(一)枷の力:とんだハプニング!
ただの時計なら調節できなきゃおかしいとしか思えない。壊れてるにしても腕から外せないから、修理にも出せないし。
天使にクレームを……などと思いつつ、四角いボタンを押して緑色に微発光している状態で、なにげにガラス面を指先でタップしてみた。すると、「ポーン」と音が響いて、白い針が浮き上がってきた。
「(お?)」
指をスライドさせると、わずかに白い針の角度が変わる。丸時計で長針の位置を確認する。白い針をスッと同じ方向へと回してみた。
しかし5分幅だけ回したところで白い針が動かなくなったかと思うと、突然、女の人の声で音声が響いた。
『精霊魔術執行モードに移行、精霊力をチャージします』
次の瞬間、俺の精霊プリズムがプリセルケットから飛び出して白色に発光し始めた!
「へ……?」
一拍遅れて、周囲の精霊プリズムも共鳴するかのように浮かび上がって、白く発光し始める!
「お、どうしたどうした?」
一瞬にして教室がざわついて、視線が俺に集中する。
「コラア、日向! 授業中に何をやっとるかぁ!」
「は、はい!」
名指しで怒鳴られて思わず立ち上がる。
ヤバイ! どうしよう!? どうやったら収まるんだ!?
パニックで思考が定まらない!
「あれ? 日向って精霊魔術使えねーんじゃねえの?」
「もしかして覚えたての精霊魔術か?」
クラスメートたちの冷やかしに顔が真っ赤になる。
「(あ、穴があったら入りたいって気分はこういうことか!)」
と思ったその時! 精霊プリズムが一斉に緑色に煌めいて、「ドン!」という音が響いた!
見ると、黒板を壁ごとぶち抜いて、直径1mはあろうかというほどの大きな丸い穴が開いた!
「ぶっ……!」
「土属性の精霊魔術か!」
「ひゅ〜〜、やるねぇ!」
隣の教室の生徒達が何事かと、穴の向こうから顔を出す。
その横で数学教師が青筋を立てて怒りに満ちた表情をしていた。
「あとで生徒指導室に来るように……」
「どうせなら学校ごとぶっ壊せ、っての!」
隣の教室も巻き込んで、教室は大爆笑に包まれた。
◆
「あー……今日も散々な日だったな……」
思わず愚痴をこぼしながら、石製のベンチに腰掛ける。少し通り過ぎた精霊プリズムが、ひゅる〜りと俺の右前あたりへ戻ってくる。
学校が終わると、ゲーム資金が無いのを理由に友人たちの誘いを断って、一人、自宅近くの公園にやって来ていた。
昨日は肉体的にも精神的にも疲労度が半端無かったが、今日は肉体的に元気な分だけ精神的ダメージが浮き彫りになったと言うべきか。
あのあと、精霊魔術で壁を修復できたから良かったものの……。黒板の切れ目が残ってしまうのはどうしようもなかったが、まあ、コンクリート壁が鉄骨もろとも元に戻せただけでも十分だろう。
「(木製の物を直す時って、どの属性なんだ……?)」
こういう時、もっと真面目に精霊魔術の育成プログラムを受けておけば良かったな、と思わずにはいられない。
一応、生徒指導室では、「今まで使えなかったのに急に使えるようになって戸惑いました」って誤魔化しておいたが、それ以上追求されなくてホッとしたな。
精霊魔術の誤作動なんて、精霊プリズムを配給されたての小学1年生のやることだが……。高校生にもなって……と考えるとさすがに恥ずかしい思いでいっぱいだ。
まあ、まさか「絶対運命の枷が……」なんて言えるわけもないし、この際仕方ないだろう。
それより、ウチの高校は精霊魔術が使えない人ばかりだから、クラスメートたちに「何をしたら使えるようになったんだ?」って聞きまくられたのも大変だったな。
「はあ〜〜っ……」
大きな溜息を吐きながら、絶対運命の枷を見る。壁を修復したあと、四角いボタンを押すと『精霊力解放、ボディリフレッシュします』という音声が聞こえて、精霊プリズムたちの共鳴も収まった。
あの時は5分だけ進んでいた白い針だったが、今はまた、黒い針と真一文字に開いている。いったい、これはどういうことなんだろう?
ひとまず、白い針を動かすと、精霊魔術を使える機能が発動したわけだが……。しかも、精霊プリズムを通して精霊魔術を発動したわけじゃなく、どうも俺の思考通りに精霊魔術が発動した、って感じだったが……。
「うーん……」
首を捻りながら、天使の言葉を思い返してみる。何か小難しいことを言ってたはずだが……。
「確か最後に、『ハクバ、コクヨク散らす時、絶対運命の扉が開かれよう────』とか言ってたよな」
ハクバが白い針、コクヨクが黒い針のことを指しているとするなら……この白い針を進めて黒い針を通り越したら、その時に絶対運命が発動する、ってことだろうか?
「もしそうだすれば……」
俺がこの黒い針を通り越さないように気をつけておけば、絶対運命とか言うモノは成就しないんじゃないか……? しかし、絶対運命とかいう仰々しいモノが、俺の匙加減一つでどうにでもなるってのもヘンな話だよな……。




