召喚士されし者 84・ユーキのいない三日間その6
うがぁーー!過去へん終わったぁーー!
三日間、長かったぁーー!
はい、と言う分けで三日間編ラストです。
一話一話長い、三日間編。
もう少し構成のしようもあっただろうにね。
なんてね。言ってもしょうが無いのだけどね。
楽しみにしてくれていた皆さんありがと御座います。本当にお待たせいたしました。
三日間編ラストはユミスさん視点のお話です。
青く茂る森を抜け、牙は駆ける。
灰色の地面を踏み締め、爪は駆ける。
その眼に写る全てを掻き分け、押し退け、踏み潰し、狂気は駆ける。踏み殺す為に、切り殺す為に、噛み殺す為に、なぶり殺す為に。
両の目を狂気の色に染め上げ、息を切らし一心不乱に駆けるその一団は魔物の群れであった。色形は勿論、大きさ、種族、何もかもが違う混沌としたその一団は、ただ一つの目的を完遂する為に群れを成していた。
主より与えられた命を叶える事。
狂気に駆ける物達は知らない。
何故、壊すのか。何故、殺すのか。
そこにどんな理由があって、どんな意思があるのか。
駆け行く物達は知らない。
牙は、爪は、駆ける。
主の言葉を、真実とする為に。
囁くような主の言葉、耳に響いた主の願い。
壊せと、殺せと。
狂気は駆ける。
眼前に迫る、灰色の壁を目掛けて。
◇━◇
エルキスタの街を数多の危機から救い続けてきた灰竜門が、魔物達に破られてから既に一時間程がたった。
今や賑わいでいてあの道も、寂しげな路地裏も、等しく血の臭いに満ちた修羅場へと変わっていた。
眼前に迫る魔物を殴り付けながら進み、ひたすら生きている人を探すが、もう暫くは見ていない。
「ユミス!」
あたしの隣で拳を振るうシアが、怒鳴るように声をあげる。
「何っ!?」
「屋敷が心配です!中央区に抜けてくる魔物の数が明らかに増えました!屋敷な守りはそう厚くない筈です、ユーキ様が!」
「わかってる!もうちょっとだけ粘って!」
あたしは視線を屋敷の方向へと向ける。
青白い光と共に地面が盛り上がり、灰色の壁が道を塞ぐように反り立つ。
『中央通り、封鎖完了!ユミス、北区はこれで隔離したから、どんどん避難させなさい!』
魔法により増幅されたベルの男気溢れる声が辺りに響き渡る。
持つべき物は魔法使いの友人だな、と染々思いつつシアに視線を送る。
「ありがとう!シア、行って良いわよ。ユーキに宜しくね!」
「ユミスは大丈夫ですか?」
「あたし?!大丈夫よ!もう暫くこの辺りの魔物ぶっ飛ばしたらあたしも避難するから、先に行って!」
「━━━いえ、やっぱり貴女一人を置いていく訳にはいきません。さっさと倒して、一緒に行きますよ!」
シアの目にはまだ迷いの色が見えた。
口ではそう言ってもユーキの事が心配で堪らないのだろう。
嬉しい反面、そうさせてしまっている自分の不甲斐なさがいたたまれない。
でも、ここでシアに掛ける言葉は謝罪では無い筈だ。
「・・・ありがとう。惚れ直したよシア。」
「それはどうも。そんな事より、前を向いて闘って、下さいっ!!」
怒号と共に放たれたシアの拳が、レグノース顔面に突き刺さり牙ごと頭蓋を粉砕する。
それに習い、あたしも拳を叩き込んで行く。
シアのように一撃で粉砕、と言う分けには行かないが。
二三匹、蹴散らした後にベルの声が響いてきた。
『ユミスー!聞こえてるぅー!?策敵に妙な反応が引っ掛かったわ!闘技場方面!幾つか反応が怪しいわ!』
闘技場方面?
「━━ユミス!闘技場方面は確か。」
「あ、うん。豚王に行って貰ってる場所よ。」
◇━◇
赤い狼煙の正体は魔物の集団暴走を告げる物だった。そして、これが予測以上の危険性を孕んでいる事をベルから伝えられ、あたしは直ぐに行動を開始した。
街に散らばっていた門下生達、そして私的に雇い入れていた武芸者達に事態の危険性を告げ、出来る限りの協力を呼び掛けた。以外にも門下生達は直ぐに反応を示し、住人の避難誘導をかって出てくれた。
連絡のついた武芸者達は、レイベウロス捜索の手を止め、そのまま街の防衛に着くと言ってくれた。
街の防衛の為、あたし達は5つのグループに別れ行動する事になった。
東区、闘技場方面に豚王とその連れ達を主とした防衛グループ。
西区、商業区方面に残光の一門を主とした防衛グループ。
南区、街の正門方面に拳岩とその友人を主とした防衛グループ。
中央区、あたしとシアがつき数人の武芸者を率いる事になった。
魔法使いの友人であるベルには避難区域に選らんだ北区の完全隔離をお願いした。そして北区の完全隔離が済み次第、北区における対空防衛グループとして魔法を思う存分振るって貰う予定だった。
中央区で奮闘する事一時間程。
予定通り北区の完全隔離を果たした後、あたしは南区から中央まで戦線を後退させた拳岩と入れかわるように、中央区から撤退した。
そしてそのまま避難区域である北区でなく、闘技場方面へと向かって走っていた。傍らにシア、後方に武芸者達を引き連れ、魔物を掻き分け、真っ直ぐに。
本来の予定では、北区の完全隔離までの間各方面のメインストリートを中心に防衛し、隔離後はグループリーダーの判断に従い随時避難区域まで撤退をする事になっていた。
だが、ベルの感知魔法により闘技場方面へと向かった豚王達が一行に撤退する気配が無い事を告げられた。
魔物の数は増える一方で、このまま撤退が遅れれば豚王達の撤退線まで潰される恐れがあった。撤退線を潰されれば、当然全滅は免れない。
あたしの呼び掛けに応えてくれた彼等をみすみす死なせる分けにはいかない、そう思ったあたしは撤退線を確保しつつ、豚王達の救援の為に闘技場方面へと向かう事にした。
一人でもやるつもりだったのだが、中央区で奮闘した面々は勿論、シアまで付き合うと言ってくれた。
ユーキの事があった為、シアには戻って貰うつもりだったのだが、断固として拒否された。
撤退するまでは着いてくるそうだ。
屋敷には執事であるベン爺や腕利きの守衛達がいるので大丈夫だと信じたいが、何もかもが想定外な状況だ。絶対に大丈夫とは言えない以上、シアには屋敷に戻って貰いたかったのだが・・・。
並走するシアの顔を見れば、やはり何処か心配そうな表情をしていた。
「シア、無理しなくて良いから。今からでも━━━」
「その言葉、そっくりユミスに返します。」
「うぅ?!」
「ユミスはあれもこれも、心配し過ぎなの。ユーキ様ならいざ知らず、一人で出来る事なんてそう多く無いんだから、身内の心配だけしていれば良いんですよ。お父さんとラーゴさん、無事だと良いですね。」
忘れてた訳じゃ無い。考えないようにしていた。
二人の事は、ずっと心配だった。
治療院付近は最も早く避難誘導を開始した場所で、他の地区に比べかなりの余裕があった。
そのお蔭で一人の洩れも無く入院患者が避難区域に移送されたのも聞いている。
でも、それでも、まだ心の中にある不安な思いは消えなかった。
もしもが、最悪が、どうしても頭を過る。
でも今は。
「無事だよ。きっと。だから今は、あたしにしか出来ない事をしなくちゃいけないんだ。あたしは、守るよ。この街を。この手に届く皆をっ!」
この思いは使命感からでも義務感からでも無い。
キリシマ拳竜術の次期当主などのしがらみも関係無い。
ただ、ただ、この街愛する一人として、あたしの意思だ。
あたしだけの意思だ。
高ぶった思いのまま強く踏み込めば、闘技場はグングンと近づいていく。
そして、目と鼻の先まで闘技場が迫った時、「ズン」と地面が揺れる。一瞬狼狽えてしまったが、直ぐに気を引き締めて直した。それが戦闘音であると直感的に分かったからだ。
嫌な汗が背中を伝う。
「皆っ!!気を引き締め直して!急ぐよ!!」
豚王を含む武芸者数人がかりで手こずる相手。
そんな奴がただの魔物のわけが無いのだから。
◇━◇
魔物を打ちのめし闘技場内へと乗り込むと、そこに見えたのは夥しい死体の山だった。魔物とも人とも言えない臓腑が床や壁に飛び散り、何度も訪れた思い出の灰の石畳は、今赤一色に染まっていた。
生存者がいない事を確認して、あたし達は更に奥に足を進める。
向かう場所は未だ戦闘音が鳴り止まない第一中央会場だ。
会場への入り口まで辿り着いた時、「ドン」と一際大きな音と揺れがあたし達を襲った。
音の位置がかなり近い。
恐らく、会場を囲む塀に何かが当たった音だ。
それも入り口のあるこちら側の何処かに。
「ユミス!!」
シアの声で意識を前に戻す。
すると、ぽっかりとあいた会場の入り口から、此方に向かって駆ける男が見えた。
瞬時にそれが味方でない事に気づく、纏っている気配が異常だった。
「ユミス!私が止めます!次を!」
シアが拳に魔力を溜め込み、一気に加速する。
そしてその勢いを殺さず、攻撃射程圏内にまで迫った男に目掛け拳を放った。
シアの拳が鈍い音と共に男にめり込み、前進していた男の足は止まる。
すかさず動きを止めた男に向かい、あたしが拳を振り上げた時だった。
シアが声をあげた。
「ダメ!!」
その瞬間、何かが右頬を掠めた。
赤い血飛沫があたしの視界に映る。
咄嗟に飛び退き、体を横に転がさせる。
起き上がり頬を撫でれば、生暖かい液体がべったりと付いていた。いや、流れていた。
落ち着いて男と組み合うシアを見る。
すると、男の足に赤い染みが付いているのが見えた。
そこで漸く、顔面に向かって蹴りを放たれた事を理解し、理解した途端、背筋に悪寒が走った。
もし、シアが声を掛けなければ今頃首をもがれていても可笑しく程、放たれたそれは強力な物だったからだ。
そして、そんな相手に、今友人であるシアが組み合ってしまっている事実に。
「シア!離れて!」
咄嗟に出た言葉は、気休めにもならない言葉、悲鳴だった。
それでも、そう言わなければ、責任感の強い彼女がそのまま得たいの知れないその男と組み合い続ける事になってしまう。
だが、その声を聞いている筈の彼女は、男から離れようとしない。
「シア━━━っ!?」
再び声をあげた時、シアが離れられない理由に気がついた。
シアの右拳が男の右掌にがっしりと掴まっていたのだ。
メキメキと何が軋む音を鳴らしながら。
そして男の空いたもう片方の手を、シアは必死になって止めていた。
それこそ、身動ぎ一つ出来ずに。
直ぐにシアの元へ駆けつけようと足に力を込める。
だが、足は一向に言うことを聞かなかった。ただ、ただ震えるばかりで。
後方から駆けつけた武芸者達も、男の異様な気配に近づく事すら出来ない。
徐々に男の左腕がシアの首に近づいていく。
シアは右拳の痛みに顔を歪めながら、必死に耐えようとする。だが、男の左腕は止まる事なく、じりじりとシアに迫り続ける。
そして、シアの首筋に男の指が触れようとした瞬間。
あたしの隣を誰かが通り過ぎていった。
「シェイリア!!動くなよぉ!!」
聞き覚えのある声が響く。
それは、シアの仲間の声だった。
そう、ロイドと言う冴えない冒険者の。
「どぅおらぁ!!!」
怒声と共に落とされた斬撃は空を切った。
男が腕を狙うロイドに気づき、いち早くその場を飛び退いたからだ。
距離をとった男に、ロイドが剣を突きつける。
牽制するように睨みを効かせながら。
「大丈夫かぁ?」
シアを背に庇いつつ、ロイドは話し掛ける。
「はぁ、はぁ、大丈夫ですよ。それより、今まで何処ほっつき歩いていたんですか!ユーキ様の看病もしないでっ!大変だったんですよ!」
「はぁ?まぁ、悪かったよ。つか、おちびの看病とか、シェイリアにしたら御褒美も良いところだろ。苦労の欠片もしてねぇじゃねぇか!」
口汚なく罵り合う二人を見ながら、あたしは何処か安堵していた。忘れかけていた日常が、そこに見えたからなのかもしれない。
足の震えは無くなっていた。
立ち直ったあたしは周囲を見渡し手負いの豚王達を見つける。
やはり先程の轟音は豚王が塀に叩きつけられた音だったらしい。
動ける武芸者達に豚王達の救援を任せ、あたしはロイドの元へ駆け寄った。
「ろ、ロイド!」
「んぁ?おぅ、お嬢じゃねぇか。どうした?」
「取り合えず、その、シアを助けてくれてありがとう。あたしはもう大丈夫だから、ロイド下がってて。」
あたしの言葉にロイドが頭を傾げる。
「?礼を言われる筋合いはねぇけど、まぁ、どういたしまして。でも、下がるつもりはねぇぞ。」
「はぁ?まさか、その男とやり合いつもり!?あんたの実力はあたしも良く知ってるわ。伊達に一月も一緒に旅をした訳じゃ無いもの。さっきの奇襲は偶々上手くいっただけ、調子に乗らないで下がってて!」
ロイドから鼻で笑う音が聞こえた。
「偶々じゃねぇよ、何回だって成功するさ。馬鹿力担当のシェイリアが全力で抑えこんでんだ。見て無かったのか?あの男もしっかり踏ん張ってたろうがよ。そうじゃなきゃ、止められねぇよ。うちのシェイリアはな。」
あたしはシアが男と組み合っていた場所に目を向けた。
言われた通り、男の居たと思われる場所にはしっかりと足跡が刻まれていた。
相当しっかり踏み込んだような跡だった。
確かに、これなら先程のような反撃は有り得ないだろう。
あたしより、ずっと後ろにいた筈なのに良く気づけたものだ。
「でもまぁ、あのレイベウロス相手に良くもったな?俺は瞬殺だったぞ。」
「レイベウロス!!?」
あたしとシアの声が重なる。
シアはどうか分からないが、あたしは驚いたと同時に納得してしまった。
武神と呼ばれる由縁、纏う異質な雰囲気が全てを物語っているような気がした。
「おぉ・・・。何かもわかんねぇのにぶっ飛ばそうとしたのか・・・。こぇぇ奴等だな。お前ら。」
「それは仕方ないでしょう!雰囲気が異常だったんですから・・・。人と言うより、あれは魔物みたいでしたよ。」
そうだ。あの男を現すなら、それ以上合う言葉も無い。
仮にあるとしても、怪物とか、化物とかだろう。
「そうかもな。ありゃ、人間とは言えねぇからな。」
「はぁ?どういう事ですか?」
「説明すると長くなるんだよ、だから後でな。兎に角、こいつは街をぶっ壊した張本人で、お嬢の親父をボコったのもこいつ。んで、ラーゴを襲ったのもこいつ。こいつの名前はレイベウロス。それで十分だろ?」
・・・ん?
間違ってはいない筈なのに、何かひっかかる。
シアも納得いかないような顔をしている。
「ほら、いいか?そろそろ、認識阻害の魔法が解ける。そうしたら、あの筋肉男ぶっ飛んでくるぞ。覚悟しとけよ?」
「魔法って・・・。ロイド、貴方本当に何処で何していたんですか・・・。」
「なぁに。ちょっと有名な魔導師殿の御自宅で、ちょっと弱味を握ってから、御手頃なお宝をちょっと拝借してきただけだよ。」
「それ泥棒じゃない!?」
すかさずツッコミを入れるが、ロイドの予想通りレイベウロスが此方に向かって突っ込んできた事でうやむやにされた。
「━━━あ、来るぞ!!」
「こらぁ!!」
ロイドが剣を構え、シアが拳を握り締め、あたしは強く地面を踏み込んだ。
━━━が、それらが振るわれる事は無かった。
突如、上空から黒く淀んだ光が降ってきたからだ。
まるであたし達からレイベウロスを引き離すように。
「ユーキ様!!」
シアが空を見上げて叫んだ。
つられて見上げた先に、王冠を被った青い蝿が居た。
目を凝らして見れば、その蝿の背に彼女が、ユーキが、いつものように赤い髪を風に流し悠然と立っていた。
相変わらず何を考えているのか分からない、ぼけっとした表情をその幼い顔に浮かべながら。
ユーキちゃんがアップを始めました
の
コーナー
ユーキ「・・・」シュシュッ!シュバッ!シュバババッ!
ロイド「・・・?どうした、おちび?そんな・・・・。あぁ、シュバシュバ動いて」
ユーキ「次話、大暴れするから!」ドン!
ロイド「そ、そうか。」
ユーキ「次話、大活躍だから!」ドドン!
シェイリア「流石です!」パチパチ
ユーキ「もう、あれだから!もう、あれだからね!もう、凄いんだから!」ドドドン!
ロイド「・・・・・」(;・ω・)
◇━◇
ルゥ「きさんが闘うとは、作者は言っていない」
ユーキ「闘わないとも言っていない!!」
ユーキちゃん、すてんばい完了です。




