇんだよ」


 一瞬。


 アルヴェインがクロを見る。


 ほんの少しだけ。


 興味を持ったように。


「あなたは知っているようだ」


「……何をだ」


「世界法則について」


 空気が張る。


 私は二人を見る。


「知り合い?」


「違う」


「違います」


 また同時だった。


 アルヴェインは小さく笑った。


「面白い」


 クロの機嫌がさらに悪くなる。


 私はなんとなく聞いた。


「アルヴェインさんって、なんでそんなに私が気になるんですか?」


 静寂。


 アルヴェインは少しだけ考えた。


 それから。


 静かな声で答える。


「計算できないからです」


 一拍。


「ですが」


 その目が細くなる。


「もし君が存在するだけで世界が修正されるなら」


 ギルドの空気が冷えた。


 アルヴェインは穏やかに言った。


「それは災害に近い」


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