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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第三章】新生活は突然に
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(三)埜之平高校:お前もか!?

 朝のホームルーム────。


「こちらが今日からこのクラスに転入することになった、日向ナツトくんだ。みんな、『日向夏』だとか『ナット』だとか言ってイジメちゃだめだぞ〜」


 俺のあだ名をなぜ知っている……なんてのはさておき、余計な事を言わないでもらいたい。


 朝登校してすぐに職員室に行ったのに、担任がまだ来てないという事態にも晒されたし。

 来たら来たで特に何の説明もなく、速攻でこのクラスに連れて来られたわけで……。


「日向くんはね、『すごい優秀な精霊魔術師』だそうだよ」


 唐突に、男子生徒の声がした。見ると、そこには俺に向かって小さく手を振る双破(ふたば)タケルの姿が……。


「お〜、そうなのか」

「そりゃ、この学校に転入してくるぐらいだしな」

「双破きゅんが言うんだったらマジ信用しちゃ〜う」


 双破タケルの言葉に、急に教室がざわめき始める。

 ……くっそ、いきなり変な目立ち方を……。こんなはずでは……。

 思わず顔が赤くなってしまう。


「夏みかん……もとい、日向くんの席だが、あそこ。なぜか空いた席があるから」


 このご時世でよく教師を続けてられるな。明日にも退任とかやめてくれよ……。

 ぞんざいに指を指して見せる担任教師に、心の中で悪態を突きつつ、指定された席に座る。窓際の一番後ろの席だ。


「(これはラッキー)」


 窓の外には学校の校庭が広がっていて、心地よい陽光が包み込むように差し込んでくる。これは昼寝が捗って仕方がないぞ。



 ホームルームが終わると、早速、双破タケルが声を掛けてきた。


「やあ、日向くん。ようこそわがクラスへ!」

「お? お前らもう知り合い?」

「今朝ね、登校中に一緒になったのさ」

「相変わらず双破はチェックが早えなあ〜」


 転校初日とはこういうものだろうか? 俺の周りにはすぐに人垣が出来て、物珍しげに見つめられている。当然のように、その肩や頭上付近には、それぞれの精霊プリズムが浮かんでいた。


「ところで、日向くんはどこに引っ越してきたの? 駅前? 山の中? 雲の上?」

「おー、手が届かない所ってか? 優秀な精霊魔術師様だけに?」

「つまんねーよ」


 しょーもないギャグが飛び交う辺り、一昨日まで通っていた高校と大差なさそうだ。


「『埜之平高校SNS』のプロフィールにさ、名前しか載ってないんだよね」


 ……埜之平高校SNS? そんなのがあるのか。あとでチェックしておこう……。


「えっと、盾冬(たてふゆ)教授のお宅にお世話になってます」

「ふーん、知り合いのお宅ってこと? ご家族で?」

「あ、いや。俺一人だけ」

「一人だけ?」

「そっす」

「お〜〜、いいなあ」

「一人暮らしってあこがれるよな〜」


 ……一人暮らしじゃないんだが。


「まあ、盾冬教授に居候させてもらってる身なんで、わりと肩身狭いっていうか……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 急に双破タケルが大きな声をあげて俺の机に両手をつく。


「ってことはキミ、ユリルちゃんと同じ家に……?」

「……ああ、そうだけど」

「なななな、なんだって!!!!!」


 クールな物腰はどこへやら、やけに大げさに驚く双破。みんな笑ってるぞ……。

 そう言えば、登校中に出会った時も、こんな感じだったっけ。


「どうしてだ!? どうやった!? なにをどうすればそうなるんだ!?」


 ガタンと机を揺らしながら、鬼気迫る顔を近づけてくる。



「よお、ここに転入してきたのかよ、ボロ雑巾」


 男の声がした瞬間、教室の雰囲気が一変した。人垣の向こう、ゼノリスの金髪の男が立っていた。ガムをくちゃくちゃ噛みながら、ポケットに手を突っ込んでいる。その腰には、あの細剣がぶら下がっていた。


「……お前もここの生徒なのか?」

「ったりめーだろ。じゃねーとここにいちゃおかしいだろーが」


 噛んでいたガムをペッと吐き出し眉根を釣り上げると、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。囲んでいた人垣が、自然と別れて道をあける。俺は思わず、席から立ち上がっていた。


 金髪の男は席の直ぐそばまで近づいてくると、顎をあげて俺を見下ろしてくる。


「ヘヘッ、これでいつでも絞ってやれるぜ。クッチャクチャにしてやっから覚悟しろ」


 口の端を吊り上げてニヤリと笑う。


「やあ、これはこれは。ゼノリスの『凶刃』こと『矢茨(やいば)カズマ』がどうしてこの教室に?」


 机を鷲掴みにしていた双破タケルが、クールな顔つきでに颯爽と振り返る。


「オレはそっちのボロ雑巾に用があんだ。すっこんでろ」

「ふん、そうもいかないね。こちらの日向ナツトくんは、僕の大事なクラスメートなんでね。キミのような野蛮な人間には、馴れ馴れしく絡んでもらいたくないのさ」

「へえ……」


 矢茨カズマが、さも可笑しそうに肩を揺らして苦笑する。


「さてはテメー、知らねーな? 一昨日のミストの件」

「……ん? キミたちの失態をここで自慢して、どうするつもりだい?」

「ははン、やっぱな」


 勝ち誇った様にニヤニヤする矢茨カズマ。その表情を見てると、悪い予感しかしない……。


「────ミストの片方は、ソイツが片付けたんだってよ」


 矢茨カズマの言葉に、周囲がざわめく。


「え、だったらすごいじゃん。優秀ってどころの話じゃないぞ」

「もしかして防犯カメラに映ってたっていうのは……?」

「急遽転入ってそれが理由か!」

「また一人、天才現るかよ……」

「でもどうやって……?」


 なんてことだ……。早くもそのことがバラされてしまうなんて……。これには頭を抱えるしか無い。


「しかもそのボロ雑巾サマはよお……」


 嬉々とした調子で声をあげる矢茨カズマに、周囲が息を飲む。


「────ゼノリス第二十六地区4班入りのご予定、って話だ」

「ぶっ……」


 ウソ、だろ……! 強制監視対象とかで監視されるだけじゃないのか!? これは初耳だ……ってか、頭が痛くなってきた。

 眉をしかめた双破タケルが、俺を睨みつけるようにして振り返る。その眼差しには敵意にも似た光が宿っていた。


「キミが……ゼノリス入りだって……?」


 眉間に寄った皺が、これ以上ないほど深々と刻まれている。


「次期入隊者は双破クンって噂だったのに……!」

「でも一人で魔物撃退できるんだし、そりゃ当然だよな」

「すげえ、マジもんの天才なんだ」


 周囲のざわめきがさっきよりも盛り上がっている。

 なんだよ、マジもんの天才、って……! そんな煽り方やめてくれ!

 血の気がサッと引いて、変な汗が噴き出してくる。


「ハハッ! 先を越された気分はどうだ、エセ天才さんよお?」

「……フン、どうということも無いね」

「へえ、強がりかよ」

「強がる必要もないさ。ゼノリスなんかに入らなくても、同じ事は僕にもできるからね」

「ほほ〜〜〜〜う?……」

「いつだって、それを証明してみせる自信があるよ。────人殺しさん」


 双破タケルの言葉に、いきなり矢茨カズマが双破タケルを突き倒す。双破タケルの身体が勢い良く机にぶつかって、ガタガタと騒々しい音を掻き立てた。

 いつの間にか、矢茨カズマの右手にはあの細身の剣が握られていて、頭の後ろで漂う精霊プリズムが徐々に黄色い光を帯び始めていた。


 一瞬にして教室は冷たい緊張感に支配され、どこからか悲鳴が上がる。


「おもしれえ……さすが天才さん、言うことが違うぜ」


 矢茨カズマがニタリと笑う。だがその瞳には、殺気に満ちた炎が燃え盛っている。

 双破タケルはすぐさま体勢を立て直すと、ポケットから紫水晶が輝くネックレスを取り出した。双破タケルの精霊プリズムが、臨戦態勢を取るかのように上下する。


「やはりキミは、僕が始末しなければならないようだね。僕の力、その身でとくと味わうがいいよ」


 口元は笑っているが、凍てつくような冷たい光が、双破タケルの瞳に輝いていた。あんなに物腰穏やかな奴が、こんな冷たい目をするなんて……。

 思わず背筋がゾッとするのを感じた。



「こら〜〜〜〜っ! なにやってんのカズマ!」


 突然、教室の戸口から声が響く。ゼノリスのポニーテールの女の人だ。やはり埜之平高校の制服を着ている。腰に手を当ててさも怒ってるという顔つきで、ズカズカとこちらへ近づいてきた。


「もうすぐ授業時間よ! 自分の教室に戻りなさい!」

「邪魔すんな、コト姉。コイツの息の根を止めるのが先決だ」

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうよ。勝つのは、僕だ」

「上等だ……トーシローが……」


 矢茨カズマがジリッと腰を落として細身の剣を構える。応えるように、双破タケルがネックレスを巻きつけた手を悠然と前に差し出した。


「やめなさい、って言ってるでしょ! 精霊魔術を使った決闘は公序良俗に反する行為! アンタたち処罰されてもいいわけ!?」

「いまさら処罰なんざ怖くねーっての! いくらでも頂戴してやらあ!」

「本来処罰されるべき社会のゴミを片付けるだけですよ。むしろ尊敬されて然るべきですね!」

「ちょっと、双破クンまで! 怒るわよ!!!」

「もう怒ってるじゃないですか、副会長さん」

「わたしの本気はこんなもんじゃないわよ! 本気にさせたら大したもんだわ!」

「オルァアアァァァ!!!」


 瞬間、一瞬の隙を突いて矢茨カズマが動いた!……かに思えたが、思いっきり体勢を崩して前のめりに倒れこむ!


「うわっと!」


 ビターンとひどい音を立てて、床に顔を打ち付ける。


「なにしやがんだコト姉! 邪魔すんな!」


 見ると、副会長と呼ばれた女の人が、右脚をついと前に突き出していた。


「バカね。カズマの行動パターンなんてお見通しよ」

「ちっ!……」

「はい、もう終わり。また今度にしなさい!」


 副会長は矢茨カズマに近づくと、頭をグシャグシャと撫で付けた。


「ちょっ!! グシャグシャにすんじゃねーよ、バカ! どんだけ時間かけたと思ってんだ!」

「はあ〜〜い? 寝グセでしょ〜?」

「んなわけねーだろ!!!」


 ブンと音を立てて矢茨カズマが拳を繰り出す。副会長は何事も無いかのようにサッと避けてみせた。


「はいはい、立って立って」

「引っ張んな! ガキじゃねーんだぞ!」


 矢茨カズマの言葉に耳を貸さず、その身体を強引に引っ張り起こすと、背中を押して教室の戸口へと向かっていく。


「みなさんごめんなさいね〜〜。あ、日向クン、転入おめでとう。よろしくね〜」


 副会長が笑顔で手を振ると、ちょうど1時限目の授業開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。周囲を取り囲んでいた生徒たちも、ざわめきながら席へと戻っていく。


「ちーーーーーーーーーーっ!!!! 覚えてろよ、ボロ雑巾!」


 廊下から矢茨カズマの捨て台詞が木霊する。……てか、なんで俺なんだよ……。今の流れなら双破タケルに言え、っての。

 当の双破タケルは、「フフン」とクールな笑みを浮かべると、自分の席へと戻っていった。


 それにしても、双破タケルに『優秀な精霊魔術師が転入してくる』とか教えた副会長っていうのは、あのゼノリスの女の人だったのか……。

 なぜ転入先がこの学校なのか、理由がわかった気がした。たしかにここなら、日中もあの二人が『監視』してる状態ではある。

 下手な動きでも見せようものなら、それこそどういう扱いをされるかわからない。矢茨カズマと同じクラスじゃなかった分だけマシか……。


「(こうなると、ユリルが一緒の学校ってのは、むしろヤバイな……)」


 屋敷を出る時は、ユリルと同じ学校に通えることが嬉しく思えたが……。

 それにしても、よく今まで悪魔だと気付かれなかったものだと思う。上手く目立たないようにしてたとは言うが、双破タケルに目を掛けられてるみたいだし……。

 ……ああ、それにしても、俺が来たことでそのバランスがどうなるか。


 どうやらこの学校には、悩みの種が撒き散らされているようだ……。




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