(ニ)発見:ハイウェイ
ゼノリス第二十六地区へと続くハイウェイをひた走る────。
太陽は西の空へ傾いているが、日が暮れるまでにはまだ時間がある。陽気が日に日に増して、開けた窓から吹き付けてくる風が心地いい。
「顧問職を辞された今でも、精霊や悪魔に関する研究をされているそうだよ」
悪魔に関する研究……。思わずドキリとする。
もし盾冬教授に、俺がミストで悪魔と出会ったことが知れたなら、どういう反応をするだろうか?
「時々、地区本部においでになっては、やれ研究機材を貸せだの立ち入り禁止区域への侵入を許可しろだのとおっしゃる方でね。職員も扱いには手を焼いているよ」
……横柄な人なのかな? なんとなく強面の人物が思い浮かんでしまう。
「そういえば父さんが、『俺の人生を狂わせた人だからお前も気をつけろよ』って」
「はははは! 確かにね、ひとつの事に熱中すると、周りが見えなくなるところはお有りだ。そのせいで、他人を非常事態に巻き込んでしまうことにお気づきにならないというかね」
「はあ……」
この際、極悪人じゃないことを祈るしか無い。
「まあ、少々変わったお人だが、そういう類の方では無いので安心したまえ」
俺の顔色を見て取ってか、滝宮隊長はそう言って微笑んだ。
「ところで、ミストに巻き込まれたのはあの日が初めてかい?」
「あ、はい。俺の住んでる地区では、ミストが発生したこと無いですから」
「なるほど、そのようだね。まあ、ゼノリス第二十六地区は多いのさ。国際魔術評議院から『激戦区』の指定を受けているほどにね」
「そ、そうなんですか……」
そんな場所で生活するのって、大変そうだな。
「おかげで地区外への住居移転をする人が激増した時期もあってね。今では『巻き込まれなければどうということはない』という住人ばかりさ。むしろ、ゼノリスの管轄地区内の方が安全だ、と考えている住人もいる」
滝宮隊長によると、俺のように「発生即巻き込まれる」というパターンはレアケースらしい。多くの人は、ミストが湧き上がってる最中でも逃げ出せるものだそうだ。
「近年、『魔術犯罪者』の増加傾向にあることも影響しているんだろう。それに対して第二十六地区は、1ヶ月間のミスト発生件数は多いが、魔術犯罪の発生件数はほぼゼロというデータがある。さらに言えば、通常の犯罪件数も他地域に比べて格段に低い。これは各不動産業社にも公開されているデータだ」
「へえ、面白いデータですね」
「フフッ、理由はごく単純でね。魔術犯罪者たちもミストには巻き込まれたくないのさ。逮捕された者の多くが、そう自供しているよ。犯罪者の多くは、付近の下見をしっかり行う傾向にあるからね」
いつもは意識すること無いけど、俺の自宅周辺もいつ魔術犯罪者が現れるかわからないんだな。危険っていうのはいつ何時でもあるものだろうけど、それが身近で起こりうる可能性を示されると、なんだか空恐ろしく感じられてしまう。
「ミストって、なんで発生するんでしょうね?」
俺の質問に、滝宮隊長がチラッと視線を投げかけてくる。
「知っての通り、国際魔術評議院の見解では、『精霊力発電』との因果関係は認められないことになっている」
滝宮隊長はどこかおどけた表情でそう言うと、「フフッ」と笑った。
「ゼノリス第二十六地区においても埜之平神社で……」
言いかけた時、不意に遠くの方からサイレンが響き渡った。
「あれは……!」
驚いて遠くの方を見やる俺の横で、滝宮隊長がヘッドセットで通信を始めていた。
「こちら滝宮だ……了解、すぐに現場へ急行する。司令車両を出動させておいてくれ」
ミスト発生警報だ! またしても……!
「現場はここから離れたところだそうだ、心配ないよ」
そう聞いてホッとする。今回は巻き込まれずに済みそうだ。
滝宮隊長は緊急車両灯を点灯させると、アクセルを一気に踏み込んだ。
「申し訳ないが、インターチェンジを出たところで降りてくれたまえ。現場にキミを連れて行くわけにもいかないからね」
車の加速する重力に踏ん張りながら、無言で頷き返す。俺としても、現場同伴なんてまっぴらゴメンだ。




