第25話 不自然な高報酬依頼
翌朝。
ギルドに入った瞬間。
「帰るか」
クロが言った。
「まだ入ったばっかりだよ!?」
「嫌な予感しかしねぇ」
クロは本気だった。
私はため息をつく。
「最近ずっとそれ言ってる」
「最近ずっと当たってる」
反論できなかった。
私は掲示板を見る。
今日も依頼が並んでいる。
採取。
護衛。
討伐。
その中で、一枚だけ妙に目立つ紙があった。
「あれ?」
私は近づく。
『旧坑道調査依頼』
報酬欄を見る。
「高っ」
思わず声が出た。
クロも読む。
そして。
「……やめろ」
「まだ何も言ってないよ?」
「顔で分かる」
私は依頼書を見つめる。
「でも調査だけだよ?」
「その言葉は信用できねぇ」
クロは紙をじっと見ていた。
「旧坑道……?」
「知ってるの?」
「昔閉鎖された鉱山だ」
「へぇ」
「最近は誰も近づいてねぇはずなんだが」
私は首をかしげる。
「じゃあなんで調査?」
その時。
「崩落の確認らしいですよ」
後ろから声がした。
振り返る。
受付嬢だった。
「昨日から急に出た依頼なんです」
「急?」
「はい。しかも依頼主匿名で」
クロの目が細くなる。
「匿名?」
「たまにあるんですか?」
私が聞くと、受付嬢は困った顔をした。
「なくはないですけど……高報酬ですねぇ」
私はもう一度金額を見る。
「こんなにもらえるの?」
「危険度込みでしょうね」
クロが低く言った。
「受けねぇぞ」
「えー」
「えーじゃねぇ」
私は依頼書をじっと見る。
調査だけ。
高報酬。
ちょっと怪しい。
でも。
「なんか冒険っぽい」
「やめろ」
クロの声が真剣だった。
「絶対ろくなことにならねぇ」
「でもさ」
私は笑う。
「なんとかなるよ」
クロは顔を覆った。
「その言葉禁止にできねぇかな……」
---
結局。
私は依頼を受けた。
「なんで受けた」
「気になったから!」
「知ってた」
クロはもう諦めた顔だった。
---
旧坑道は街から少し離れた山の中にあった。
入り口は古い鉄柵で封鎖されている。
「うわー」
私は見上げる。
「冒険っぽい」
「帰りてぇ」
クロがぼそっと言った。
私は鉄柵の隙間から中を見る。
暗い。
冷たい空気が流れてくる。
「崩落確認だっけ?」
「ああ」
クロは周囲を見回している。
いつも以上に警戒していた。
「クロ?」
「静かすぎる」
「そう?」
「鳥もいねぇ」
私は耳を澄ます。
たしかに。
風の音しか聞こえない。
少し不気味だった。
「行く?」
「……行きたくねぇ」
「でも依頼だし」
クロは深くため息をついた。
「分かってる」
私はランタンを持って坑道へ入る。
中はひんやりしていた。
古いレール。
崩れた木材。
長い通路。
「ほんとに誰もいないんだね」
「ああ」
クロの声は低い。
その時。
私は壁際に違和感を見つけた。
「あれ?」
「どうした」
「これ」
地面を見る。
新しい足跡。
つい最近ついたみたいだった。
クロの空気が変わる。
「……新しいな」
「誰かいるのかな?」
「依頼主か」
クロは低くつぶやいた。
私は足跡を追う。
通路の奥。
暗闇。
そして。
そこで私は気づいた。
「……あれ?」
「どうした」
私は壁を見ていた。
「これ、崩落じゃない」
「何?」
ランタンを近づける。
壁に刻まれた、奇妙な紋様。
魔術式。
しかも。
まだ新しい。
クロの目が細くなる。
「……人為的か」
その瞬間。
カチ、と音がした。
「え?」
私は足元を見る。
床に、小さな魔法陣。
淡く光っている。
クロの顔色が変わった。
「リリア」
「うん?」
「動くな」
「え?」
一拍。
坑道全体が、大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴ――!!
「うわぁ!?」
天井から岩が落ち始める。
クロが叫んだ。
「罠だ!!」
私は慌てて後ろを見る。
でも。
出口側も崩れ始めていた。
逃げ道が塞がっていく。
「ええええ!?」
その時。
坑道のさらに奥。
暗闇の中で。
誰かが、こちらを見ていた。




