(二)ゼノリス:滝宮隊長
車は俺たちのすぐそばまでやって来ると、エンジンを止めた。そのうちの一台からすぐさま5人が降りてきて、あたりの調査を始めたようだ。それぞれに精霊プリズムが随行している様子も見て取れる。
ポニーテールの女の人は「ここに居てね」と俺に一声かけると、調査隊の人の方へと小走りに駆け寄っていった。身振りからして、状況説明をしているようだ。
「怪我人の発見、ご苦労さん」
言いながら、軍服のような制服に身を包んだ男性が一人、特殊車両から降りてきた。女の人に向かって軽く手を上げると、こっちに向かってやって来る。他の人と同じく、精霊プリズムが付いて来ている。
「私はゼノリス第二十六地区隊長の『滝宮』だ。酷い怪我をしているところ申し訳ないが、我々の調査に協力してもらいたい」
男性は俺の目の前でピタリと止まると姿勢を正した。落ち着いた雰囲気だが、その目はじっくりと俺を観察しているような鋭い輝きを放っていた。
「この程度、死にやしねーよ」
金髪の男が寄ってきて、俺の胸をコンと小突く。
「このボロ雑巾、この場で絞ってやろーぜ。クッチャクチャによお〜」
金髪の男がさも意地悪そうに口の端を吊り上げて笑う。
「やめろ、矢茨。一般市民をそうやって乱暴に扱うんじゃない」
やれやれといった表情で、制服の男性が頭を振る。
「天使殿が直々に調査なさりたいとのことだ。我々の任務は護送のみ、さ」
「はぁ〜〜〜ん、あっそ。まあ、い〜んじゃねーの?」
金髪の男が俺の首に腕を回して肩に寄りかかってくる。
「ともかくよー、一緒に署まで来てもらうぞ」
ニヤニヤしながらどこかで聞いたことのあるようなセリフを吐く。
「その途中でクッチャクチャに絞り上げてやっからよ、覚悟しろっての」
「いや、矢茨と埜之平はこのまま1班に合流してくれ。彼は私が連れて行くよ」
「は? なんでだよ!?」
「魔物がまだこの辺りに潜んでいる可能性があるからだ。引き続き、付近の調査を頼む」
「マジかよ! 1班も来てんならヤツらに任せときゃいーじゃねえかよ! 魔術犯罪対策のプロ集団だろーがよ!」
「増援を要請されている。あちらも人手不足なんだ、わかってくれ」
「人手不足だあ〜〜〜〜!? だったらさっさと増員しろっての!! いつも言ってんだろがよ! んなだから、今日だって魔物取り逃がしてんだろ!!」
金髪の男の言葉に、制服姿の男性が無言で返す。張り詰めた緊張感に静寂に、公園の方から「おーい、こっち! 木が倒れてる」という声が響いた。
「……どうやら、調査班が魔物の痕跡を見つけたようだ」
「フンッ、そりゃそーだろうよ」
「矢茨、埜之平。1班をあまり待たせないように、よろしく頼む」
「了解です、滝宮隊長。さ、カズマ。行くわよ」
いつの間にかすぐ横に来ていたポニーテールの女の人が、金髪の男を促す。
「ちっ……なんだよつまんねー」
金髪の男は、俺の肩を突き放すようにして離れると、ぶつくさ文句を垂れ始めた。
「不審者見つけた時点でオレたちゃお仕事終〜了〜だろ。ったく人使いが荒いぜ〜」
「何言ってんのよ。まだ他に、巻き込まれた住人がいるかもしれないじゃない」
「住人の安否確認は本部で取ってんだろ〜? 現場の出番じゃねーっての!」
「隊長も言ってたでしょ? 魔物がまだこの辺りにいるかもしれないって。カズマの大好きな戦闘だって、起きるかもしれないじゃない?」
「んなもん、探したからっつって、ホイホイ見つけられるんなら世話ねーっての!」
「はいはい」
少女は俺に向かってウインクして手を振ると、男の背中を押していく。
「あ〜〜〜〜〜あ。ボロ雑巾をこの手で絞り上げてやりたかったぜえ〜。糸くず一本残さずクッチャクチャになるまでよお〜! 命拾いしやがったな、アンチクショウ!」
捨てゼリフを残して二人が車に乗り込むと、車は何処かへと走り去って行った。仲は良さそうだし、どこか楽しげな雰囲気の二人だったが、あんなのでホントにゼノリスの仕事が務まってるんだろうか? そんなことを思わずにはいられなかった。
「さて……先ほど言った通り、天使殿が直々に聞き取り調査をしたいそうだ。……協力してもらえるね?」
制服の男性が穏やかに問いかけてくる。俺に選択の余地などありはしない。
心を決めると、俺は車へと乗り込んだ────。
<第一章(二)ゼノリス 終>




