(三)チームワーク:作戦発案
「『おい隊長! どんどん出てくるぞ! どーすんだよ!? ボケっとしねーで指示だせっつーの!』」
「『こちらも、3体同時に対応中です』」
ヘッドセットの向こうから、二人の慌ただしい声が聞こえてくる。
どうやら地表に現れるモノを撃退しても、次々に現れるっぽいな……。これはちょっと面倒そうだ。
矢茨カズマが言うように、本体を探し出して仕留めるのが一番だろう。
「『二人とも「イーマル百貨店」は見えているか?』」
「『はい、もうすぐその建物の前に』」
「『オレも見えてんぜ! それがどうした?』」
「『混沌反応は「イーマル百貨店」付近に広がっている。もしかすると、百貨店内に魔物本体が潜んでいるのかもしれん』」
「『もし仮に魔物本体が百貨店内に潜んでいるとしたら、建物の中はこれよりもっと激しい攻撃が予想されますね』」
「『ひとまず、矢茨と双破の二人はこのまま交戦しつつ、「イーマル百貨店」の正面玄関を目指してくれ。そこで合流して撃退に当たるのが得策だろう』」
「『殲滅しつつ前進ですね、了解です。矢茨は尻尾巻いて逃げた方がいいんじゃないかな?』」
「『ケッ、ざけんな! 根こそぎぶっ飛ばしてやんぜ!!!』」
合流しろと言われてるんだが大丈夫だろうか……。心配になってくるな。
「『埜之平、日向、現在位置と混沌反応位置のマップデータを転送する。スマホで確認してくれ』」
「え、スマホ? ミストの中は通信ができないんじゃ……?」
「『ああ、日向にはまだ説明してなかったな、すまん。スマホのWiFi回線をヘッドセット回線に設定してくれ。そうすればゼノリス司令車両との連絡が可能になる』」
「ああ、そっか……」
このヘッドセットには天使の技術が使われている。そのおかげで、今こうしてミストにいても、外部の隊長たちとの通信が可能になっているというわけだ。それをテザリングみたいな感じで利用できるってことらしい。
ゼノリス第二十六地区専用アプリのマップ機能を立ち上げると、即座に現在地周辺のマップと俺たちの位置情報が映し出された。
緑色の三角マーカー5つ表示されていて、それがどうやら俺たちゼノリス隊員らしい。そして紫色に広がっているのが混沌反応のようだ。
ふと気づくと、副会長と臨時代理補佐も一緒に俺のスマホを覗き見ていた。
思いの外、二人の顔が近くて、妙にドキドキしてしまう……。
「確かにイーマル百貨店から混沌反応が広がってるように見えるわね」
「これはここの地図ですの? とても便利な機能ですの!」
地図によると、イーマル百貨店は大通りの交差点の角に建っていて、双破と矢茨はそれぞれ、西と南からイーマル百貨店に接近しているようだ。
「この、路地裏側のスペースってなんですかね?」
「イーマル百貨店のオープンカフェね。それからすぐ横に建ってるのは別館よ」
マップに映しだされているL字型の建物がイーマル百貨店本館で、そのLの内角に建っている建物が別館らしい。オープンカフェはその横に広がっている。
そして混沌反応は、イーマル百貨店から大通り沿いに広がっており、路地裏側のオープンカフェと別館の方には、ほとんど広がっていないように見えた。
「あ……」
今、混沌反応が微妙に動いた。オープンカフェ側に少し伸びていた混沌反応が、矢茨の方へと動いたのだ。
もしかすると矢茨と双破の攻撃に対抗するため、魔物が二人の方に戦力を傾けているのかもしれない。
「隊長、今さっき、微妙に混沌反応が動きましたよね?」
「『ああ、確かに。先程から注視しているが、矢茨と双破の方へジワリと動いているようだ』」
「『ハハッ! オレの攻撃に焦ってやがんだな魔物のヤロー!』」
「『ではこのまま攻撃を続けていれば、僕の方に本体が姿を現すかもしれませんね』」
「『ケッ! 何言ってやがる! 魔物を仕留めるのはこのオレだ!』」
まーた始まった。
それはともかく、これなら……。
「隊長、副会長と俺は路地を通ってオープンカフェ側から別館へ踏み込むルートで行こうと思いますがどうでしょう?」
「『理由は?』」
「今のまま魔物が矢茨と双破に気を取られていてくれれば、その間に別館から中に侵入して本体を突く、という手はあると思います」
「ああ、なるほどね。ナットくんナイスじゃない」
「『オレを囮にする気か、ボロ雑巾!』」
「『心外だよ、日向くん』」
「あはっ、カズマが囮なのはいつも通りじゃない」
「『なんだとコト姉!?』」
「『いいだろう。矢茨と双破は引き続き大通り側から圧力をかけろ。埜之平と日向は別館からの侵入を試みてくれ。現在、イーマル百貨店は一般市民の避難誘導中だが、中に巻き込まれた一般市民がいないとも限らない。建物やフロア内の破壊は出来る限り控えるように』」
「了解です、隊長」
「『そちらが到着する前に、僕が本体を引きずり出しておきますよ』」
「『そいつはオレのセリフだぜ!』」
ひとまず作戦は決まったようだ。となれば、迅速に行動を起こすべきだろう。
「副会長、その銃は俺が持ちますよ」
「ホントに? サンキュー、助かるわ。いつもコレ、邪魔で困ってたのよね〜。カズマはお構いなしでドンドン突っ込んで行っちゃうでしょ〜?」
副会長は明るく笑いながら、火山岩石化銃を手渡してくれる。その言葉の端々から、普段の苦労が伺い知れた。
「ん〜〜〜! 両手が塞がってないって開放感あっていいわ〜!」
とても楽しげで何よりだ。何もサポートできないかと思ったけど、俺と臨時補佐代理が加わっただけでも、副会長にはメリットがありそうだ。
「じゃあナットくん、現在位置情報の確認とかも任せちゃっていい?」
「ええ、オッケーですよ」
「うん、よろしく! 行くわよ、ハノンちゃん!」
「はいですの!」
そう言うと、副会長は勢い良く駆け出した。俺と臨時補佐代理も副会長の後に従って、白い靄に煙る町並みへと向かった。




