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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第三章】新生活は突然に
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(一)強制監視対象:その笑顔


「ナツトー、バスタオルとタオルも持って行きなさい」

「いらないって、下着と着替えだけで十分だよ」

「え〜、そうかしら〜?」

「旅行じゃないんだってば」

「でも、冬用の……」

「必要になったらまた取りに来るって」

「ふ〜ん、そうお? あ、じゃあお米は」


 いるわけないし……。俺が急にいなくなるとあって、母さんも少しパニクっているようだ。


 まもなく夕暮れを迎える頃。俺は教授に伴われて自宅へ戻ると、取り急ぎ荷物をまとめていた。

 着替えとポータブルゲーム機、筆記用具と教材タブレット。あとはスマホがあれば大丈夫、っと。


「ナットのPCもらっちゃっていいの?」

「うん、いいよ。教授の家にあるらしいから、それを借りるよ」

「わーい、やったあ。この部屋も自由に使っちゃうからね〜」

「その代わり、朝の掃除機がけよろしくね」

「う……わ、わかってるわよ」


 母さんは心配げにそわそわしっぱなしだが、サツキ姉さんはなんだかやけに嬉しそうだ。

 まとめた荷物を肩に担ぐ。あのガラクタに比べれば全然軽い。


「気をつけるのよ。ちゃんと定期的にメールちょうだいね」

「了解」


 任せてくれとばかりに親指を立てて廊下を出る。階段を降りると、廊下で父さんと話し込む盾冬(たてふゆ)教授の姿があった。


「ふふふ、全く代わり無いようで安心したよ」

「ご心配どーも。ウチの親父のとこに顔見せしとかなくていいんですか?」

「ああ、構わんだろう。どうせまだまだ意気軒昂だろう?」

「まあそうですけどね」


 教授は俺の姿を見とめると、玄関へと向かった。俺もそのあとへと続く。

 母さんと姉さんも降りてきて、家族三人で俺を見送ってくれるようだ。


「まあ、心配しないで良い。私が責任を持って、ナツトくんをお預かりするよ」

「だから心配なんですがね」


 父さんがさも不快そうに肩をすくめる。教授は押し殺すように「くっくっくっ」と笑った。


「ナツト」


 呼びかけるなり、父さんが俺の両肩をがっしりと掴んで、真正面から俺の目を見据えてくる。いつもとはどこかちょっと違う真剣な眼差しだ。


「人生には誰しも、重大な決断を迫られる時がある。決断してなお待ち受けるは茨の道だ」

「え……」


 思わず顔をしかめてしまう。


「な、なんだその顔は……と、父さんが真剣に話してる時に! いいか、どのような事態になろうとも……」

「その決断が導く運命に背を向けてはならない。立ち向かう者には、必ず道が拓かれ、得難きを得るだろう、でしょ?」

「へっ?」


 目を丸くする父さんに、教授が忍び笑いを漏らしている。


「昨日、その言葉は伝えておいたよ」

「ちょっ!!!!!」


 父さんの顔が真っ赤になる。


「ま、待て! いいか、ナツト! この言葉は親父……お前のジイちゃんがオリジナルだ!! 日向家家訓とも言うべきだな……勝手にパクんないでくださいよ、富士夫さん!!!」

「良いではないか。日向が私と海外に旅立つと決断した時の、親父殿の言葉には私も強く胸を打たれたのさ」

「くっそ〜〜〜〜〜、先越されるとは……」


 思わず苦笑せざるを得ない。父さんの後ろで母さんも笑っていた。


「そうそう、日向。これを渡しておかねば」


 教授が懐から何かを取り出す。……あの、未開封の電子マネーカードだ。

 父さんの前に差し出すが、父さんは一瞥をくれただけだった。


「受け取れないって言ったはずでしょ」

「だが荷物をよこしたではないか」

「ナツトに渡しといてくれ」

「俺も受け取り断ったんだよ」

「はあ? なんでだよ? バカじゃねーのお前」


 父さんが言うセリフかよ……。


「え、なになに? なんですか、それ?」


 ニコニコ顔でサツキ姉さんが割って入る。


「ふむ……では、これは、サツキくんに預けておこう」

「わ〜、いいんですか? ホントに?」

「なに、大した金額ではないのでね。自由に使ってくれたまえ」

「ありがとうございます!」


 すんなり受け取る姉さん……。俺と父さんがそれをジト目で眺める。


「あら、サツキちゃんいいわね〜」

「えへへ! お母さん、今日は美味しいもの食べよ! わたしのおごり!」

「あらそうね、お呼ばれしちゃおうかしら、ウフフ」


 父さんの後ろで急に盛り上がる二人……。


「サツキが人としての道を踏み外したらアンタのせいだからな……」


 教授を睨みつける父さんの目がマジだ……。ていうか、あれ? もし俺が受け取ってたら……まあ、いいけどさ。


「心配いらないさ。ナツトくんを見れば、キミたちの躾が如何に正しいか、一目瞭然だ」


 教授の言葉に、父さんは「チッ」と舌打ちして頭を掻く。そして微妙な笑顔を見せると、


「行って来い。勝負に負けることがあっても絶対に挫けるな」


 と言った。

 そんな父さんに「行ってきます」を言い残して、俺は玄関を出た。


 そして、すぐに教授の車に乗り込んだ。


「出してくれ」


 教授の言葉に、車は滑るように走り始めた。思わず、後ろを振り返る。


 住み慣れた家がどんどん遠ざかっていく光景に、一抹の寂しさを感じずにはいられない。決して戻ってこれないわけじゃないけど、あまりにも予期せぬ展開だったから……。

 今日は学校も無断欠席だったし、友人たちも驚いているだろう。まあ、SNSでも連絡は取り合えるし、ちょっと住む場所が変わるだけさ……。



 ◆



 夕暮れ前、あの洋館へと辿り着いた。

 玄関前には、竹箒を手にしたユリルの姿があった。


「あら……?」


 車から降りるとすぐに目が合って、ユリルが驚いた顔をする。教授の方をチラリと見ると、いたずら気な笑みを浮かべてクイッと顎で俺を促した。


「あの……日向ナツトと言います。今日から、この家でお世話になることになりました。よろしくお願いします」


 そう言って一礼する。顔を上げると、驚いた表情のユリルがニッコリ微笑んだ。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 暖かな夕日に照らされて、ユリルの笑顔がこれ以上ないほど輝いて見えた。

 思わず、クッと気を引き締める。


 その笑顔、絶対に守ってみせる、と────。




<第三章(一)強制監視対象 終>



そんなわけで(どんなわけで?)ユリルと新生活を共にすることになったナツトくん! いったいどんな生活が待ち受けているのか?!

次回より「第三章(二)悪魔の館」です!

感想もお待ちしておりまーす。


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