召喚士されし者 63・鋼を喰らうモノ
ヤヨイさん、まだ出番なし
「御苦労様です。ユーキさん。」
10匹目のアイアントが壁の染みになったのを見計らい、アルベルトが労をねぎらうように声を掛けてきた。
「さぁ、後は無事に帰って手続きを済ませれば、晴れてランク4です。御依頼、選び放題ですよ。ユーキさん。」
「お、おう。」
おお。なんか期待されてる。
取れるなら取っとくか的なのりで来たから、あんまり働く気は無いんだけどなぁ・・・・。
武祭も近いから、そっちの準備しないとだからな。
流石に、一流の拳術家を相手に圧倒出来るとは思えないし、ヤヨイに稽古つけて貰って、怪我しない程度には仕上げないと。
「・・・・うーん。期待されてるとこで悪いんだけど、あんまり依頼受ける気ないぞ?」
「そうですか。ではやはり、ここに来たのは武祭が目的ですか?」
「まぁな。一応出ることになってる。」
「ほぅ。キリシマの拳術家の方でしたか。」
「うーん。まぁ、頼まれて、代理でね。」
その頼んだフューズベルトの爺さん、今頃なにしてんだろ。
いい加減、怪我治ったかな?
そんな風に物思いにふけっていると、突然、坑道の奥から地鳴りのような音が響いてきた。
音に呼応するように地面も大きく揺れ始める。それこそ立っていられない程にだ。
倒れそうになる俺の腕をアルベルトは掴み、さっと引き寄せる。
揺れはが少しずつ治まっていくが、完全には止まらないようだ。
小さい揺れが足元から伝わる。
「これは・・・・・。」
俺を引き寄せたまま、アルベルトが険しい表情で坑道の奥を睨み付ける。
「なんか知ってんのか?」
「正確には何とも言えませんが・・・・。恐らく、[女王]が動きだしたのだと思います。」
「女王?」
アルベルトが懐から一冊の手帳を取り出す。
片手で器用に開くと、あるページを俺に見せてきた。
「[クイーンアイアント]。アイアントの最上位個体です。普段は下位個体であるアイアントを手足のように使い、坑道の奥で産卵のみを行っておりますが、ある理由から動き出す事があるんです。」
「?アイアント倒されて怒ったのか?」
「はい。下位個体であるアイアントが一定数減った場合、女王自ら外敵の排除を行う事があります。恐らく、それかと思うんですが。しかし、おかしいですね・・・。調整はしてあるので、こう言った事は起こらない筈なんですが━━」
甲高い音と共に轟音が鳴り響き、地面が再び大きく揺れる。
それに伴い坑道の奥からカチカチと沢山の足音が聞こえだした。
「取り合えず、ここに留まるのは危険ですね。ユーキさんしっかり掴まっていて下さい。」
「むぅ?おう、分かった?」
アルベルトは手帳を仕舞うと、空いたその手を壁につける。
「悠久たる大地の王よ、"拒絶"を抱きその力を示せ。[ウォール]。」
一言アルベルトがそう発すると、触れていた岩やその周囲の岩が集まっていき、坑道を塞ぐように岩の壁が出来上がる。
「これって!魔法か!」
「ええ、そうですよ。さて、これで少しは時間が稼げるでしょう。行きますよ。」
俺をしっかり抱き寄せたアルベルトが「リターン」と唱えると一瞬で廃坑前に移動した。辺りを見渡し安全が確認出来た所で、アルベルトは俺から手を離す。
「さぁ。女王が廃坑外まで出てこないとは限りません。安全の為にユーキさんは街へ帰って下さい。そして早くギルドマスターにこの事を。」
「ん?手伝うぞ?女王、クイーンアイアントってのが来るかも知れないんだろ?」
見てみたいしな、でっかいアイアント。
「駄目です、危険過ぎます。クイーンアイアントのランクはA、災害級の力を持っているんです。戦士ギルドなら、ランク7以上のメンバーが複数のチームを編成して挑む程なのですよ。貴女が実力者である事は認めますが、こればかりは了承出来ません。」
「・・・・・むぅ。」
なんて頑固そうな目をしていやがる。
怒ってる時のシェイリアみたいだな。
なんとか説得してみようと、色々考えてみるがいい言葉が見つからない。
「むむむ、言葉よりも・・・・まずは行動から、かな。」
「ユーキさん?」
「まぁ、見てろって。あと言いふらさないでくれよ!」
幾分かの魔力が持っていかれる感覚を味わいながら、足元に紅く光る魔方陣を構築する。
「これは!?」
驚きの声をあげるアルベルトを横目に、俺は3体の召喚獣を喚び出す。アルディオ、ガイゼル、ラ・ディーンの3体だ。
小脇に抱えたムゥを合わせると4体同時召喚になる。
何気に初の試みに内心ドキドキしていたが、上手くいって良かった。一斉召喚なんて草トカゲ以来だからな。失敗するかと思った。
「ユーキさん、貴女は。」
アルベルトが困惑した表情を浮かべる。
「俺、実は召喚士なんだよね。」
「それは、・・・まぁ、見て分かりました。ですが━━━」
「グルゥゥ!!」
ガイゼルの唸り声が俺達の会話を止まらせる。
他の3体も警戒を強め、ガイゼルの警戒する方向へ視線を向ける。
地鳴りのような音が廃坑から溢れ出し、揺れが大きくなっていく。そして岩を砕くような轟音とあの甲高い音が直ぐそこまで迫ってきていた。
「ドォン!」と言う音共に、廃坑入口が内側から吹き飛ぶ。辺り一面に土埃が舞い視界を覆う。
ガラガラと崩れる岩の音に混じり、ガンガンと地面を砕くような音が、廃坑入口の方から聞こえてきた。
俺はラ・ディーンに命じて土埃を払わせる。
視界の晴れた先にいたのは、やはりと言うか、なんと言うか、ツルツルでテカテカな鋼鉄色に輝くアイアントだった。
ただ、そのアイアントは大きさが普通では無かった。
廃坑入口より明らかに大きい頭は、アルディオ並みの質量感と大きさ持っており、牙の長さは俺の身長より大きく逞しい。飛び出したその足は製錬された槍のようで、抉るように地面に突き刺さっていた。
俺達を目にした巨大アイアントは狂ったように身を捩り、廃坑を崩しながら無理矢理抜け出す。
胸部が抜け出し、腹部が抜け━━━━
「はぁっ!?」
廃坑をから抜け出したその腹部に、俺は度肝を抜かれた。
アイアントの腹部は百足だった。
夥しい硬質な足が地面を叩き、長くうねった腹部が廃坑から抜け出した。
全長はゆうに100メートルを越える化け物がそこにいたのだ。
女王が抜けてきた穴から、これまた夥しい程のアイアントが姿を見せた、数える気にはなれないが、100匹以上はいるだろうと予想する。
「さて、凄い事になってきたなアルベルト。この後に及んで逃げろとは言わないよな?」
そう笑いかけるとアルベルトが苦笑する。
「はぁ、・・・こうなったら仕方ありませんね。ユーキさん、ご協力お願いいたします。ですが、無理だと思ったら直ぐに逃げて下さいね。約束ですよ?」
「まだ言うか。」
「言いますとも。緊急事態とは言え。本来なら、貴女のような子供に戦わせるべきではないのですから。」
「ん、分かったよ。無理はしない。いざとなったら速攻で逃げてやるよ。」
「ありがとう御座います。では、行きましょうか。」
話がまとまった俺達は女王様に向き直る。
その俺達の姿にクイーンアイアントは甲高い咆哮を上げた。鋼色の体に映える、深紅の目をぎらつかせながら。
どうも、どうも。
一つ、人の世の生き血をすすり。
二つ、不埒な悪行三昧。
三つ、醜い浮き世の鬼を退治してくれよう━━
赤金えんたです。
いつも読んでくれる皆様に
ありがとう、ありがとう御座います。
もう一つの小説が遅々として進まず、ストレスの全てをこちらにぶつけている為か、捗ってしようがありません。
捗っても、毎日更新は無理ですが(泣)。
真紅の召喚士も、もう少し(詐欺の可能性アリ)で一つ章が終わりそうなんで、エンジン爆上げで頑張って行きたいと思います。
では。




