(一)枷の力:誰がために
家路を歩きながら、絶対運命の枷のボタンを押す。
『精霊力解放、ボディリフレッシュを行います』
音声とともに精霊プリズムの発光が収まって、全身にぽかぽかした暖かい感触が広がっていく。一直線だった白の針と黒の針は、今はまた、への字になっていた。
咄嗟の出来事だったのに、思い通りの精霊魔術が使えた。これは非常に便利だと言わざるを得ない。
精霊魔術を操って、魔物や悪魔を退治するスーパーヒーローになる────。
それは、この国の子供なら誰もが一度は思い描く夢だろう。
俺も小さい頃には、そういうことを思ってたはずだ。精霊魔術師の育成プログラムを受けるうち、全く才能が無いことに気づいて、いつしか諦めてしまったが。
そんな俺が、図らずも天使の使徒となり、文字通り『正義の味方』になった。
「しかし、なあ……」
『我らが使徒に託す願いは、唯一つ
今日、少年が出会った悪魔を、我々の前に引きずり出すことです
……抗えぬ絶対運命……』
天使たちの言葉を思い出し、思わず表情が曇って心が重くなる。天使の前に悪魔を引きずり出してしまったなら、天使は必ず悪魔を抹殺しようとするだろう。
「それは……」
それは俺の本意じゃない。俺としては、あの子の力になりたい。
魔物の罠に落ちて、あの子に悪魔の力を使わせてしまったのは俺のせいだ。突然の危機にパニクる俺を、安全な場所まで導いてくれたというのに……。あのまま、低木の茂みで隠れておけば、ゼノリスの救援が間に合っていたように思う。
そんな、償いの気持ちだけじゃない……。
あの子の事を思うと、なぜか胸がギュッとして切ない気持ちになってくる。姿も声も、一緒に何をして過ごしたかも、全く思い出せないというのに。唯一、モンスレのシスター・アンジェと面影が似てた気がすることだけは覚えているが。
「とても優しくて、暖かった気がする」
心の奥底にある、この確かな感情。
もう一度会って話がしたい……。会って、直接、俺の想いを伝えたい。
例え天使に背いてでも、俺はキミを守る────。
あの子は無事に過ごしているだろうか? 夕日に染まる雲を見上げる。たぶん、あの町のどこかにいる気がする。
「しかしな……」
ふと、思う。再び出会うことさえ無ければ、絶対運命も成就しないまま時が過ぎる、なんてことだったりしないだろうか?
「出会わなければいい、か……。でもやっぱり、それはそれで、ちょっと寂しいな……」
絶対運命が成就することだけは、なんとしてでも避けたい。でも、あの子にはもう一度会いたい。
相反する想いに身も心も捩れてしまいそうだ。
「……絶対運命の枷で精霊魔術が使えるのはわかったけど……」
これをむやみに使ってはダメだ。右手でそっと、絶対運命の枷を覆い隠す。
どうしてもやむを得ない場合にだけ、大ピンチに陥った時だけ頼ることにしよう。グッと奥歯を噛み締めて、決意する。
天使の言葉がすべてじゃない。運命に翻弄されるがままに生きるだけで良いはずがない。何か方法はあるはずだ。
俺なりの努力で、守りたいものを守るための力に変えてみせる────。
夕日に染まる、歩き慣れた道。
心に決意を固めながら、静かに家路を歩いた。
<第ニ章(一)枷の力 終>
次回より「第二章(二)発見」に突入です!
枷の力を確認したナツトくん。あの子のために力を使うと決めて、いよいよ再会の時来る!?




