(三)チームワーク:全力
子どもたちを守らなければ────!!
「水の精霊魔術! 球体防護シールド発動!」
双破と臨時補佐代理が使っていた精霊魔術のイメージでそう叫ぶ。すると、俺たちの周りに球状の防護シールドが現れた!
ほぼ同時に黒いイバラのツルが一斉に伸びてくる! そして次々に球体シールドに巻き付いてきたかと思うと、グイグイと球体シールドを締め上げてきた!
「(ヤバイ、これはヤバイ!!)」
球体シールドがボコボコと波打ちながらも、トゲのついたツルの侵入をなんとか防いでいる。しかし、このままだとまずいだろう!
冷や汗が背中をつたい落ち、ゾッとする寒気が全身を駆け抜けた。子どもたちは恐怖に怯え、俺にしがみついて嗚咽を漏らしている。
「(なんとかしないと!)」
そう思った瞬間、球体シールドがグラリと大きく揺れた!
「な、なんだっ!?」
俺たちは、球体シールドごとツルに持ち上げられているのだ!
そのままグルングルンと大きく振り回される!
「うわあああ、うおおおおおお、うえええええええ!!!」
「うああああああああ!!!」
俺たちは抵抗することもままならず、襲い来る重力で球体シールドの壁に押し付けられるがままだ!
「『今行くぞ、日向くん!』」
「『チクショー!! 魔物を仕留めるのはこのオレだああああああ!!!!』」
「『ハノンちゃん、火山岩石化銃を持って!』」
「『はいですの!』」
魔物に振り回されながら、隙間から下を覗き見る。すると、魔物が大口を開けて待ち構えていた。
「(……まさか、俺たちをこのまま飲み込む気か!?)」
嫌な予感が駆け巡る!
「みんな! 俺にしっかり掴まってるんだ!!」
俺は子どもたちの身体をグッと抱き寄せると、うろ覚えの詠唱を口にした!
「『ファビオ・カペリの書』より氷と風の精霊に命ずる!
────凍てつく氷の刃よ! 嵐とともに舞い踊れ!!」
すると俺の言葉に精霊プリズムが水色と紫色に煌めいて、球体シールドの外に「ゴオオオオオオ」と風が巻き始めた!
氷の刃が舞い踊り、球体シールドに巻き付いていたツルを粉々に切り裂いていく!
「うわあああああ!!!」
反動で俺たちは球体シールドごと投げ飛ばされてしまう!
マズイ! 6階の高さから地面に叩きつけられてしまったら、生命は無い!!
「信術解! あの球体シールドを受け止める、重力制御!!」
双破の声が下から聞こえる! 俺たちを包む球体シールドが急にフワッとした感触に包まれた!
そして間髪を入れずに、「ズダァン!!」と雷音が轟いた!
「オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
矢茨カズマだ! 一筋の稲妻となって、魔物本体に突き刺さっている!!!
「キシエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」
くの字に折れ曲がりながら、魔物が雄叫びを上げる! 頭上の混沌流がみるみるうちに大きく膨れあがった!
「『ファビレオ・カペリの書』より引用! 信術解! 怒れる氷の柱よ!!!」
「オレの電撃を喰らいやがれ!!! ライトニングファァァァァァァァァング!!!」
「ドガシャアアアアアアアアン!!!」と耳が割れそうなほどの大音響が響き渡る!!
魔物がいた場所に、天に届くかのような巨大な氷の柱が現れて、その表面を電撃の光が駆け抜けた!!
「なんて奴らだ……!」
出力が桁違いすぎる! これで魔物が生きているというのなら、もう打つ手がないだろう……。
二人の精霊魔術の凄まじさに、思わず身体が震えた。
辺りの白い靄がモウモウと舞い上がり、静かに氷柱の周りを回っている。
球体シールドに包まれた俺と3人の子どもたちは、天まで届く氷柱を見上げながら、フワリフワリと葉っぱのように落ちていく。
「『みんなおまたせ! ハノンちゃん、魔物に向けてビームを撃つのよ!』」
「『わかりましたですの!』」
副会長と臨時補佐代理の明るい声がヘッドセットから響いてくる。
「『テメー、双破ァ!! オレまで凍りづけにするたぁ、いい度胸じゃねーか!!!』」
「『ははは、いい機会だと思って全力を出したのでね』」
「『チッ、覚えてろよ』」
やがて、白い靄が晴れていく。同時に、百貨店前に集まる群衆が姿を現し始めた。
交通規制で車の無い大通りに、司令車両が一台だけ停まっていて、滝宮隊長が俺たちを見上げていた。
「『おつかれさん。なんとか、魔物を撃退完了したようだ』」
ホッと安堵の息をつかずにはいられない。
群衆が見守る中、球体シールドに包まれた俺たちはゆっくりと、大通りの真ん中に舞い降りた。
◆
「ナットくんが救助に向かっていなかったら、大変なことになっていたかもね」
保護者とともに、救急車に乗り込んだ子どもたちを見送ると、副会長がニコッと微笑んでそう言った。
「おつかれだね、日向くん。彼らの笑顔を見ると、キミがやってのけたことの偉大さを、身に染みて実感するよ」
「ハハッ! 実力不足でヘマぶっこいたのは、身から出たサビってとこだぜボロ雑巾」
「いやあ、ははは……」
もしかすると、もっと良い対応があったかもしれないと思うと、申し訳ない気持ちで一杯になる。
子どもたちに、「怖かったけど面白かった」「お兄ちゃんもカッコ良かった」「ゼノリスすげー」と笑顔で言ってもらえたのはありがたかったけど……。
「おい、みんな。交通規制解除の時間も押してるし、学校にも急いで戻ってもらいたいところだが、ひとまず、一言ずつ言わせてくれ」
咳払いして頭を掻きながら、滝宮隊長が注目を促す。
「まず、矢茨と双破。今回、初動で先走ったことは深く反省してもらいたい。合流出来たことで、魔物に対する殲滅行動が早まったことは実感できたと思う。途中からでも合流を優先していれば、急な救助活動に単独行動で当たる必要もなく、より効率のいい人員分けができたはずだ。チームメイト同士、協力して事にあたるよう心がけてほしい。チームワークを重視した上で、時に単独行動を選択することはあってもいいが、最初から単独行動というのは是非にも謹んでもらいたい」
「チッ、うっせーな……」
「ええ、反省してますよ」
二人の言葉に、思わず溜め息をつく隊長。わかりやすすぎるな、この二人は。
「それから埜之平、臨時補佐代理。なかなか良い働きだった。ご苦労様。この調子でこれからもよろしく願いたい」
「了解です」
「はいですの!」
「それから日向だが……」
滝宮隊長が、肩をすくめて鼻息をひとつつく。
「状況把握を優先し、適切な対応を考えようとする姿勢は評価できる。矢茨と双破には是非にも見習ってもらいたい。一般市民救助に関しては、単独行動は無謀とも言えるが、あのタイミングでは仕方なかったろう。今回はその勇気と責任感を讃えたい。……しかし、だ。あえて一言、注文するならば……」
「なんでしょうか?」
「無意味に能力を隠さず、計算できる実力を常に示せ。それだけだ」
「精霊プリズムのご機嫌伺いとかやめてよね、ってことね」
「そーだぜ、ボロ雑巾。やれんならきっちりやれ。オレたちを囮にしてイイトコだけ持ってくんじゃねーよ」
「確かにね。僕たちは同じゼノリスのチームメイトなんだから、隠し事は無しにしようじゃないか。まさか僕の魔術をパクるなんて……。ふふっ、正直、びっくりしたよ」
あー……うん。確かに、ちょっとやりすぎたというか……。
「すみません、気をつけます」
頭を下げてはみたものの、出動のたびに絶対運命の枷を使うようじゃ……。
みんなの言葉は心にずっしり重いけど、かといってどうすればいいか、今すぐにはわからない。
なんとか、上手く協力できるように努力しないとな……。この力が何度も自由に使えれば話は早いんだろうけど……。
思わず、ボディリフレッシュの終わった絶対運命の枷をチラッと見てしまう。
これのおかげで、精霊魔術ならみんなが使ってるものを真似できそうだ、ってのがよくわかったのはいいんだが……。
「あと、あたしからもいい?」
副会長がついと前に進み出て、クルリと矢茨と双破の方を向いた。
「カズマと双破クン。全力出したい気持ちは分かるけどね。でも、あたしたちの仕事は全力出すことじゃなくて、如何に手早く安全に魔物を捕獲するか、ってことだからね」
ピッと人差し指を立てて、子どもに教え諭すような口ぶりだ。
「埜之平の言う通りだ。キミたちの精霊魔術の才能に疑いの余地はない。だからといって、我々の任務はその才能をアピールすればいいというものでもない。如何にしてチームワークを高め、困難を容易に収めるか────それが重要だと、心してくれ」
副会長と滝宮隊長の言葉に、矢茨と双破はつーんとした表情で黙りこくる。
その様子に、まだまだ時間がかかりそうだな、と思わずにはいられない。
「みなさんお疲れ様ですの! 有能な方々ばかりで、わたくしも非常に嬉しいですの!」
臨時補佐代理が明るく元気に言い放つ。その言葉で、少しだけ、みんなの緊張がほぐれた気がした。
「さあ、学校に戻ろっか。もう4時限目にしか間に合わなさそうだけど」
交通規制が解除された道路に、車の姿が戻ってくる。行き交う人々の表情も、日常のそれへとゆっくりと変わっていった。
<第四章(三)チームワーク 終>
チームワークなにそれ? 勝ちゃいいんだぜ!!!ってんじゃ困りますよねーそりゃ、ははははは。このチーム、ちゃんと成長するんですかねえ? 心配心配。
さてさて、次回より新節「第四章(四)天使候補生」をお送りいたします! え? 臨時補佐代理も埜之平高校に!? どうなるユリル!




