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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第四章】天使の卵
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(三)チームワーク:入隊早々

 入隊式のあと────。


 俺と双破と矢茨の三人は、タクシーの後部座席に押し込められるように座っていた。


 ちょうど、ゼノリス第二十六地区の繁華街に差し掛かった辺り。タクシーは建ち並ぶビル群の間をひた走っていた。

 今ならまだ3時限目の授業に間に合うはずだ。


「ハッハー、カワイイのが来たな! 頭撫でてやって『よろしくな』っつったらよー、『はいですの!』だとよ! く〜〜〜〜、カワイイ娘はイイね〜」

「あの『天使候補生(アンジェレンティス)』がカワイイというのは全面的に同意だね。おかげでゼノリスでの楽しみが増えたよ」

「手垢まみれのクッセー手を出すんじゃねーぞ、双破。純真無垢な天使ちゃんの、まっすぐで清らかな成長を阻害しちまうからなー」

「フフッ、それはキミの方じゃないか」

「ハッ! オレのこの手はゴッドハンドだぜ〜? どんな(スケ)でも一夜にして妖艶な蝶に変えてやんよ」

「フンッ、下品すぎて反吐が出るね。腐肉に群がるウジでも触ってるがいいよ」

「バーカ、オレにも選ぶ権利があるっての」

「おい、二人とも……あんまり動くなよ……」


 二人の間に挟まれて、肩身が狭いとはこのことだ。


「つーか、あの子が来んなら、テメーら必要なかったんじゃねーの? 天使様の前ではテメーら足手まとい以外の何物でもねーぞ、ハハッ!」

「ははは、キミの方こそ、クビのピンチなんじゃないのかい? この際だから、臭い飯を食べに戻っても良いと思うけど?」

「あんだと、テメー!」

「おいやめろ! タクシーの中だぞ」

「ウッセー、ボロ雑巾。もうちょっとそっち寄れよ。臭せーし邪魔なんだよ」


 言いながら、矢茨カズマが広げていた股を更に広げて、膝をグイグイと押し付けてくる。


「おい、押さないでくれよ! 日向くん、もうちょっとそっちへ」


 双破タケルも負けじと肘で押し返してくる。


「これ以上無理だって……」

「ボロ雑巾なんだからよー、もっと小さくなってろっての! ハハッ!」


 こんなことなら前の席に座れば良かった……。

 今後、ゼノリスでの出動が増えれば高校の出席日数が足りずに留年、なんて可能性も出てくる。そうなると困るから急いで学校に戻れ、って言われてこうなってしまったが……。


「しかし悪魔か。どんなヤツだろう?」

「ハンッ! どんなヤツだって構やしねー。見つけた瞬間、オレがボッコボコにしてやんよ!」

「フフッ、あえなく撃退されて犬死にするのが目に浮かぶようだよ」

「そういうテメーこそ、ウジウジと小賢しいマネして逃げ回るんだろうがよ?」

「逃げ回るだなんてとんでもない。対悪魔用の戦術はすでに幾つか考案済みさ。是非とも、僕の目の前に現れて貰いたいね」

「ハンッ! どーせ、どこぞのエセ攻略書を真に受けてんだろー? 『マクドナッツの書』とかいう……」


 ……マクドナッツ、通称マクドはファーストフードの大手有名チェーン店だぞ、矢茨。


「プッ、ははは! 相変わらず無知だね、キミは!」

「あ!? ナニ笑ってやがんだ? 今すぐここでヤってやんぞ!?」

「上等だね! こんな狭い所では、キミの脳筋戦法なんてこれっぽちも意味が無いというのに」

「バーカ、この距離ならヤルかヤラれるかだ。速攻キメたモン勝ちだぜ!」

「やめろって二人とも。マジになんなよ」

「オラオラァ! 先手必勝!」


 俺の制止も聞かず、矢茨カズマが足を振り上げる。


 と、その時!


 いきなり、全員の精霊プリズムが赤色に点滅して慌ただしく動き始めた! そして窓の外から響き渡るサイレンの音!


「ミストだと!?」


 矢茨カズマが驚きの声を上げた瞬間、俺は地面に身体を投げ出されていた────。



 ◆



「痛ててて……」


 ……死ぬかと思った。ちょうど信号の手前で、タクシーが速度を落としているところだったから良かったものの……。

 とはいえ、走行中の車から投げ出されたのだ。無傷なわけがない。


 左肩と背中から腰あたりがズキズキ痛む。


「なんとか……動けそうだな……」


 痛みを堪えながらゆっくりと腰を上げる。辺りを見渡すと、繁華街に建ち並ぶビル群を白い靄が飲み込もうとしているところだった。


「我ながら、毎度毎度、ミストに巻き込まれるのが早過ぎるな……」


 ボヤいていると、上着のポケットに入れたヘッドセットから着信音が聞こえてきた。


「そうだ、ゼノリスに入隊したんだっけ」


 初日早々、しかも入隊式直後に魔物とは……。ポケットからヘッドセットを取り出すと、早速、左耳に引っ掛ける。


「はい、こちら日向です」

「『日向くん? 生きてるかい?』」

「『ハハッ、そのまま消えていなくなってても良かったんだぜ?』」


 いやあ、先が思いやられる。


「『こちら滝宮だ。ミストが発生した。ただちに現場に……』」

「『こちら双破と矢茨です。もう現場ですよ、隊長殿』」

「『ボロ雑巾は一人で勝手に入っちまってんぜ』」

「『なんだって? 大丈夫なのか、日向?』」

「ちょっとあちこち痛いですけど、まだ生きてます」

「『みなさんの声が聞こえますの! 面白いですの!』」


 この声は……さっき来たばかりの『天使候補生(アンジェレンティス)』か?


「『こちら、埜之平とハノンちゃんです。みんな、聞こえてる?』」

「『どーでもいいけどよー、隊長、早く来いっての!』」

「『とりあえず、双破、矢茨はその場で待機。司令車両で……』」

「『僕の精霊魔術でミストに侵入を……』」

「『ちょっと待って。あたしたちまだタクシーだから。ハノンちゃん降りるよ。あ、運転手さんは避難誘導放送に従ってくださいね』」

「『聞こえたか? 司令車両と特殊車両で今から向かう。現場到着予定時刻は……』」

「『おい、急に人が増えてうっせーぞ!』」


 みんな口々にしゃべり始めると何がなんだかわからなくなるな。

 ヘッドセットを耳から少しずらして、周りを見渡す。


「(こうしてる間にも、魔物に見つかったら大変だな……)」


 繁華街は初めてだし、土地勘が無いから少し不安だ。


「『信術解、侵入経路の確保!』」


 いきなり、双破の精霊魔術を使う声。

 見ると、白い靄に煙る横断歩道の手前で、ボヤッと光が輝いて見えた。きっと双破タケルのミスト侵入魔術だろう。


 とりあえず、光の方に小走りで向かう。


「『おい、双破ァ! ナニしてやがる!?』」

「『何って、ミストに侵入するに決まってるじゃないか』」

「『隊長が来るまで待ってやがれ』」

「『ああ、キミはそこで待っているがいいよ。では滝宮隊長、お先に行ってますよ』」

「『コラァ! 抜け駆けさせるかよ!!』」


 言うやいなや、光球の中から矢茨が飛び出して来た。


「おお、すげー! マジ入れてんじゃん」

「僕が作った侵入経路、勝手に使わないでくれるかな?」

「あン? 良いだろーがよ別に」

「『え? もう3人とも入っちゃったの?』」

「『双破、矢茨、日向、勝手な行動は慎め。その場で待機だ』」


 俺は巻き込まれただけなんだけど……一緒にされちゃったか。

 思わず軽い頭痛を覚えてしまう。


「へっへー、そうはいくかってんだ。ミストに入りゃあこっちのモンよ!」

「キミってやつは……魔物を撃退するのはこの僕だ」

「待てよ、二人とも落ち着けって。この場で待機が隊長の命令だぞ」

「うっせえ! トーシローは下がってろ」


 矢茨カズマはニヤッと笑うと、腰にぶら下げていた細剣を抜き放ち、商店の建ち並ぶ大通りを北に向かって駆け出した。矢茨の精霊プリズムが薄く黄色い光を放ちながら、その後をすぐに追いかけていく。


「ハハッ! 当てずっぽうとは恐れ入る。信術解! 混沌反応の探知!」

「『当てずっぽうじゃねーっての! 俺の勘だ!』」


 それを当てずっぽうって言うんじゃないかな……。


「日向くんはそこで隊長殿と合流するといいよ」

「『待て待て、二人とも……。始末書モノだぞ』」

「『書きたきゃ書いてろよ、隊長・ド・ノ』」

「結果は出しますから、ご安心下さい」


 双破はクールに微笑むと、今、タクシーに乗って走ってきたばかりの道を東に向かって走り去っていった。白色の光を放つ、双破の精霊プリズムを従えて。


 まったく……。何がそこまで二人を駆り立ててるんだか。


 ヘッドセットの向こうから、滝宮隊長の嘆きの溜め息が聞こえてくる。増員初日早々からこんな様子じゃ、当分は心労が絶えなさそうだな。


「(……まあ俺としては、一人で巻き込まれてる時よりも数段安心か)」


 双破が混沌反応を検知してるし、しばらくはここにいても安全そうだ。


 よほどの非常事態でもなければ、悪魔術(ラニギロト)も絶対運命の枷も使わずに済ませたい。そう考えると、俺はここで隊長や副会長を待つのが一番だろう。




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