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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第三章】新生活は突然に
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(ニ)悪魔の館:スラッシュマン

 儀式を終えて、みんなそれぞれに戻っていく。


 今日はこのあと、「歓迎の宴」を催してくれるらしい。ありがたい話だ。

 ただ、歓迎の宴まではまだ時間があるとのことだ。


 俺も食材の運搬を終えると、地下室を出て、玄関ホールから階段を上がる。あてがわれた自室は、2階踊り場からさらに階段を上がった3階にある。

 永嶋さんから「荷物を衣装棚に整理して下さい。足りないものが有りましたら、なんなりとおっしゃっていただければ」と言われている。特にすることもないし、ひとまずそれでもやっておこうか、というところだ。


 そんな事を考えつつ、2階踊り場までやってきた時だった。


「くっそー! ムカつくんだよこのババア!!」


 口汚い怒声が耳に届く。どうやら、踊り場に置かれているテレビの前で、誰かがテレビゲームをしているようだ。


 玄関ホールと同じ広さの2階踊り場は、住人の共有スペースのような感じにしつらえてある。

 中央には3階へ続く螺旋階段がある。部屋の角に大型テレビの前にソファーとテーブルが置かれていて、螺旋階段を挟んで対角線上の角のスペースにはビリヤード台が置かれている。その横の壁際にはグラスやワインなどの酒類の収められた戸棚がある。窓際にはデスクとチェアが2セット置かれており、デスクトップパソコンがそれぞれ置かれている。すぐ横には雑誌や本などが収められた戸棚もあって、自習にも休憩にも使えそうなスペースだ。

 さらに飲料水用にウォーターサーバーが設置されていて、いつでもティーパックやインスタントコーヒーのスティックなどが利用できるようにしてある。


 踊り場からは2つ廊下が伸びていて、それぞれ居室が並んでいる。1階からの階段から見て左がユリル一家の居室が並ぶ廊下、正面は藤本さんや川上さんたちの居室が並ぶ廊下らしい。


 そんな2階踊り場のソファの向こう、男の子が一人、床に腰を下ろしている。その右肩斜め前あたりに、精霊プリズムの姿もある。テレビ画面を見ると、どうやら『モンスタースレイヤーCS3』で遊んでいるようだ。


 今でこそモンスレと言えばゲーセン版の『モンスレGロワ』の事を指すようになっているが、もとはポータブル版のハンティングアクションゲームだった。その派生版であるコンシューマー版はストーリー色を強めてあり、ジャンル的にはアクションRPGと言った方が正しいだろう。

 主人公が設定されているが、その側近キャラを自作してプレイヤーキャラクターとして使うことも可能だ。自作キャラは『モンスレ』内の多種多様な技を習得可能なので、人によって育て方が変わってくる。3人協力プレイも可能で、それぞれが育てたキャラを持ち寄ってクエスト攻略もできるようになっている。


 発売日からしばらく経つこともあり、俺はとっくの昔にクリアしている。


 見ると、中盤の難所に差し掛かっているようだ。それまでのモンスター相手の3対1戦闘とは違って、敵の魔術師との1対1戦闘だ。味方キャラの支援が得られないし、ちょっとした隙にハメ技や連続攻撃をブッこんでくるので、隙を作らない丁寧な立ち回りが必要となってくる。一番楽に倒すなら、カウンター技を決めて連続技を叩き込むことだ。

 ここまでに、側近キャラの支援頼みでノーガード脳筋戦法で押し切ってきたプレイヤーは、確実に足止めを食らうポイントだ。


「くっそ!!! 死ね! 氏ねじゃなくてマジで死ね! 糞開発者!」


 男の子がコントローラーを床に「ダンッ」と叩きつける。テレビ画面には、3作目の主人公キャラである『ソードマスター』ことジョセフ・スラッシュマンが大の字になっていた。その横で高笑いしている女魔術師のビッグ・ビーが、巨乳を揺らしながらジョセフ・スラッシュマンへ死体蹴りを繰り返していた。このシーンはかなり不評だ。


 悪態をつきまくってる男の子が俺に気づいたらしく、口を半開きにして顎をあげ、眉根を潜めて悪党面をしてみせた。


「いつまで笑ってられるかな、チキンハート。俺の『隼』が黙っちゃ無いぜ」


 ……ジョセフ・スラッシュマンの戦闘前セリフまんまじゃないか。

 小学生高学年ぐらいだろうか? ちょっと小太りな感じだ。

 その横で精霊プリズムが、まるで主の命令を待っているかのように、小刻みに揺れながら漂っている。精霊魔術の才能がある小学生には、精霊プリズムが暴走するなんて話が無いわけじゃない。こんなところ精霊魔術をぶっ放されでもしたらたまらないな。


「笑ってなんか無いよ。ここ、難しいんだよな」


 俺の言葉に、男の子は「チッ」と舌打ちする。


「目障りだ、とっと行きな。『隼』がチキンハートなお前の喉笛を掻っ切る前にな」


 それは勝利後のセリフだ。よほど気に入ってるのか?

 俺は男の子の言葉を無視するように、ソファへと座り込んだ。男の子は再び「チッ」と舌打ちすると、ゲームをリスタートした。


 大の字になっていたジョセフ・スラッシュマンに幾つもの光が降り注ぎ、体力メーターが満タンになる。


『まだだ……まだ俺の「隼」は折れちゃいない!』


 言いつつ、立ち上がるジョセフ・スラッシュマン。女魔術師ビッグ・ビーが艶めかしく身体をくねらせながら、踊るようにして間合いを取る。男の子はすぐさまコントローラーをやたらめったらガチャガチャし始めた。


「(あ〜あ、脳筋どころじゃないぞ)」


 間合いもタイミングも何もない。突っ込んでは必殺技、突っ込んでは必殺技の繰り返しだ。普段なら、そこで支援キャラも攻撃に加わって、押し切れるんだろうけど。

 ビッグ・ビーはいとも簡単に防御すると、炎の魔術で切り返す。炎の魔術は一度燃え始めると、消火するまで持続的に体力を削っていく。この状態で大ダメージでも受けようものなら、自然回復メーターも削られる上に気絶必至だ。


『オホホホホホホ! 地獄の淵まで踊りなさい! フレイムワルツ!!!』


 ……言わんこっちゃない。火柱が次々に地面から突き上げて、ジョセフ・スラッシュマンの身体を宙に浮かせる。通称『ワッショイ』状態だ。

 男の子が緊急回避をしようと必死でコントローラーをガチャガチャやるが、ジョセフ・スラッシュマンの無防備状態が解けることはない。そのまま為す術なく、大ダメージを食らいまくって体力はあと少しでゼロ。

 回復アイテムはあるが、これだと飲むアクションの最中に、炎の持続ダメージで力尽きるだろう。


「クッソババアぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」


 男の子の雄叫びもむなしく、ジョセフ・スラッシュマンは力尽き、がっくりと膝をついて地面に倒れた。再び、ビッグ・ビーの死体蹴りが始まる。


「ちゃんと防御して、相手の隙をつけよ。そしたら簡単だぞ」


 俺の言葉に、男の子がまた眉根を寄せて悪党面をする。


「うるせえ黙ってろ」


 これは何のキャラの真似だろう……?


 男の子はすぐさまリスタートするが、全く同じ。出す技を変えただけで、同じやられ方をして終わった。


「くっそおおおお! コイツ弱ええよ! ジミー使わせてくれ!!!」


 残念ながら、今作のジミーは敵の魔王に心を操られて敵役として登場だ。しかもビッグ・ビーとは比較にならないぐらいほどの強キャラとして。素早い攻撃を得意とし、二刀流を習得した状態のジョセフ・スラッシュマンであれば反撃のチャンスを作れるが。

 1作目・2作目の主人公ジミー・ケンゴーに慣れてると、どうしても力押ししたくなる気持ちはよくわかる。3作目は戦い方に工夫が必要で、それが前作よりも好評を博すきっかけになったともっぱらの評判だ。当たり判定が雑でゲームバランスが甘めだった前2作は、かなり評価を落としている。


「コントローラー貸してくれよ」

「は? ざけんなチキンハート」

「3分で終わらせるよ」


 俺の言葉に、男の子の眉がピクリと動いた。ふふん、3分以内討伐はレア素材ゲット確率アップってわかってるな。


 しばらく考えを巡らせている様子の男の子に、俺は黙ったまま手を差し出す。手をひらひらさせて催促すると、「チッ」と舌打ちしつつも、コントローラーを手渡してくれた。


「『カウンターストライク』覚えてるだろ?」

「使ったことねーよ、あんな弱ダメチキンハート専用技」

「そっか? 使いこなすと結構気持ちいいぞ」


 戦闘が始まると、まずはギリギリ当たる間合いから牽制の弱攻撃を繰り返す。すると、ビッグ・ビーがバックステップのモーションに入る。


「ビッグ・ビーがバックステップしたら、必ず『炎三連蹴り』が来るからさ」


 言い終わらない内に、ビッグ・ビーが『炎三連蹴り』を繰り出してきた。「カカカッ!」と防御効果音が鳴り響く間に、すかさず『カウンターストライク』の技を入力する。


「二段目を防御したぐらいで『カウンターストライク』を入れると……ほらな」


 派手な演出と共にジョセフ・スラッシュマンがビッグ・ビーの身体を跳ね上げる。


「『ジャンプ斬り』ニ連続、『アッパー斬り』入れて、ここで『秘伝・隼返し』っと」


 言いつつ、華麗な連続技を次々と決めていく。ビッグ・ビーは巨乳のくせに体重が軽いキャラなので、多少タイミングがずれても全部入る。要するに、『カウンターからの連続技』のいい練習相手なのだ。

 最後の『隼返し』まで綺麗に決まると、ビッグ・ビーの体力は3割ほど削れた。


「脚の装甲が壊れただろ? これで『炎三連蹴り』のダメージが減らせるんだ。おまけに足元ガードできなくなってるから……っと」


 ビッグ・ビーが起き上がったところに『水平隼アタック』を入れる。するとまた、ビッグ・ビーの身体が宙に浮く。


「今度は『蛇行隼斬り』を1、2、3っと当てて、四段目をキャンセル『アッパー斬り』から『ジャンプ斬り』につなげて裏を取って、っと」


 連続技の途中で胸の装甲も壊れてさらにダメージが通る。7割残っていたはずの体力は見る見るうちに減って、あと少しを残すのみ。


「こうなったらさ、タイミングずれてガードされちゃっても全部削り切れるから、確実に超必殺技を入力する」


 ジョセフ・スラッシュマンの超必殺技『ハヤブサトルネードフラッシュ』を繰り出す。巨大な竜巻で敵を巻き上げると共に、ジョセフ・スラッシュマンが光の筋となってトルネードに乗り、片手剣『隼』で敵を切り刻んでいく。

 オーバーキルのボーナスまでついて、ビッグ・ビーの装甲すべてを破壊した。


「破壊ボーナスでの素材報酬も確定。ほら、3分で終わったろ? これでレア度もアップ」


 言いつつ、コントローラーを男の子に返す。男の子はポカンと口をあけて、こちらを振り返った。


「に、兄ちゃん、もう一度やってみて! 俺も連続技を使えるようになりたい!」


 ふふっ、どうやら俺は、『チキンハート』から『兄ちゃん』に昇格したようだ。




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