(三)チームワーク:単独で!
天井から襲い来る黒いツルを掻い潜り、別館のドアを突き飛ばすように開け放つと、停止しているエスカレーターを全力で駆け上っていく。
「うおおおおおおおお!」
アドレナリンが吹き出して、全身が熱く燃えたぎっていた。
「『チッ! 上からも下からも横からも来やがる!』」
「『信術解! 永久凍土の……くっ! 邪魔だ!』」
ヘッドセットの向こうから聞こえてくる双破と矢茨の声に、余裕が感じられない。まだまだ激しくやりあっているようだ。
「『ハノンちゃん、後ろ!』」
「『はいですの!』」
副会長たちもなんとか魔物を捌いているようだ。
そうこうしているうちに、一気に6階まで辿り着いた。屋上の遊園広場はこの上だ。
しかしどうやら、本館からしか行けないようになっているらしい。
立ち止まって、スマホで青色反応の場所を確認する。さっきから一歩も動いていないようだ。おそらく、物陰にでも身を潜めているのだろう。
「無事でいてくれよ」
祈るようにしてつぶやくと、火山岩石化銃をエスカレーター脇におろした。
そして本館への短い連絡通路を渡る。
本館6階のフロアに出ると、薄い靄に煙ってはいたが、魔物の気配は感じられなかった。
「日向です。本館6階まで来てみましたが、魔物の気配はありません」
「『注意するんだ、日向。隠れ潜んでいる可能性もある』」
「了解です」
答えながら、足早に屋上への階段を目指す。階下から、かすかに爆発音が響いてくる。
「『双破です。これから上に向かいます』」
「『オラオラオラァッ! オレも上に行くぜ!』」
「『カズマ、双破クン! 4階か5階へ!』」
「『了解です』」
「『一気に魔物本体を狙うぜ!!』」
どうやら、俺たち4班が押し気味のようだ。これなら、子どもたちの身柄さえ確保できれば安心だろう。
屋上へと続く階段を駆け上がり、開きっぱなしの戸口をくぐって外にでる。
スマホで青い反応の出ている位置を確認しながら、そろそろと近づいていくと……小さくすすり泣く声が聞こえてきた。
「……あそこだ!」
動物型の乗り物が陳列された向こう、サーキットスペースの隅っこに、子どもたちの姿があった。
「おーい、大丈夫か?」
「だ、誰?」
ビクッとして3人がこちらを振り向く。
「俺はゼノリスの日向。キミたちを保護しに来たんだ」
「『日向、無事に発見か?』」
「はい、3人とも発見しました。怪我は特に……無いようです」
「『よし、良かった』」
「別館の方へ避難させるべきでしょうか?」
「『ああ、それがいいだろう』」
本館の混沌反応も、来た時からするとかなり小さくなっている。別館はもう安全そうだ。
「『こちら埜之平! カズマと合流したわ! 双破クンはどこ?』」
「『4階に来てますよ』」
「『コト姉! オレたちは5階に行くぞ!』」
「『そうね!』」
あと一歩のところで魔物本体を追い詰められそうだ。
「キミたち、安全な場所に避難するから俺についてきて。大丈夫、魔物はゼノリスが今戦ってるから」
子どもたちが大きく頷くのを見て、ニコッと微笑みかける。
「いい子だ。こういう状況でもしっかりしてるな。大したもんだよ」
頭を撫でてあげると、それぞれ少し気を取り直した様子を見せる。いやあ、素直っていいな。
「とりあえず、みんな手をつなごう。はぐれないようにね。焦らずゆっくりで大丈夫だから。こっちだ」
そう言うと、屋上出口へと駆け足で向かう。
「『いやがった! 魔物本体だ! オリャアアアアアアア!』」
ヘッドセットの向こうから、矢茨カズマの勇ましい声が響いてくる。どうやら魔物本体と遭遇出来たようだ。
「『カズマ、無茶しないの!』」
「『うるせー! こんな時に特攻しねーでどうすんよ!!』」
「『僕も5階に向かいます!』」
「『ハノンちゃん、周囲の掃討から! 八百万の御霊よ!』」
「『はいですの!』」
「『邪魔だァ!!! どけコラアァ!』」
相変わらず、矢茨は肉弾特攻の様子だ。まあいい。
魔物がそっちにかかりっきりになってくれれば言うことはない。
「6階に降りたら、別館まで行くからね。みんな、しっかり手をつないで離れないように」
もうすぐ戸口、というその時だった!
いきなり床がグラグラと激しく振動し始めた!
「きゃああ!」
「うわわわっ!」
驚いた子どもたちが俺の腰にギュッとしがみついてくる。
そして「ドゴオオン」と大きな衝撃音が響くと同時、目の前に黒いどデカイ何かが飛び出してきた!
「『逃げられた!? 上!?』」
ヘッドセットから副会長の驚く声。
飛び出してきた黒い影は、白い靄を吹き飛ばし、「ドン」と地響きを立てて屋上に舞い降りた。
吹き上がる白い靄の向こう、まるで大木のような黒い大きな影がうねっている。
そして俺の頭より高い位置に、赤く真っ赤に光る目。さらにその上方には、どデカイ黒い混沌流が渦巻いていた。
「魔物本体!? ウソだろ!?」
驚愕する俺にヒュンと風を切り裂いて、イバラのツルが伸びて来る!
「ぐああああっ!!」
左腕にグルグル巻き付いてきたかと思うと、激痛が駆け抜けた! 子どもたちに当たらなかったのが幸いだ!
「『どうした日向!?』」
「魔物が下から現れました! 応戦中です!!」
「『チイイイッ! 勝手に逃げてんじゃねええ!!!』」
「『屋上まで逃げちゃったの!? なんてこと!』」
「『安全を優先するんだ、日向くん!』」
口々にみんなの声が聞こえるが、それを気にしてる余裕もない。イバラのツルはグイグイと俺を引っ張り込もうとしている。
「向こうに向かって走れ! 逃げるんだ!!!」
子どもたちに呼びかけるが、みんな泣き声を上げるばかりで動かない!
「くっそ!!!! 火の精霊魔術! 焼き払え!!!」
俺の精霊プリズムが赤い光を放ったかと思うと、辺り一面にゴオと炎が上がる!
「熱つつつ!!」
思った以上に火力が出てる! おかげでツルが焼き切れて解放された。
燃え盛る炎の向こうで、魔物が「ギエエエエエエエエエエエエッ!!!」と大きな雄叫びをあげた。
その頭上に浮かぶドス黒い混沌が、共鳴するかのように「ヒイイイイイイイイイイ!」と悲鳴のような鳴き声を上げる。
「まずい!」
もはや逃げ回っている余裕はない!!




