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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第四章】天使の卵
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(六)文化祭準備:ネットの噂

「幽霊が出る?」

「うんうん、そうだよ」

「それってお化け屋敷の幽霊じゃなくて?」

「本物ってウワサだよ。あくまで、ウ・ワ・サだけど」

「へ〜……」


 お化け屋敷用の資材が運び込まれた体育館。

 すでにお化け屋敷の担当者合同説明会は始まっている。舞台の上には生徒会のお化け屋敷総指揮者が上がり、大声を上げて説明をしている最中だ。

 各クラスのお化け屋敷担当者は、固まって床に腰を下ろし、その説明に耳を傾けていた。


 そんな中、俺は高石さんとその友人に混ざって、ヒソヒソ声で雑談をしていた。

 高石さんとその友人が担当者に選ばれたのは偶然だが、会ったそばから女の子同士のウワサ話が始まった、ってわけだ。


「でもね、今年は生徒会に怪しい手紙が来てるんだって」

「うんうん、怖いよね〜。誰が出してるのかな?」


 二人の話にビックリする。


「生徒会に怪しい手紙が来るって、どこ情報?」

「えっとね、『チャンネル743』のオカルト板だよ」

「うはっ、そんなところに埜之平高校の噂が出回ってんの?」

「うんうん。日向くん、ゼノリスなのに知らなかった?」

「ああ、ゼノリスの担当外だと思うけど」


 思わずポケットからスマホを取り出す。


 舞台上のお化け屋敷総指揮者が、これからお化け屋敷の設営準備を手伝って欲しいとか担当場所をくじで決めるとか言ってるが、左から右へ筒抜け状態だ。


「『チャンネル743』のオカルト板だっけ?」

「うんうん、そうそう」


 素早く専用の閲覧アプリを立ち上げて、検索をかけてみる。


「なんかね、すっごいいっぱいカキコしてる人がいるの」


 横で二人もスマホを立ち上げている。


「『ID:Yk0m964F−77』の人でしょ?」

「そうそう」

「……固定IDってこと?」

「うんうん。珍しいよね」


 『チャンネル743』は匿名の掲示板サイトだ。会員登録の必要はなく、ほとんどの人が匿名で利用している。その一般利用者IDは午前0時に毎回更新されるので、いつもIDが固定ってことはあり得ない。

 そんな『チャンネル743』でIDが固定ってことは……。


「(……有料会員なのか?)」


 有料会員になると固定のIDを取得できる。サイトの仕組み自体はよくわからないが、この有料会員IDは、外部の人からは絶対に身元特定ができない工夫がされているという。


 一般利用者用の変動ID制は、一見、身元特定されにくいように思われている。しかし実際のところは、日毎にIDに生成パターンがあるという話で、その日毎の生成パターンさえ把握してしまえば、簡単に身元が特定できてしまうらしい。しかもその生成パターンはすでに広く公開されているのだとか。

 なので書き込みが攻撃対象になれば、あっという間に実名から使用端末、年齢職業まで晒されてしまうことになる。


 これに対して、有料会員には別方法でのID付与が成されている。過去に腕利きのハッカーがこぞって『チャンネル743』の有料会員IDパターンを解析しようとしたが、誰も成功に辿りつけず断念した、なんて経緯もあったりする。

 今では『物理的に「チャンネル743」の会員情報DBにアクセスしない限り無理だろう』という評判だ。

 運営経験者でも、一部の人間にしかアクセス出来ないと公言している。


「(……有料会員だとするとつまり、書き込みしている本人が、なんらかの事情で絶対に身元をバラされたくないってことだ)」


 同時に、バラ撒いている情報が、かなり重要だってことだろう。そんな危険を犯してまで、何を伝えようとしているのか……。


「埜之平は呪われてる、とか」

「3つの怒れる御霊が降臨し、5つの悲劇が巻き起こる、だっけ?」

「最悪は1つの喪失を意味し、ナンチャラがカンチャラで、腐屍界への扉より13の亡霊が集いたもう、っていうのもあったよね?」

「ナンチャラカンチャラってなに〜? ヤダ〜」


 高石さんとその友人が、スマホを眺めながら笑い合っている。


「今のって、固定IDの人の書き込み?」

「うんうん、そうだよ。それがね、幾つかが生徒会に届いた手紙の文章と同じなんだって」

「へえ……」


 つまり、固定IDの人物が、あの手紙の差出人でもあるわけか。嫌がらせにせよ、何かを伝えようとしてるにせよ、結構危ない橋を渡ってる印象だな。


「何日ぐらい前から書き込んでるんだろ?」

「1週間ぐらいかな?」

「うんうん、たしかね」


 1週間前か……。結構、過去ログを漁るの大変だな。


「はーい、説明は以上! みんなスマホしまって! くじ引きと設営準備をよろしくお願いします!」


 その時、お化け屋敷の総指揮者がキリッとした声をあげた。

 高石さんたちもスマホを仕舞って腰を上げる。


 俺はまだ、1週間前の書き込みに辿りつけていなかったが……。


「(仕方ないな、あとで見よう……)」



 ◆



 夜。すっかり日は暮れて、街灯の明かりが煌々と灯っている。

 一人、いつもより遅い帰り道を歩きながら、スマホをいじっていた。


「副会長も忙しそうだしな〜」


 『チャンネル743』での固定IDによる書き込みの事を伝えようと思ったのに、生徒会に行ってもまるで姿が見当たらなかった。生徒会と文化祭運営メンバーは、今日から文化祭当日まで学校に泊まりこみらしく、みんな気が立っている様子だった。

 あまり遅くまで粘ってても仕方ないし、今日のところは引き上げてきた、ってわけだ。


 ちなみに、今日は生徒会に変な手紙は来てないそうだ。差出人も、あまりの忙しさに空気を読んだのだろうか?


 こういう時、残念ながらゼノリスのヘッドセットは使えない。あれは『ミスト警報が発令された時』もしくは『地区本部、司令車両から通信が来た時』にだけ使える仕組みになっているからだ。


 その代わり、スマホのアプリでメンバー連絡用のSNSアプリは配布されている。仕方ないので、今はそっちに書き込みをしておいた。

 が、しかし、普段から誰も使用していないのか、まったく反応がない。


「忙しいだけなのかもしれないけどな〜」


 ゼノリスの強権をもってすれば、『チャンネル743』の運営管理会社といえど、固定IDの個人情報を引き渡さざるを得ないと期待してるんだけど……。


 首を横に振って肩をすくめるしかない。


 『チャンネル743』のオカルト板を見る俺だが、ようやく、1週間前の過去レスにまで辿りつけたところだ。

 と言っても、目新しい情報だとか、書き込み者本人の意図が推し量れるようなモノは何もない。聞いてた通りの書き込みや、他の人物からの「埜之平高校生徒会に同じ内容の変な手紙が来てるって」って書き込みがすごい勢いで晒されているのが目についたぐらいだった。


 ちなみに、埜之平高校文化祭『樹平祭』で、幽霊が現れるという噂は毎年恒例になっているらしい。一説によると、埜之平高校OBによる『お化け屋敷』の宣伝文句にすぎない、という話がある。あとは、もともとこの辺りは湿地帯で、昔は自殺者のメッカだったことに由来する、なんて話もある。


 「文化祭を即刻中止せよ」って要求は結構横暴な気もするが、毎年恒例という背景もあり、「今年の宣伝は気合入ってるな」とか「今年こそ本当に幽霊が現れるかも?」とかぐらいに思われているっぽい、という感じだ。


「はあ〜……なんか無駄骨な気がしてきた」


 大きくため息をつきながら、屋敷へと続く緩やかな坂道を登っていた時だった。


「ナツトく〜〜ん」

「……お?」


 前方から聞き慣れた声に呼びかけられた。スマホから視線を上げるが、スマホの明るさに視界がやられて、上手く見えない。

 目をしぱしぱさせながら前方を見やると、『真舟質店』の前で、ユリルが大きく手を振っていた。


 そしてその横には、二人の男の姿があった。





噂広まってるじゃないですかヤダー

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