表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第四章】天使の卵
73/155

(四)天使候補生:昼のひととき


 人ごみってのは、外から見ると、ギッチリとして隙間も無いように見える。でも、近づいてみれば、人と人との間にはちゃんと隙間があって、その中を縫うように進むことは可能だ。


「ちょっとごめんねー」


 時々、他人の背中を押しながら、パンの販売コーナーへとたどり着く。


 商品棚からはすでにほとんどのパンが姿を消していた。残っているものといえば、ジャムパン・クリームパン・メロンパン・あんパンなど、昼食には不人気の甘いもの系だ。

 ハンバーガー系やホットドッグ系、サンドイッチ系、カレーパンや焼きそばパンなど、昼食の定番ものはひとつも見当たらない。どこの高校でも同じなんだな。


「おっと、『きゅうりと卵のサンドイッチ』が1つだけ残ってるじゃないか。それに『昆布のおにぎり』も」


 どちらも同系の中ではやや不人気な商品。だが残っているだけでもありがたい。


 両方に手を伸ばしたいが、まずはサンドイッチを確保だ……! と思った瞬間、横からサッと奪い去られる。


「(……チッ! 速い!)」


 こうなればおにぎり確保……と思ったが、すでにおにぎりも姿を消していた……。


「(……せ、戦場だ!……まさか、ここは精霊魔術の使い手でなければ生き残れない戦場か!?)」


 この学校ならその可能性も無くは無いだろう……。


「……ハノン、何か食べたいのある?」


 背中のハノンに尋ねると、俺の脇から手を伸ばしてサッと指をさした。


「……シナモンロールね」


 他のパンに比べて一回り小さいが、金額設定はほぼ同じ。他のパンたちが次々と姿を消す中、堂々たる威厳を放ち、2列になってその場に鎮座している。

 その澄まし顔をお買い上げになるのは、優雅な昼食タイムを終えたあと、人垣の捌けた売店に姿を現すというスイーツ女子たちに他ならない。買い手が必ずいるというその圧倒的な存在価値が、シナモンロールたちに余裕とくつろぎのスペースを与えているようだ。


「バナナサンドで良いじゃん。安くてデカイしコストパフォーマンス最高だぞ?」

「イヤですの!」


 即答かよ……。



 ◆



 バナナサンドとあんパン、それにシナモンロールを買ったあと、外の自販機前にしつらえてあるベンチに腰を下ろした。テーブルが無いせいか、そこは不人気スペースらしい。


 シナモンロールを手渡すと、ハノンは早速、ニコニコ顔で頬張り始める。やはり、お腹が空いていたようだ。

 青毛の小動物は、ハノンのすぐ横で、周りを威嚇するかのように四足を踏ん張り、キョロキョロしている。結構、騎士気質なヤツなのかもしれない。


「何か飲み物は?」

「ホットミルクをご所望ですの!」


 ……うん、色んな意味でピッタリだ。大きくなるんだぞ。


「ホットミルク、ここに置いておくよ。ぶつかってこぼさないように気を付けてくれよ」

「はいですの!」


 口の端にシロップをつけながら、ハノンが元気よく答える。食事の時は素直なようだ。俺はコーヒーを片手にバナナサンドを頬張る。


「(……うーん、甘い。もうちょっと待って、学食の『たぬきうどん』にでもした方が良かったかな……)」


 まあ、今となっては後の祭りだ。


「ごちそうさまですの!」


 いつの間にか、ハノンがシナモンロールをペロッと平らげていた。


「口、拭きなよ」


 ハンカチを差し出すと、その端っこで拭き拭きし始める。


「あ……」

「どうした?」

「このハンカチ、とても良い匂いがしますです……」

「ああ、ユリルが毎日、洗濯してくれるからね」

「……ユリル?」

「あ……と、俺の家の人ね」

「そうですか」


 ハノンは耳をピクピク動かして、ハンカチをジッと見つめる。


「……もういいかな?」

「はいですの」


 ハンカチを手放すと、ハノンはホットミルクをすすりはじめた。


「どう? お口に合ったかな?」

「甘くてとても美味しかったですの!」

「そっか、そりゃ良かった。……あんパンも食べる?」

「遠慮しておきますですの」


 と言って、プイと横を向くハノン。……そこは頑なに拒否するんだな。わかりやすいが、いろいろ把握するまでは大変そうだ。


「ところで、ソイツの名前は?」

「ソイツ?」

「その、青くてちっちゃいタヌキみたいな動物。精霊だよね?」

「タヌキじゃありません! ハムスター精霊のロッキーくんですの」


 ……ハムスターだと……? いや、どう見ても青いタヌキだが……。

 俺の視線に気づいたか、ロッキーくんが俺を見上げて「モキュッ」と鳴いた。


「属性は?」

「もちろん、水と風ですの」


 いや、もちろんって意味がわからない……。水だけなら青色だから、って理由もありそうだけど。


「水と風だけ?」


 俺の言葉に、ハノンがキッと睨んでくる。


「水と風の精霊魔術を侮ってますの? 解毒、回復、防御、帆船操作術など、人にやさしい魔術で溢れてますですの!」

「そうなんだ? ごめんごめん」

「しかもハムスター精霊のロッキーくんは、雷属性も勉強中の超優秀精霊さんですの」

「モッキュキュ」


 水、風、雷……とりあえず、台風の神様ってとこなのかな?


「固有精霊でも属性増やせるんだっけ?」

「ロッキーくんは超優秀さんなので不可能を可能にしてしまいますですの」

「……使えるようになるといいね」

「モキュ、モキュ」


 ロッキーくんが、得意気な様子でクルリと回って立ち上がってみせる。

 精霊プリズムでいい気もするが、どことなく可愛いし、まあ、いいのかな。


 昼の陽光の下、ちょっとだけハノンと普通の世間話が出来たし、警戒心を解いてくれるといいなぁ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ