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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第四章】天使の卵
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(八)文化祭当日:わんこじゃない

 午前も陽が高く昇るにつれ、いつの間にか校内は、一般客で溢れて賑やかさが増してきていた。


 俺のクラスの『わんこ茶屋』も、なんだかんだで客足が途絶えず、順調に営業していた。おかげで予備人員扱いの俺も、休む間もなく手伝いに追われている。特にお椀の数が圧倒的に足りなくて、洗っては拭き洗っては拭きを繰り返している状態だ。


「わんこそばのつゆには、『ふつう』『あまめ』『からめ』『むぼう』の4種類がありますが?」

「じゃ、じゃあ、『むぼう』で」

「無謀の勇者様、お一人様ご案内でーす!」

「へーい、喜んで!」

「いらっしゃいませ、ですの!」


 ……何かがいろいろおかしいが、まあ、それは置いておこう。



 ◆



 そんな目まぐるしかった午前があっという間に終わりを告げ、ハノンの昼休み休憩を迎えた。


「はあ……さすがに疲れましたですの」


 教室の片隅に設置されているカーテンの引かれた着替え兼待機所で、ハノンは机に突っ伏した。机の上に飛び降りたハムスター精霊のロッキーが、ハノンの頬に優しく擦り寄っている。


「ハノンちゃん、ゆっくり休んでね〜。まだまだお客さん来るかもだから」

「はぁーい、ですの」


 返事の声も、どこかぞんざいだ。


「おつかれ。立ちっ放しだったもんな。もうたくさん、って感じ?」

「そんなことはありませんの! みなさんに喜んでいただくために、わたくしはまだまだがんばりますですの!」


 そう言って、キリッと顔を上げるハノン。そういうところは真面目なんだな。


「でもちょっとだけ、ダラ〜〜っとしてたいですの〜……」


 消え入るように独り言を呟くと、再び、フニャフニャと机の上に伸びてしまう。大きな耳もペタンと垂れ下がり、疲労でクタクタといった様子だ。

 ハムスター精霊のロッキーも、ハノンの周りをグルグルと駆け回って心配げだ。


 この調子じゃ、昼飯どころじゃないかな?


 とはいえ、休憩時間もそんなに長くはない。俺もあと20分か30分ほどで、お化け屋敷の方に行かなければならないし。


 教室の時計を見ながら、思わず、『ミッションS』の事が気になってしまう。機密車両はもう通り過ぎただろうか? 『ピーワン』『ピーツー』に不審人物は現れていないだろうか?

 双破(ふたば)の検知魔術が作動してないから、きっと問題はないだろうが……。


 お化け屋敷の担当に行く前に、ユリルの店にも行きたいが、『ピーワン』『ピーツー』も見て回りたい。


 店の手伝いに忙殺されていたが、解放された瞬間にそんな思いがグルグルと駆け巡り始めた。こんなことなら、無理にでも途中で見て回るべきだったかな?


「……そういえば、なんで『わんこ茶屋』なんでしょう……?」


 気が急いてモヤモヤする俺とは裏腹に、ハノンがボヤ〜っとした声で独り言のように問いかけてくる。


「そりゃあ、『犬』と『わんこ』を掛けてるからだよ」

「犬とわんこ……? どうしてですの?」

「ハノンが犬型獣人だからだよ」

「はい?」


 ハノンが眉をしかめながら、耳をピンと立てて顔をあげる。


「ナットはまたそんなことを……! わたくしに何か恨みでもあるんですの!?」

「へ?……俺、なんかヘンなこと言ったかな?」


 もしかして、”獣人”って差別用語かなんかだっけ……?


「わたくし、猫型獣人ですの!」

「……えええええええええええええええええええええええええ!???」


 と、とんでもない事実が発覚した!!! クラスのみんなは絶対、犬型だと思ってる!! 教授だって「犬耳の」って言ってたし!!! 小さくついてるお尻の尻尾だって、犬のモノっぽいじゃないか!!!!


「どこからどう見ても猫でしょう!? ホントにナットは酷い人ですの!」


 ハノンは犬耳……もとい、猫耳をピーンと後ろに引き絞り、頬を膨らませると、再び机の上に突っ伏した。


「はあ〜〜〜〜っ、疲れが抜けませんの〜〜〜〜……暖かいヒナタでドロのように眠りたいですの〜〜〜〜〜」


 ……もしかして、それでいつも寝てばかりなのか……? 確かに、これまでのハノンの行動を思い返してみると、犬っていうより、どことなく猫っぽいような……。


 ……ハッ!?



 ────今日、店が繁盛しているのはハノンの招き猫効果なのか!?



「(……有り得なくもないな……)」


 愕然とする俺の背後で、サッとカーテンが開く音がした。


「こんにちは。天使様のご機嫌はいかがかな?」


 振り向くと、開いたカーテンの向こうで、双破タケルが颯爽とした笑顔を輝かせていた。


「やあ、双破。ご覧のとおりだよ」

「う〜〜〜、足が重いですの〜……わんこそばが絡みついているかのようですの〜……」

「ははは、かなりお疲れのご様子だね」

「お客さん、いっぱいでさ。休む暇もなかったからね」

「双破さんの方は、どうですの?」

「もちろん順調さ! 午後の準決勝と決勝を残すのみ、だよ」


 キランと白い歯を輝かせて、双破が自信たっぷりに言い放つ。うーん、『ミッションS』のことなんて、これっぽっちも気にしてなさそうだ……。


「おーい、双破〜。教室の前の追っかけ、なんとかしてくんねーか?」


 双破の向こうから、さも鬱陶しいといった様子の男子の声がする。見ると、教師の外は、戸口から窓まで、ぎっしりと女子生徒たちでうめつくされていた。

 皆一様に、双破タケルにハートマークな視線を注いでいる。


「ははは、参ったな! ちょっと目立ちすぎたかもね」


 双破のことだ、ちょっとどころじゃないだろう。


「そういえば双破」

「なんだい?」

「『ピーワン』と『ピーツー』の状況は確認した?」


 俺の問いかけに、双破が呆れたように肩をすくめた。


「確認なんかするわけないさ」


 ……やっぱりな。


「はははっ、またまた、そんな顔して。相変わらず日向(ひゅうが)くんは心配症だね! でも心配ご無用さ。僕のかけた検知魔術は反応してないでしょ?」

「それはそうだけど、ちょっとは心配にならないか? 実は賊がもう現れてて、上手く精霊魔術をすり抜けたんじゃないかとか……」

「全然」


 双破は、俺の言葉が愉快だといわんばかりに、満面の笑みを浮かべたまま首を横に振る。なんだかとても機嫌が良さそうだ。


「僕の精霊魔術は万全だし、万が一何か起こった後だったとしても、こっちに通信が入ってないとおかしいと思わないかい?」


 そう言って、耳に引っ掛けているゼノリスの専用ヘッドセットを指し示した。


 ……あー、なるほど。

 確かに、賊に機密車両が襲われるようなことがあれば、即座に滝宮(たきみや)隊長から連絡が入っていてもおかしくないな。


 これには俺も納得せざるを得ない。さすが双破だ。

 双破の考えを聞いて、心が少し軽くなった気がした。さすがに、俺一人で深く考えすぎてたかな……。


「それより、ユリルちゃんのお店に行く約束だよね?」

「行きますですの! それを楽しみにしてましたですの!」


 双破の言葉に、ハノンが飛び起きる。そしてニコニコしながら俺の腕に絡みついてきた。

 ハムスター精霊のロッキーも楽しげに「モキュッ」と鳴いて、ハノンの肩の上でクルリと回ってみせた。


「おっとっと……なんだよ急に元気になって」

「いい笑顔だね。その様子なら大丈夫そうだ」

「さあ、行きますですの!」


 まあ時間が惜しい今の状況では、早め早めに行動するのが一番だ。ハノンの勢いに押されるようにして、俺たちは待機所の外へ出た。

 クラスメートたちに「ちょっとご飯を食べてくる」と言い残して、教室の戸口へ向かう。ハノンに腕を取られているせいか、男たちの視線が痛いが……。


 さらに教室を出た途端、女の子たちの「キャー」という歓声とスマホのシャッター音に迎えられた。やっぱりみんな、双破のおっかけらしい。

 当の双破タケルはというと、まったく意に介す様子もなく、廊下を歩いて行く。


「おい、双破……」


 声を潜めて双破に囁きかける。


「なんだい?」

「あれ……どうにかしなくてもいいのか? お前、完全放置じゃないか……」

「どうする必要もないさ。好きにさせておくのが一番だよ」


 チラッと後ろを振り返ると、女子たちの一団が「後姿もカッコイイ」とか「歩き方がカッコイイ」とか「良い匂いがする」とか「どんな食事をするんだろう」とか言っている声が聞こえてくる。


「(……小学生みたいな子からお婆ちゃんまでいるけど……)」


 どうやったらこれだけ幅広い女子たちの支持を集められるんだか……。






わがままなワンコじゃダメなのか? 従順なネコがいてもいい……いや、それはいいや。

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