(三)埜之平高校:天才精霊魔術師
坂道が終わるあたり、ハイウェイの高架橋をくぐると、徐々に同じ制服姿の生徒を見かけるようになる。
生徒それぞれの精霊プリズムが、少しずつ違った動きでその後を追っている。ついては離れついては離れを繰り返すものもあれば、上下に揺れながらついてくるもの、忙しく直線的に動きながらついてくるものもある。
仲の良い生徒同士だと、精霊プリズム同士もじゃれあっているようにすら見受けられた。
それが今どきの登校風景だ。
「もうそろそろ着く感じかな?」
「はい」
その時、進行方向の先で男子生徒が一人、俺たちに向かって手を上げた。
「……知り合い?」
「はい、そうですね」
そう言って、ユリルは「クスッ」と微笑んだ。男子生徒の様子を、微笑ましく思っているようだ。
男子生徒は手を大きく振って俺たち……いや、ユリルが来るのを待っているようだ。普通の人なら目立って恥ずかしい気もするが、なぜかその仕草は優雅に感じられた。
背が高く、端正に整った顔立ちをしている。制服の着こなし、佇まい、そして涼し気なその表情など、そこかしこに育ちの良さが滲み出ていた。
そのせいか、左肩あたりで漂う精霊プリズムも、心なし行儀良さそうに感じる。
「おはようございます、双破先輩」
「やあ、ユリルちゃん、おはよう。相変わらず早いね。それに……」
男子生徒が唐突にウインクをする。
「今日も美しいね。世界のすべてが、キミに嫉妬するよ」
……キザ過ぎて笑える……。同じ高校生とは思えない歯の浮くようなセリフだ。
俺と同学年のらしい。制服の襟元には、2年生であることを示す『II』の文字の襟ピンが止めてある。
「おや、キミは? 見かけない顔だね」
まるで、今ようやく気づいたと言わんばかりだ。男子生徒は、チラッと一瞥するようにして俺を見る。
「日向ナツトって言います。今日から、ユリルと同じ高校に通うことになりました」
「ええええっ、キミが!?」
一応、丁寧に自己紹介をした俺に、男子生徒がとてもびっくりした表情になる。リアクションが大きすぎて、周囲の注目をモロに集めちゃってるじゃないか……。
「ホントに? 何かの間違いじゃないかな? いたって平凡、地味、普通なんだけど……」
男子生徒は大きく目を見開いて、まさにまじまじと、頭のてっぺんから爪先まで俺を眺め回してくる。
初対面の人間に向かって失礼なやつだな……。身だしなみや言葉遣いは100点満点でも、人間性は疑問符がつきそうだ。
「双破先輩はナツトくんの事、ご存知なんですか?」
「昨日ね、生徒会室で『転入生が来ることになった』と聞かされてね。その時、副会長さんが『すごい優秀な精霊魔術師らしいわよ』とおっしゃってたから……」
ぶっ……! ゆ、優秀な精霊魔術師だって? どこ情報だよ……!
「いやあでも……こんな……ホントにキミなのかい? でもそうじゃなければ、ユリルちゃんがキミみたいな凡庸そうな人を相手にするはずもないだろうし……」
ユリルはそんな子じゃないっての。たぶん、誰にでも優しく接して……。いや、なんかそれはそれで複雑な気分だな。
当のユリルは俺の横で、男子生徒の様子に可笑しそうに微笑んでいる。どうやらいつもこんな感じのヤツのようだ。
「なんなら、転入届を見せようか? ヘンな目で眺め回されるのも気分悪いし」
「あ、ごめんごめん! 気を悪くさせたかな?」
そりゃ誰だって気を悪くするだろう……。
俺の言葉に少し慌てた素振りをして見せたあと、男子生徒はニコッと笑顔を作った。……なんというか、女の子ウケしそうな、そんな作り笑顔だ。
「僕、『双破タケル』と言います。どうぞよろしく」
言いながら、スッと手を差し伸べてくる。気は進まなかったが、差し出された手に握手した。
「ようこそ埜之平高校へ。歓迎するよ」
真っ白な歯をキランとさせながら、双破タケルが握手を返す。物腰が柔らかく、邪心の欠片も感じない。……いけ好かない感じだが。
「ねえあの人、誰なの?」
「わかんない。双破クンの知り合いなのかしら……?」
「ちょっと、馴れ馴れしくない? ヤな感じなんですけど」
ふと、周囲からそんな声が聞こえてくる。どうやらこの双破タケルって奴は、有名人らしい。
というか待て! 馴れ馴れしいのは双破タケルの方だってのに、なぜ俺が疎まれなきゃいけないんだ!?
コイツと係ると、損な役回りを背負わされる羽目になりそうだな……。気をつけないと……。
「おっと、急がないと。ユリルちゃんの可愛い顔も見れたし、今日も一日がんばれるよ! じゃあ先に行ってるね、ユリルちゃん」
そう言い残すと、双破タケルは駆け出していった。数人の女子生徒に声を掛けられながら。
「アイツ、なに?」
後ろ姿を見送りながら、ユリルに問いかける。
「有名人なので、そのうちわかると思いますけど」
微笑みながら、ユリルが言う。
「精霊魔術の天才ですよ」




