第27話 クロが知っているもの
坑道を出たあと。
クロはずっと黙っていた。
「クロ?」
「……」
「怒ってる?」
「怒ってる」
即答だった。
私は少ししょんぼりする。
「でも私、悪くなくない?」
「そこじゃねぇ」
クロは珍しく本気で機嫌が悪かった。
街へ戻る道。
夕方の風が少し冷たい。
「お前」
クロが低く言う。
「もう少し危機感持て」
「持ってるよ?」
「どこがだ」
「崩れた時、わーってなった」
「感想なんだよそれは」
私はむっとする。
「でも助かったし」
クロは足を止めた。
そして。
ゆっくり私を見る。
「それだ」
「?」
「“助かる”前提で考えてる」
私は首をかしげた。
「だって今までなんとかなってたよ?」
クロは答えなかった。
ただ。
その目だけが真剣だった。
---
ギルドへ戻ると。
ヴァルドが待っていた。
「帰ったか」
「ただいまです」
ヴァルドは私を見る。
それから、静かに言った。
「話は聞いた」
クロが小さく舌打ちする。
「早ぇな」
「崩落騒ぎだ。隠せん」
ヴァルドは腕を組む。
「しかも現場に王都の魔術師までいたらしいな」
「知り合い?」
「違う」
クロが即答した。
ヴァルドはじっとクロを見る。
「……本当にか?」
少し沈黙が落ちる。
私は二人を交互に見た。
「?」
なんか空気が変。
クロは小さくため息をついた。
「知ってるだけだ」
「誰なんだ」
「昔、見たことがある」
ヴァルドの目が細くなる。
「魔術塔か」
「ああ」
私は「へぇ」と声を出した。
「クロって王都いたことあるんだ」
「……まぁな」
「冒険してたの?」
「してねぇ」
クロは嫌そうに言う。
「巻き込まれてただけだ」
ヴァルドが静かに聞く。
「アルヴェインは昔からああなのか?」
クロは少し黙った。
それから低く言う。
「あいつは昔から、“成功”しか見てねぇ」
「成功?」
「ああ」
クロの声は静かだった。
「成功率」
「最適解」
「無駄の排除」
一拍。
「全部計算だ」
私は少し考えた。
「頭いいんだね」
「良すぎるんだよ」
クロは吐き捨てるように言った。
「だから失敗を嫌う」
「でも失敗することもあるよ?」
「許さねぇんだ、あいつは」
空気が少し重くなる。
私はなんとなく黙った。
クロは珍しく遠くを見る目をしていた。
「昔」
ぽつりとつぶやく。
「魔術塔で事故があった」
ヴァルドが反応する。
「……暴走実験か」
「ああ」
私はきょとんとする。
「事故?」
「魔力制御実験だ」
クロは低く言った。
「成功率は高かった」
「でもゼロじゃなかった」
一拍。
「失敗した」
静かな声だった。
「何人か死んだ」
私は思わず黙る。
クロは続ける。
「でもあいつは言った」
その目が細くなる。
『計算上、許容範囲内だ』
部屋が静かになる。
私は少しだけ胸がざわついた。
「……怖い人だね」
「ああ」
クロは静かに言った。
「だから嫌なんだよ」
ヴァルドが低く聞く。
「リリアを実験対象にすると思うか?」
クロは即答した。
「する」
一拍。
「もう始めてる」
私は「うーん」と考えた。
「でも私、そんな珍しい?」
クロとヴァルドが同時にこちらを見る。
「珍しいどころじゃねぇ」
「自覚なしか」
二人同時だった。
私は少し傷ついた。
「そんなに?」
クロは深くため息をつく。
そして。
ぼそっと言った。
「……ほんと、何なんだよお前は」




