(一)枷の力:もう一回
「そもそもなんで、精霊魔術を使わせてくれるんだ?」
天使の使徒だからか? この力で悪魔を捕まえろと……?
白い針も元の一直線に戻っちゃってるし、これなら時間をおけば、何度でも精霊魔術を使えるって事だろうけど……。天使の使徒だからということで精霊魔術を使わせてくれるにしても、だったらなぜ、わざわざこんな回りくどい仕組みにしてあるのか?
「無制限に使わしてくれよ、ってのはわがままなのかなぁ?」
うーーーーーん……。
頭を捻ってみても、天使の考えが分かろうはずもない。
ただ、絶対運命の枷をジッと見つめていると、もう一度試してみたい気持ちに駆られてくる。本当に、あれは絶対運命の枷によるものなのだろうか、と。
「(実は新しい精霊プリズムが精霊魔術を使った、ってだけかもしれないし。確認は必要だよな……)」
念のため、キョロキョロと辺りを見渡す。精霊プリズムが普及してるとはいえ、公共の場での無為な精霊魔術の使用は、迷惑行為と見なされる場合がある。公序良俗に反する行為ならば、即、『魔術犯罪者』に認定だ。
昼間のようなハプニングが起ころうものなら、警察沙汰にもなり兼ねないしな……。
ひとまず、付近には公園内でボール遊びをしている3人の子供の姿があるだけだった。こっそり使う程度なら、怪しまれることもないだろう。
「(とにかく、起動してみよう)」
どんな精霊魔術を使うかは考えてない。とりあえず授業中にやった通りに試してみる。
四角いボタンを押すと、盤面が緑色に発光し始める。そこでガラス面をタップすると……やはり「ポーン」と音がして白い針が吸い付くように浮き上がってきた。
ドキドキしながら、5分だけ白い針を進める。するとあの音声が響いてきた。
『精霊魔術執行モードに移行、精霊力をチャージします』
音声と同時に、俺の右前あたりを浮遊していた精霊プリズムが白色に発光し始める。
「(やっぱり……こうすると精霊魔術が使えるんだ)」
さて、どうしよう? どんな精霊魔術を使ってみるべきか?……と考えている時だった。
不意に、子供たちのボールが横に逸れて、道路に向かってテンテンと転がっていった。その向こうからサーチライトを光らせて、車が一台走ってくる。
それに気づいていないのか、子供の一人がボールを追いかけて道路へと駆け出していく!
「(タイミング的にまずい!)」
瞬間、俺はベンチから腰をあげ、風の精霊魔術で加速した!
ヒュンという風切り音をあげ、一瞬にして公園の出入り口に到達し、道路に駆け出ようとした子供の前に立ち塞がる。
「車が来てるぞ、危ないって」
「うわっ、びっくりした!」
俺達の後ろを車が静かに走り抜けていく。エンジン音の少ない電気駆動タイプのようだ。
「あっ、俺のボール!」
「ボンッ」と音を立てて車に跳ね飛ばされたサッカーボールが宙に舞う。
「(こっちに引き寄せる!)」
俺の横で精霊プリズムが緑色に発光する。ボールは歪な軌道を描いて、吸い寄せられるように公園内に落下してきた。
「すっげー、精霊魔術だ!」
「かっこいい!」
「なになに? 何の魔術?」
寄ってくる子供たちが歓声をあげる。それぞれ精霊プリズムを持っているところを見ると、小学生のようだ。反応の良さに思わずたじろいでしまう。
「キミら、そろそろ家に帰る時間じゃないか?」
「まだ大丈夫だよ!」
「今日は塾がねー日なの!」
「あ、ボク、まだ宿題してないや」
「俺はゼノリスになるし、勉強とか大丈夫だから」
「じゃあボクは『精霊力発電』の精霊魔術技術士!」
「おー、いいなー! おまえら金持ちになれるじゃん」
「魔物バンバン! 悪魔ズギューーン!!」
「ボクの発電したエネルギーで防壁展開! ドーン! 『マンチェイニー砲』構えー!」
「かっけーー! 俺も勉強やめて精霊魔術師めざそうかな!?」
「でも、精霊魔術師になるには勉強が必要だろ?」
「いーの、使えればいいの」
「もうちょっとだけ遊んで帰ろーぜ」
「じゃあボクの番〜」
元気よく口々に言い合いながら、子供たちはボールを拾い上げて公園の奥へと走り去る。
「気をつけて遊ぶんだぞ」
「はーい」
元気な返事を尻目に、俺はその場をあとにした。




