第26話 成立する失敗
ゴゴゴゴゴ――!!
「うわあああ!?」
坑道が激しく揺れる。
天井から岩が落ちる。
土煙が舞い、視界が白くなる。
「リリア! 走れ!」
クロが叫んだ。
「どっち!?」
「前だ!」
私は全力で走る。
後ろでは崩落音。
出口側は完全に塞がれていた。
「ええええ!?」
「だから来たくなかったんだよ!」
クロが本気で怒鳴る。
私は慌てて曲がり角を曲がった。
その瞬間。
つるっ
「わっ」
足が滑る。
「またか!!」
クロの悲鳴が響く。
私は勢いよく転んだ。
そのまま壁へ突っ込む。
――ドン!!
「いたぁ……」
鈍い音。
そして。
ゴゴ……と壁が動いた。
「……え?」
古い石壁が横へ開く。
暗い通路。
隠し通路だった。
次の瞬間。
崩れた岩が、さっきまで私たちがいた場所へ落下した。
轟音。
もしあと一秒遅れていたら。
完全に巻き込まれていた。
「……」
「……」
私は瞬きをした。
「助かった?」
クロは答えなかった。
ただ。
ものすごく嫌そうな顔をしていた。
「またかよ……」
「え?」
「なんで毎回“最善”引くんだよお前は!」
私は首をかしげる。
「たまたま?」
「もうその段階過ぎてんだよ!」
クロが叫ぶ。
その時だった。
暗い通路の奥から、足音が聞こえた。
コツ、コツ、と静かな音。
私はそちらを見る。
そして。
「あ」
見覚えのある黒ローブ。
「この前の人だ」
エルムだった。
彼は静かにこちらを見ていた。
「……やはり」
低い声。
クロの毛が逆立つ。
「お前か」
エルムは否定しなかった。
ただ、崩落した通路を見る。
「崩落率九十二%」
「生存率三%」
一拍。
「ですが、あなたは無傷だった」
私は「へぇ」と言った。
「危なかったんだね」
「そこかよ」
クロが頭を抱える。
エルムはじっと私を見ている。
まるで。
人じゃなく。
何か珍しい現象を見るみたいに。
「……なるほど」
静かな声だった。
クロが低く唸る。
「最初から仕組んでたな」
「確認したかっただけです」
エルムは穏やかに言う。
「本当に“成立する”のかを」
「成立?」
私は首をかしげた。
エルムは私を見る。
「失敗しても」
「破綻しても」
「崩れても」
一拍。
「最終結果だけが成立する」
坑道の奥は静かだった。
崩落音だけが遠くで響いている。
クロの目は鋭い。
「……実験しやがったな」
「ええ」
エルムはあっさり認めた。
「アルヴェイン様は興味を持っています」
私はちょっと困った。
「そんなに?」
「はい」
エルムは微笑む。
でもその笑顔は、やっぱり冷たい。
「あなたの“失敗”に」
私は少し考えた。
「失敗ならいっぱいしてるよ?」
「知っています」
一拍。
エルムは崩落した通路を見た。
「だからこそです」
クロが前へ出る。
「リリアに近づくな」
「それは難しいですね」
エルムは静かに答えた。
「もう観測段階は終わっていますから」
空気が重くなる。
私は二人を交互に見た。
「?」
やっぱり難しい話だった。
エルムは小さく息を吐く。
そして。
静かな声で言った。
「なるほど」
一拍。
「あなたは本当に“成立する”んですね」




