(三)チームワーク:臨時補佐代理
「『あ、隊長〜〜! ここです、ここ!』」
「『こちら司令車両だ。埜之平、臨時補佐代理の両名と合流した。現場に急行する』」
臨時補佐代理って……もしかしてさっき来たばかりの『天使候補生』のことなのか……?
「『みなさん仕事熱心で感心ですの!』」
そういう問題じゃないと思うが……。呑気な子だな。
「『信術解! 球体シールド展開!』」
いきなり、ヘッドセットから双破タケルが精霊魔術を使う声が聞こえてきた。
「『こちら双破です。魔物と遭遇しました。戦闘態勢に入ります!』」
「『おい双破ぁ! ウソぶっこいてんじゃねーぞ! 魔物はオレの目の前だ!』」
ん? どういうことだ?
「『なぜ僕がそんなウソを? 信術解! 氷の剣山!』」
「『チッ、ウネウネしやがってキメーんだよ! うらあああああ!!!』」
二人の言葉の後、ヘッドセットから爆発音のような轟音が響いてくる。それだけでも二人の精霊魔術の威力のほどが伺い知れる。
「『こちら双破です。魔物を撃退し終わりました』」
「『ヘヘッ、一丁上がりだぜ! チョロいもんよ!』」
双方の様子を聴く限りでは、撃退したっぽいけど……。
魔物が複数いたのか、魔物の操る混沌を相手にしただけなのか……? それとも、別々の方向に駆け出した二人が、案外同じ場所に出たとか?
現場の状況を見てみないことにはわからない。
ただはっきりしているのは……ミストが晴れないということだ。
「双破、矢茨、ミストが晴れてないよ。そいつらは魔物の本体じゃないと思う」
「『なんだと、ボロ雑巾! テメー、ボーっとしてやがるくせにエラソーなこと言ってんじゃねえ!』」
「『……ああ、いや。確かに日向くんの言う通りかもしれないね』」
「撃退したヤツは、どんな姿だった?」
「『草と言うべきか、花と言うべきか……黒いバラに口がついたようなヤツだったよ』」
「『えー、何それキモい』」
「『矢茨、双破。今、こちらから現場の混沌反応が確認できるようになったところだが、魔物はまだ生存している。矢茨と双破の現在地も含めて、かなり広範囲で混沌反応が出ているから注意するように』」
「『チッ、マジかよ』」
「『今、片付けたのは、魔物の一部ということですね?』」
「『ああ、おそらくな』」
「『ざけんな! だったら本体を仕留めるまでだ! 本体はどこにいんだよ、隊長!』」
「『わからん。混沌反応の範囲が広すぎる。中央付近が本体なら話は早いんだがな』」
その時、ヘッドセットの向こうから激しい風切り音が響いてきた。
「『クッソ危ねえ! 下から攻撃してきやがった!』」
「『双破です。こちらも地中より再出現を確認。現在、対応中です』」
「『鬱陶しいぜ! 俺たちゃ雑草刈りに来たんじゃねーっつーの!!』」
やっぱり終わりじゃ無かったか……。
矢茨カズマと双破タケルの言葉から察するに、どうやら魔物たちは地中から出てきているようだ。
「『日向、こちら滝宮だ。現場に到着したので、埜之平、臨時補佐代理の両名と合流してくれ』」
隊長からの通信があって程なく、俺のすぐ横の空間に光球が現れた。双破タケルの、あの精霊魔術とまったく同じ光球だ。
「ふうっ、現場到着っと。あ、やっほ〜、ナットくん」
「ここがミストの中ですのね!」
「モッキュキュ」
光球の中から、埜之平高校副会長の埜之平コトネと臨時補佐代理のハノン・フラットが姿を現した。臨時補佐代理の肩に乗っている青い小動物の精霊が、もの珍しげに辺りをキョロキョロと見回している。
副会長は術具の長弓を肩に掛け、ガトリングガンのようなものを携えていた。
「副会長、それは?」
「ああこれ? 『火山岩石化銃』って言ってね、魔物を火山岩みたいにコッチコチに固めちゃう火炎ビーム銃なの」
「へー」
「あたしたちゼノリスは魔物を撃退するのが任務だけど、ただ倒すだけじゃなくて、『ゼノリス化』して国際魔術評議院に送るまでが任務なのよ。覚えといてね」
つまり、魔物を弱らせて捕獲しなきゃダメ、ってことか。それはただ撃退するよりも、ちょっとひと手間だなぁ。
「これ、重いですの〜」
同じく、火山岩石化銃を携えている臨時補佐代理が泣き言を言う。
「俺が持とうか?」
そう言って近寄ろうとすると、臨時代理補佐はなぜか、火山岩石化銃を俺の方に向けた。
「それ以上、近寄らないでほしいですの」
眉根をキッと釣り上げ、俺の方を睨みつけている。その細い肩の上で、青い小動物が「キキッ」と鳴き声をあげて飛び跳ねた。
「へ? なんで?」
「あ〜ら、ナットくん。もう喧嘩? 仲良くしなきゃダメよ〜」
副会長が横でニヤニヤしている。
ん〜、なんだろう、これ……。俺が『強制監視対象』だからだろうか?
それとも……。
不意に、心に重い物がのしかかってくる。
『悪魔抹殺という大事な任務を託され、ここに派遣されました────』
「(……たしか、そんなことを言ってたっけ……まさかこの子は、ユリルの事を知ってるんだろうか……?)」
俺を睨みつけ、鼻を「ふん」と鳴らす天使候補生を見つめながら、そんな不安が頭をよぎっていた。
「(とりあえず、向こうから『気安く関わってくるな』と言ってるわけだから、そっとしておこうか。妙な探りを入れられるよりは、すっきりしていいや)」
俺は肩をすくめると、白い靄に煙る町並みに視線を向けた。




