(四)天使候補生:クラスメート
────昼休みが終わって、教室に戻ってみると……。
「あれ、なにこの席?」
窓際の一番後ろだったはずの俺の席。その後ろに、なぜかもうひとつ机と椅子が置かれていた。
「あ、それね。生徒会の人が『ハノンちゃん用に』って」
双破タケルがニコニコしながら声を掛けてくる。
「ハノンちゃん、どうぞこちらへ」
「わー、ホントですの?」
ニコニコ顔のハノンが、早速その席に座る。
「わーい、嬉しいですの〜。外がよく見える特等席です!」
「やっべー、超カワイイ」
「耳がピクピク動くのがたまらん!」
「うふふ、みなさんよろしくお願いしますですの!」
ハノンが立ち上がって深々と一礼すると、男子から「おおーっ」という声が上がる。
「念願の女子転校生キターーーーーーーーーーーー!」
「日向なんて最初っからいらんかったんや〜〜!」
「我がクラスのアイドル誕生や!!」
いや、いいけどさ……。
「やーね、男子ってキモい」
「バカばっかだわ」
やがて授業開始のチャイムが響き渡る。構内は、緊張感漂う静けさを取り戻していった。
◆
────5時限目の授業中。
タブレットを見る目が、時々ぼやける。昼食のあとだし、窓から差し込む陽射しが心地良すぎて、強烈な眠気に襲われていた。
「(……やっべー……)」
眠気との闘いほど辛いものはない。絶対に勝とうという気にならないからだ。
「……これにより、アショーカがマウリヤ朝の王位を継承したとされている。なお、その後に起こるタクシラの反乱の際は……」
教科書の本文を読み上げながら、不意に、教師がこちらの方へゆっくりと足を踏み出した。
「はっ」として眠気から頭を奮い起こすと、読み上げている箇所を探して視線を走らせる。
と……。
「すー……すー……」
後ろから、小気味の良い寝息が聞こえてくるんですけど……。チラッと後ろを振り返ると、ハノンが俯いて舟を漕いでいた。
「(……くっ! 授業中になんてヤツだ……!)」
前方からは教師が本文を読み上げながら近づいてくる。
「(よしっ、起こされろ! ハノンだけ惰眠を貪るなんてズルは許されない!)」
思わず、ゲス顔浮かべて心の中でそう叫ぶ。徐々に近づいてくる教師の声と足音が、俺の横を通り過ぎ、ハノンの横で……。
「(止まらない、だと……!?)」
教師は本文を読み上げながら、居眠りしているハノンを華麗にスルーした! なんてことだ! それでも教師かっ!?
そのまま、教室の反対側へと歩みを進めていく。後ろを見ると、完全に机の上に突っ伏したハノンが、「ムニャムニャ、もう食べられないのれす……」などと寝言を言っている!
「(天使候補生だからかっ!? カワイイは正義だからなのか!?)」
ダメだ、おかしい、こんなのあり得ない……!
「続きを日向、読んでみろ」
「は、はひっ!?」
唐突に、教師に名指しされて立ち上がる。あちこちから忍び笑いがあがって、視線が集中する。
「え、えーと……」
ヤバイ、完全にどこを読んでいたのか見失った……!!! 教師の様子をチラッと伺うと、眼鏡の端がキランと怪しく光った。
「あとで小論文を提出するように」
……なんてことだ……。
俺の背後でハノンの安らかな寝息が止まらない。大敗北感に打ちのめされて、俺は立ち尽くすしか無かった……。




