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【失敗】スキルなのに、なぜか最善の結果になるんですが?  作者: ソル
第三章  計算外の少女
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第21話 監視役

 ギルドに入った瞬間。


「なんか見られてない?」


 私は小声で言った。


 クロの耳がぴくりと動く。


「……お前も気づいたか」


「うん」


 なんとなく。


 視線を感じる。


 私はそっと周囲を見る。


 冒険者たち。


 受付嬢。


 依頼掲示板。


 いつもと同じ。


 ……のはずなのに。


「なんか変」


 クロは低く言った。


「近いな」


「近い?」


「視線だ」


 私は「ふむ」とうなずく。


「人気者?」


「違ぇよ」


 クロはため息をついた。


「嫌な方向だ」


---


 私は掲示板を見る。


「今日はどれにしようかな」


「簡単なのにしろ」


「最近そればっかり」


「当然だ」


 クロは真顔だった。


「お前の場合、“簡単”でも事件になる」


「失礼だなぁ」


 私は依頼書を眺める。


 採取。


 掃除。


 雑用。


「平和だね」


「そのままでいてくれ」


 私は一枚の紙を取る。


『薬草採取』


「これにしよう」


「よし」


 クロが珍しく即答した。


「今日は平和だ」


「そんなに安心する?」


「ああ」


 クロは深くうなずく。


「薬草は爆発しねぇからな」


「私をなんだと思ってるの」


「歩く事故」


「ひどい」


 そんな話をしていると。


「失礼」


 後ろから声がした。


 私は振り返る。


 そこにいたのは、黒いローブの男だった。


 年は二十代くらい。


 細身で、静かな雰囲気。


「新人冒険者のリリアさんですね?」


「はい?」


 クロの目が細くなる。


「誰だ」


 男は軽く頭を下げた。


「私はエルム」


 穏やかな笑みを浮かべる。


「少し依頼について聞きたいことがありまして」


「依頼?」


「ええ」


 男は自然な動作で、掲示板を見る。


「最近、珍しい成功例が多いそうですね」


 一瞬。


 クロのしっぽが止まった。


「……へぇ」


 低い声だった。


 私は首をかしげる。


「成功?」


「遺跡の件や旧水路の件です」


 エルムは柔らかく笑う。


「新人にしては優秀だと聞きました」


「えへへ」


 私はちょっと嬉しかった。


「なんとかなってます!」


「お前は黙ってろ」


 クロがぼそっと言う。


 エルムの視線が、クロへ向く。


「……珍しい猫ですね」


「普通の猫だ」


「喋りますよね」


「最近はそういう猫もいる」


「雑だな」


 エルムは少し笑った。


 でも。


 その目は笑っていなかった。


 じっと。


 観察するみたいに私を見ている。


 なんだろう。


 少しだけ落ち着かない。


「何か?」


 私が聞くと。


 エルムはすぐに微笑んだ。


「いえ」


「ただ興味がありまして」


「興味?」


「ええ」


 一拍。


「あなたの“失敗”に」


 クロの空気が変わった。


 私は「あはは」と笑う。


「失敗ならいっぱいしてます!」


「知ってます」


 エルムは静かに言った。


「だからこそ、です」


 その声は穏やかなのに。


 なぜか少し冷たかった。


 クロが低くつぶやく。


「……リリア」


「うん?」


「行くぞ」


「え?」


「今すぐだ」


 私はきょとんとする。


「薬草採取は?」


「後だ」


 クロはエルムから目を離さない。


「こいつ」


 一拍。


「嫌な匂いがする」


 エルムは少しだけ目を細めた。


「警戒されていますね」


「当然だ」


 クロの声は低い。


 私は二人を交互に見る。


「知り合い?」


「違う」


「初対面です」


 二人同時だった。


 でも。


 空気は全然穏やかじゃない。


 エルムは小さく笑う。


「安心してください」


「今日は挨拶だけです」


「今日は?」


 クロが鋭く反応する。


 エルムは答えなかった。


 代わりに、私へ軽く一礼する。


「またお会いしましょう」


 そう言って立ち去っていく。


 私はその背中を見送った。


「変な人だったね」


「……」


 クロは答えない。


 ただ。


 じっとエルムの背中を見ていた。


 その目は、今までで一番鋭かった。


「クロ?」


 低い声が返ってくる。


「始まったな」


「なにが?」


 クロは小さくつぶやいた。


「観測だけじゃ済まなくなった」


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