第28話 成立した結果
「今日は平和な依頼にしよう」
私は掲示板を見ながら言った。
クロがじっとこちらを見る。
「……急にどうした」
「最近大変だったから」
「お前が言うな」
私は一枚の依頼書を取った。
『薬品輸送護衛』
「これ!」
クロが読む。
「護衛か……」
「平和そうじゃない?」
「まぁ、比較的はな」
私はにこっと笑った。
「じゃあ決まり!」
クロはまだ少し不安そうだった。
「頼むから何も起こすなよ」
「起こさないよ?」
「お前の場合、存在がフラグなんだよ」
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依頼は小さな馬車の護衛だった。
御者は気の良さそうなおじさん。
荷台には木箱が積まれている。
「薬草から作った薬品ですよ」
御者のおじさんが言った。
「隣町へ届けるんです」
「へぇ」
私は荷台を見る。
「大事なものなんですね」
「ええ。病人向けの薬もありますから」
クロの耳がぴくりと動いた。
「病人?」
「流行り病が出てましてねぇ」
私は「大変だ」と思った。
「ちゃんと届けないと」
「その意識を忘れるなよ」
クロが真顔で言う。
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山道を進む。
風は穏やかだった。
「平和だねぇ」
「今のところはな」
クロは周囲を警戒している。
私は空を見上げる。
「こういう依頼も冒険者っぽい」
「お前は毎回そう言うな」
その時だった。
前方から悲鳴が聞こえた。
「きゃあああっ!」
「!」
私は立ち上がる。
坂道の向こう。
別の馬車が暴走していた。
「うわっ!?」
御者が振り落とされている。
馬が完全に怯えていた。
クロが叫ぶ。
「リリア!」
「止める!」
私は勢いよく飛び出した。
「待て! 考えろ!」
「考えてる暇ない!」
暴走馬車がこちらへ突っ込んでくる。
人もいる。
このままだと危ない。
私は慌ててロープを掴もうとして――
ずるっ
「あ」
「またかぁぁ!!」
クロの叫び。
私は盛大に転んだ。
そのまま坂を滑る。
「きゃあああ!?」
ゴン!!
私の頭が、うちの馬車の車輪へ激突した。
次の瞬間。
車輪が外れる。
「え?」
馬車が傾く。
積荷が崩れる。
木箱が坂道へ転がった。
その箱が。
暴走馬車の前へ転がる。
ガタン!!
馬が驚いて急停止した。
暴走馬車はぎりぎりで止まる。
静寂。
「……止まった?」
私は瞬きをした。
人々が呆然としている。
そして。
「た、助かった……!」
「危なかった……!」
歓声が上がった。
私はほっとする。
「よかったぁ」
クロは顔を覆っていた。
「なんでそれで止まるんだよ……」
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しばらくして。
私は壊れた荷台を見ていた。
「あー……」
木箱はほとんど潰れていた。
薬瓶も割れている。
御者のおじさんが青ざめていた。
「そんな……」
クロが静かに言う。
「薬は?」
おじさんは震える声で答えた。
「ほぼ全滅です……」
空気が重くなる。
さっき助かった人たちも黙っていた。
私は胸がざわつく。
「でも、人は助かったよ?」
そう言うと。
クロはすぐに答えなかった。
ただ。
壊れた薬瓶を見ていた。
「……ああ」
低い声だった。
「助かった」
一拍。
「でも」
クロが静かにつぶやく。
「“全部”は救えないってことか」
風が吹く。
割れた薬瓶の匂いが広がる。
私はその光景を見ながら、少しだけ黙った。
遠くで。
クロがさらに小さくつぶやく。
「最善じゃない」
一拍。
「ただ、“成立”しただけだ」




