(六)文化祭準備:文化祭前々日
「伏せて、副会長!!」
「八百万の御霊よ、浄化の……きゃっ!!」
「へっ!?」
まさか、続けて精霊魔術を使おうとしてた!?
突進の勢いを止められず、俺は副会長の腰に取り付くと、そのまま「ザザッ!」とばかりに副会長を押し倒していた!
「じょ、浄化の壁よ!」
押し倒された副会長の焦ったような声がしたその瞬間!
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
もの凄い轟音とともに炎の球が弾け飛ぶ!!
「ブホオオオオオオオオオオ!!」と強風が駆け抜けて、屋上の床に伏せた俺たちの身体の上を熱風が吹き抜けた!
「痛っ!!!」
俺の腕を、何か鋭い物がかすめて、制服の袖を引き裂いた。
続けてもっと激しくいろんな物が飛んでくるかと思ったが……!
来るべき衝撃に身を固くしていた俺だが、周囲でバチバチと何かが激しくぶち当たる音がするだけで、それ以降はなんともない。
腕の痛みを堪え、頭をかばいながら、ほんの少し顔を上げてみる。すると、炎のように揺らめく赤い半透明の壁が、目の前にそそり立っていた!
それが強風に吹き飛ばされる小さな黒い蜂を受け止めては燃やし尽くしているのだ!
「もおおおおお! ちゃんとシールド張ってるんだからあああああ!!」
俺の身体の下で、横倒しの副会長が両手で頭を庇いながら、ぶうを垂れた。
「あ、す、スミマセン……」
……って、おいいいいいいいいいい!!!!
横倒しの副会長のスカートがめくれあがり、白い清楚な下着がモロ見えな上に! その張りのいい丸いお尻に、俺の股間がちょうど良いポジションで当たって……いや押し付けている!
しかも……ええええええええっ!!!
俺の右手が! 右手がああああっ!!!!
横倒しになった副会長の豊満な胸を鷲掴みにしていたぁぁぁぁっ!!!!!!
思わず、グッと力がこもる!!!
「はぁンっ……!」
目を閉じて頭を伏せる副会長が、鼻から吐息を漏らしてビクリと身体を震わせた!
すっげえ柔らかい! なんだこのやさしい温もりは!?
待てっ! 違う! そうじゃない!!!!!!!!!!!!!
「『オラアアアアアアアアアアアア!!!』」
「『「ファビレオ・カペリの書」より引用! 信術解! 怒れる大氷牙よ!!!』」
ヘッドセットから矢茨と双破の声が響く。
ガシャーーーン、ズドオオオオオオオオオオオン!!!
耳をつんざくような轟音に、思わず頭を伏せる。
瞬時に冷風が駆け抜けたあと、強風が吹き荒れる。
ミストを巻き上げる風が徐々に収まると、魔物がいたその場所に、巨大な氷柱が姿を現した。
◆
「まあ、そういうわけさ」
「どおりで日向、生傷や包帯が絶えないのな」
今は、昼休み中に発生したミストでの出来事を、クラスメートに語って聞かせたところだ。
右腕の袖の切れ目と、包帯が痛々しく見えるらしい。
皆、「大変なんだな」「ちょっと感心するわ」などと口々に俺のことを褒め称えてくれる。
……まあ、副会長を押し倒して胸を揉んだ、ってあたりはナイショだが。言うまでもなく、不慮の事故だし!
俺の精霊プリズムが、キラリと光を反射して、ツイーっと目の前を通り過ぎる。コイツもホント、勝手だよな……。
あのあと、俺はすぐに飛び起きて副会長から離れ……。
「ふ、副会長、怪我はないですか?」
「左肩が痛いかな、激しく打っちゃったからね〜」
「す、スミマセン……」
「んん、まあオッケーってことよ。あたしが独断で行動しちゃったのがマズかったわね」
そう言って親指立ててニッコリ微笑むあたり、副会長ってさすがというか前向きというか……。
俺が右手に残る感触にドギマギしてたの、全然気づいてなかったみたいだし。
「まあ、俺がもうちょっとちゃんと精霊魔術を使っていればね、こんな怪我することもないんだろうけど」
「おお、そりゃそうだ」
「やべー、同情して損したわ!」
嘲笑めいた笑い声が上がり、場が和む。
「よーし、内装だいたい終わったぞ〜」
「じゃあ飾ってみよっかー。男子諸君、よろしく」
今は本番を明後日に控えた文化祭の準備中だ。今日の昼以降は、全校あげての準備時間となっている。明日は終日、準備日だ。
校内は、せわしなく動き回る生徒たちの活気で溢れ返っていた。
ウチのクラスは準備が良い方のようだ。少し時間に追われてはいるが、みんな、勉学の時間から解放されて和やかな雰囲気に包まれている。雑談交じりに、最後の仕上げを楽しんでいるといったところだろう。
ちなみに、俺たちのクラスの出し物は『わんこそば』がメインメニューの『わんこ茶屋』。
30杯の制限付きだが、完食タイムによるランキング付けはやるらしい。トップタイムの人には天使印の『アナタのおソバ2』という名のそばセットを贈呈するとかで。
さらに、女子はメイド姿、男子は執事姿でお客を持て成すことになっている。そこは普通、和服か割烹着のような気もするが……。
ほとんどのクラスが精霊魔術に関連した『手品』や『演劇』『精霊魔術的展示物』などを企画する中、精霊魔術とはまったく関係の無い出し物になっている。しかしクラス委員長曰く、「ベタな店舗系の出し物は、埜之平高校では意外と客足を呼べるコンテンツなんですよねー」だそうだ。
「おーい、日向。ぼさっとしてるならこっち手伝ってくれ。看板まだできてねーんだ」
「はいよ。……そういや、双破は?」
「双破なら、『埜之平精霊魔術王子コンテスト』の打ち合わせに行ったぜ」
『埜之平精霊魔術王子コンテスト』か……。そういえば副会長も、双破は今それの事で頭がいっぱいだとか、なんかそんなこと言ってた気がする。
「連覇狙ってるから気合入ってんだろな〜」
「精霊魔術で女の子をキャーキャー言わせるの、得意だもんな〜アイツ」
「良いじゃんよ。優勝したらクラスランキングのポイントもゲットできるんだからさ」
埜之平高校文化祭『樹平祭』では、最終的にどこのクラスの出し物が良かったかを投票と獲得ポイントで決める。それが『クラスランキング』だ。
クラスの出し物の他、部活ごとの出し物・アピールタイムへの参加や、合同演目『体育館は精霊魔術のイルミネーションお化け屋敷だょ』『埜之平精霊魔術王子コンテスト』『埜之平文化祭スタンプラリー』などで個人が獲得したポイントもクラスランキングに加算されていく。
クラスランキングでトップを取れば、オーナーの埜之平会長から豪華な賞品が出るらしい。ちなみに、去年は優勝クラスの生徒全員に商品券と旅行券が贈呈されたそうだ。
俺のクラスは、みんなやる気があるようで、『ポイント獲得ルート必勝図作成チーム』なんてのも結成されている。その意味では、大きくポイントを稼いでくれそうな双破タケルは重要な存在で、自由行動も大目にみられているようだった。
◆
「はーい、みなさーん! 我がクラスのメインヒロインの衣装合わせが終わりましたよー! 早速公開しますので、みんな注目注目ぅ~!」
廊下で看板の飾り付けを手伝っていると、教室から女子たちが手招きで呼びかけてきた。
「おおお! キタか!」
「俺たちの天使の本気、見せてくれ!」
周囲の男子たちがスマホを取り出し、ニヤニヤしながら教室の中へと入っていく。
まあメインヒロインって、ハノンのことなんだが……。
『わんこそば』だけに……。
わんこそば、か。うんうん。




