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天使な悪魔の絶対運命  作者: みきもり拾二
◆【第三章】新生活は突然に
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(一)強制監視対象:要注意不審人物

「や〜ね〜、物騒よね〜」


 朝の食卓。テレビを見ながら、サツキ姉さんが誰に向かって言うでもなく、そう漏らした。


 昨晩からテレビでもインターネットでも、ゼノリス第二十六地区で起きた『ミスト同時発生事件』の話題で持ちきりだ。

 もちろん広範囲に見れば、同時刻帯にミストが同時に発生していることもある。ただ今回は、「同じ地区内」という限られた範囲内で同時発生したことが注目されているようだ。


 比較として挙げられるのが12年前に発生した『デーモンヴォルケーノ』と呼ばれる現象だ。短時間のうちにミストがいくつも発生し、その中から無数の魔物が飛び出して来て、町に甚大な被害を与えた歴史的大事件。複数の地区のゼノリスが出動し、天使の助けも借りて事態は収拾したものの、犠牲者が数十名にのぼり、上級精霊魔術師も何人か生命を落とすなど、今なお人々の心に大きな爪痕を残している。


 今回の同時発生は、「その『デーモンヴォルケーノ』の予兆ではないか?」という見立てをする専門家もいる。そのことが様々な憶測を呼んで議論が加熱しているらしい。


 それに加えてもう一つ問題なのが……。


『自然消滅したと推測される2つめのミストですが、管轄するゼノリス地区本部によりますと、魔物がミストから出てきた可能性もあり、夜を徹した捜索活動が行われています。しかし魔物は見つかっておらず、引き続き調査中であるとのことです。これに対し、付近住民の不安はピークに達しており……』


「とんでもないわ〜、あんなところに住んでる方がダメでしょ〜」


 サツキ姉さんが頭を横に振りながら、深々と椅子に寄り掛かる。母さんは無言でお茶をすすりながら、ジッとテレビに見入っている様子だ。


「ネットでも話題になってるけど、なーんにも進展が無いみたいだな」


 父さんはタブレットで情報集めの様子だ。大方、大手の匿名口コミサイト『チャンネル743』でも見てるんだろう。

 俺も昨晩、同じサイトを見ていたが、びっくりするぐらいの妄想で溢れていたな……。


 そのサイトや報道を見る限りでは、最初に発生したミストは、発生から20分ほどでゼノリス第二十六地区4班が解決したらしい。ムカデ型の魔物がビルを這いまわっていたという話で、ゼノリスによって公開された写真があちこちに転載されていた。

 あの二人も結構やるもんなんだな、と感心したっけ。実はゼノリス第二十六地区4班の二人はかなり優秀らしく、『チャンネル743』にはファンサイトスレまで存在していた。

 今まで精霊魔術師の仕事や活躍に興味が無かったから、全然知らなかったけど。ゼノリス入りや精霊魔術師を目指す人だけでなく、他地区の現役ゼノリス隊員にとっても憧れの存在のようだ。


 2つめのミストについては、ゼノリス第二十六地区1班が付近住民の誘導にあたっている最中に消滅した、という事しか分かっていない。1班の二人は上級精霊魔術師だが、「ミストに入る手立てが無く、付近の警戒にあたるしかなかった」とコメントしている。


 1班にも、俺みたいなすぐに巻き込まれてしまう体質の人がいれば話は別だったろう……。


 ミストへの侵入はいつも、特殊車両に搭載された『ミスト侵入経路掘削機』という装置で行うらしい。それを搭載した特殊車両が1台しかなく、しかも4班に随行していたため、対応が後手になったとされている。


 どうやらその事も議論の的になっているようだ。「市民の安全を守るのに、コスト削減を重視した安全保障で良いのか?」と主張する増強推進派と、「だからといって公的資金は無限ではない。必要最低限を整える必要はあるが、それ以上に関しては各地域でどの程度必要かをより正確に見極める必要がある。そもそも、2つめが発生した時点で、他地区に応援を要請すべきだったのでは?」という増強慎重派に分かれて意見が対立している。

 どうもそこまで議論が進むと、政治的な思惑も絡んでくるらしく、なかなか一朝一夕には結論が出せない、ということのようだった。


 その他の意見としては、『ミストに侵入する精霊魔術があるのになぜ使わない?』という書き込みがものすごい勢いで炎上してたのが目立ったぐらいかな。「本当にあるのか?」「煽りはやめろ無能」「んな魔術あるかよ」なんて反対意見が多く、荒らしコピペ連投までされててとても議論になってなかったが……。



『今入ったニュースをお伝えします。先程よりお伝えしていますミスト同時発生事件ですが、ゼノリス第二十六地区本部より不審人物の映った防犯カメラの映像が公開されました。こちらの赤丸で囲われた少年にご注目下さい』


 アナウンサーの言葉に、家族全員の視線がテレビに集中する。


「ぶっ!!!!」

「あら? これってナットじゃない?」


 映像を見た瞬間、思いっ切り吹き出してしまった。父さんも母さんも姉さんも一斉に身を乗り出す。


 どこからどう見ても、昨日の俺だ!


 しばらくして俺の姿がフワッと掻き消える。そのあとから付近住民らしき人々の逃げ惑う姿。

 同じ場面が何度も繰り返し流される。


「やっぱりそうよ! これってあのスポーツバッグでしょ?」

「見つかったのか? 売上はどうした? 父さんに3割くれるんだろ?」

「あたしに1割くれるって言ってなかったっけ〜?」

「ま、待てって! 今はそれどころじゃないだろ!」


『ミストに巻き込まれたと思われるこの少年がなんらかの事情を知っていると見て、ゼノリスは行方を追っているとのことです。なお、ゼノリスでは……』


 ヤバイ……これは今すぐにでも身を隠すべきだろうか?


「情報提供者には賞金出るって!」

「マジか!? 最大2千万だとっ!?」

「お父さん、急いで電話電話!!!」

「おいおいおい!」


 子供を売ろうってのか!?

 その時、不意に玄関のベルが鳴った。母さんが「はぁい」と言いながら席を立つ。


「こんな時間に誰だ?」


 父さんがぶつくさ言いながら後を追う。しばらくすると、「おーい、ナツト」と父さんの呼ぶ声が聞こえた。


 その声色からして、非常にまずい予感が……。


 しかしここで逃げると、家族に迷惑が……。いや、もう迷惑をかけることになったかもしれない。

 溜め息を一つ吐き出すと、ゆっくり席を立ち、玄関へ向かった。



 ◆



「朝早くに申し訳ないね、日向ナツトくん」


 玄関にはゼノリスの滝宮(たきみや)隊長の姿があった。その表情は神妙で、どことなく硬い。


「ボロ雑巾! やっぱりテメーの仕業か!! ああ!?」


 いきなり、あの金髪の男が滝宮隊長を押しのけて土足で踏み込んでくる! 勢いよく俺の胸ぐらを掴むと、「ドン!」と激しく壁に押し付けた。


「つっ……!」

「だから怪しいつっただろーがよ!! 一切合切吐きやがれ!!!」

「やめなさいってば、カズマったら!!」


 あの女の人も一緒だったようだ。父さんと母さんに「すみませんすみません」と頭を下げながらササッと近づいてきて、男の肩をグッと掴む。

 金髪の男は抵抗する様子もなく俺の胸ぐらから手を放すと、「チッ」とひとつ舌打ちした。


「日向ナツトくん、キミに尋ねたいことがある。我々と同行願うよ」

「え、なになに? ナットどうしたの?」


 にこにこ顔のサツキ姉さんが台所から顔だけ覗かしている。他人事だと思ってこの状況を楽しんでるな……。


「ウチの愚息が何か?」

「ニュースはご覧になってませんか?」

「……昨日の、2つ同時発生の件ですか?」

「ええ、そうです。今朝方、ゼノリス第二十六地区調査班が、息子さんの映っている防犯カメラ映像を発見しましてね。重要参考人として、調査にご協力願いたいのです」

「……令状とか、そういったものは?」


 父さんの質問に、滝宮隊長はサッとタブレットを取り出して、その画面を指し示す。


国際魔術評議院(マグマリア)と各国首脳の取り決めにより、非常時における執行権はすべて国際魔術評議院に委譲されることが認められています。本件はすでに『非常時レベル3』に認定されており、その権利を行使することが可能な状態にあります」

「なるほど」

「なに、手荒な真似をしようというわけではありません。あくまで話を聞きたいだけです。ただ、事と次第によっては……」

「ギッタギタのぐっちゃぐちゃに締め上げてブッ飛ばしてやんよ!!!」

「カズマは黙ってなさいってば……」


 この二人は相変わらずのようだ。

 父さんは頭をポリポリと掻くと、肩をすくめた。


「まあ、ウチの愚息のことです。悪いことはしてないでしょう。ですが、ウソをつくようならどうぞ、ギッタギタのぐっちゃぐちゃに締め上げて、半人前の腐った根性をブッ飛ばしてやって下さい」


 なんだと……!? 酷いぜ父さん……。


 愕然とする俺の横で、金髪の男が満面の笑みを浮かべる。


「今度は逃さねーぞ、ボロ雑巾! 地区本部で絞り上げてやっからよ!」

「なに言ってるのよ。カズマとあたしは、こ・こ・ま・で。このあとは学校よ」

「な、なんだとっ!?」


 母さんが「プッ」と吹き出し横を向く。確かに金髪の男のリアクションは面白かったが……。


「行って来い、ナツト。身の潔白をちゃんと証明してくるまで、家には上がらせないからな」


 そう言い残して父さんが台所へと戻っていく。サツキ姉さんが「ねえねえ、情報提供の報奨金もらえるのかな?」などと言っている。母さんは「うちの子をどうぞよろしくお願いします」と滝宮隊長に頭を下げていた。

 信頼されてるのか冷たいだけなのか……思わず溜め息をつかずにはいられない。


「チクショー、ボロ雑巾のヤロウ……」


 金髪の男が、ポニーテールの女の人に背中を押されて玄関を後にする。

 アイツがついて来ないのだけは朗報だな。相手にするのが一番面倒くさそうなヤツみたいだし。





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