表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第四章】天使の卵
71/155

(四)天使候補生:観察?監視?


 ────埜之平高校。


 すでに4時限目の授業は始まっていた。ドアを薄く開いて滑りこむように教室に入ると、黙って自分の席に着く。


 ホッと一息ついて窓の外を見ると、空は真っ青に晴れ上がっていた。今さらながら、今日が良い天気だということに気付く。


 双破タケルの方はというと、席に着くなりノートを開いてタブレットを操作し、早くも授業に溶け込んでいる様子だった。切り替えの速さと勉学に対するひたむきさは、さすがだ。


 俺は頬杖をつくと、再び外の景色に視線を戻す。


「……であるからぁ、AよりBはベクトル的に……」


 教師の言葉も耳に遠い。少しは真面目にやらなくちゃな……。

 これじゃ授業日数以外にも気にしなきゃいけないことが増えてしまう。




 ────やがて4時限目の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。


 教室がにわかに、生徒たちの活気で溢れ返る。みんな、一時のくつろぎタイムに心が緩んでいる様子だ。


「日向〜、ゼノリスはどうだった? ミスト発生警報も出てたろ?」

「公然と午前バックレって羨ましすぎるだろ〜」

「何言ってんだよ、授業日数も気にしなきゃなんないんだぜ?」

「テストの点も気にしろよ。お前、授業聞いてなかったろ」

「お、もしかしてよゆーか?」

「だったら良いんだけど」


 軽く手を挙げて挨拶すると、声を掛けてきたクラスメートたちは教室の外へと出て行った。おそらく、食堂で昼食だろう。


 俺の昼休みはというと、双破とユリルの三人で過ごすのが日課になりつつある。彼らはそれを知っているので、無理に誘ってこない。


「さて、俺も行くか」


 と、腰を上げたところで、重大な思い出す。


「(……今日は弁当を持って来てなかった!)」


 入隊式のことばかり頭にあって、出掛けに持って出るのを忘れたんだったな……。


「(……ユリルに分けてもらおうかな?)」


 そんなことを考えていた時だった。


 パシャリパシャリ、とシャッター音が耳に届く。


「誰、あの子……?」

「やだ、ちょっとカワイイんだけど〜」

「あの肩のゆるキャラって精霊かな?」


 クラスメートたちの話し声も聞こえてくる。教室の戸口に視線をやると……。


 ────そこには、ゼノリス第二十六地区4班臨時補佐代理であり『天使候補生(アンジェレンティス)』でもある、ハノン・フラットの姿があった。


「(あんなところで何やってんだ……?)」


 ミスト発生現場から、それぞれタクシーに乗り込んだとはいえ、まさか学校に来てるとは思いもよらなかった。


 戸口のところでキョロキョロと辺りを見渡しては、時折、手にしたスマホらしき端末でパシャリパシャリとシャッターを切っている。頭の上の大きな耳が、辺りを伺うようにピクリピクリと動いているせいで、それが小動物っぽくて確かにちょっとカワイイ。

 固有精霊の青毛な小動物が、時折頭の上に乗って、ご主人様とは逆方向に周りをキョロキョロと伺っている。


 二人揃って、物珍しさが抑えきれないといった様子だ。


 その時、ハノンと視線が合った。瞬間、ハノンが戸口に身を隠すように半身を伏せる。そして片目を覗かせて、ジッとこちらを見つめ始めた。


「(まさか……あれで隠れているつもりなのか?)」


 廊下を行き交う生徒たちに、思いっ切り見られてるし。


 なんだろう? なんだか急に頭が痛くなってきた……。


 俺は席を立つと、おもむろに、ハノンの方へと近づいていく。と、ハノンが戸口の向こうにサッと身を潜めた。


「なにやってんの?」

「へっ!?」


 声をかけると、ハノンはワタワタとスマホをお手玉して、視線をキョロキョロと彷徨わせた。大きな耳が、しきりと横へ動いている。


 そんなに驚くことかよ……。


 青毛の小動物は、ハノンのうなじあたりから俺の方を伺っていた。


「ハノン、って呼んでいいかな? 俺の事は『ナツト』でいいよ」

「え? あ?……ああ、ああ! そ、そのことでしたらそれで構いませんですの!」

「ふーん、そう、良かった。臨時補佐代理って呼び方じゃ、長いもんね」

「そ、そうですわね、おほほほほほ」


 ハノンは貴婦人がやるように、手の甲で口を隠すようにして笑う。子供っぽい見た目に不釣り合いな仕草だ。

 ……なにか誤魔化そうとしてるのがアリアリだぞ。


「……で、写真なんか撮っちゃって、何してるの? それとも俺に用かな?」

「え、ええ、ええと……」


 しばらく逡巡した様子のあと、ハノンはキッと眉根を釣り上げ、俺に向き直る。どうやら覚悟を決めたようだ。


「お仕事ですの」

「仕事? 感心だな〜。で、何の仕事?」

「もちろん、監視……いえ! か、観察するためです! 観察するためです!……大事なことだから二度言いましたですの」


 と言って、真面目な顔をして二本指を立ててみせた。青毛の小動物が頭の上にポンと乗る。

 ハノンと小動物の眼差しを交互に見比べるが、どうやら真剣らしい。


 それにしても綺麗な瞳をしている。純粋無垢って感じだ。


「あの子、なんでピースしてるのかしら?」

「さあ?」


 クラスメートのヒソヒソ声が耳に届く。廊下を行き交う生徒たちからも、クスクス笑いが……。

 傍から見ると何やってんだ、って話だよな……。


 あまり衆目に晒されるのも良くないか。まずは場所を変えるのが先決のようだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ