(三)天使の使徒:三人の天使
────タバコの匂いが立ち込める暗い部屋。
丸テーブルを囲むようにして置かれたクッション付きの丸椅子に、三人が腰掛けている。それぞれの傍らに置かれた細長い台には、ワインのボトルやグラス、そして灰皿などが置かれていた。
まるでスポットライトでも当たっているかのように、その三人の周囲だけが明るく照らされている。それ以外には、暗闇しかない。
俺の正面に向かい合うように一人、そして左右に別れて二人の横顔が見える。入ってきた俺の方を見ようともせず、ポーカーに興じている様子だった。
「(……この人たちが、天使……?)」
一見したところ、見た目は人間とまったく同じ。しかし、背中から生えた大きな白い翼と、頭上に漂う白い光を微かに放つ天使の輪が、彼らが天使であることを如実に示していた。
三人とも同じ型の上着を羽織っているが、ところどころに入れられたラインの色が異なっていた。正面の男は赤、向かって右の男が緑、左の男が青。
三人の顔色を伺う俺の様子を気にも留めず、彼らは粛々とポーカーを続けている。
タバコの煙に包まれた静寂。何か喉の奥に引っ掛かったような感触がして、思わず「コホッ」と小さく咳き込んでしまった。
「ジール、未成年の前ですよ。そろそろ遠慮してはどうですか?」
「……ん?……」
「そう長くかかるもので無し、別に構わんだろ?」
「もちろん、口うるさく言うつもりはありませんよ。ですが、多少の気遣いはあってしかるべきでは?」
「……許せ……」
緑の天使の言葉に、二人はクスクスと忍び笑いを漏らした。
「さて、と……フォーカード」
青の天使が手札をテーブルに丁寧に広げると、他の二人は舌打ちしてワイングラスをグイッと煽ったり、タバコに火をつけたりし始めた。
一応、俺は怪我人だ。手当もロクに受けていない状態で突っ立っているのは結構しんどい。
「(……まだ放置されたままかな?)」
そんな思いがよぎったが、青の天使がこちらにチラリと視線を投げかけてきた。
「酷い怪我を負っているところ、申し訳ありませんね。ですが、これもあなた方人間の責務と思ってご協力願いますよ」
「少年、名は?」
「……日向ナツトです」
「年齢、職業は?」
「今年で17歳、高校生です」
「血液型は? それと居住区域は? 家族は何人だ?」
「えっと……」
唐突に、矢継ぎ早な質疑が始まる。まるで尋問を受けているような気分だ。
「ふむ……同条件のデータがヒットしたぞ。どうやらこの国の人間であることは、間違いなさそうだな」
「……朗報……」
いつの間にか、三人の目の前に、半透明のモニターのようなモノが浮かんでいた。どうやらそこに、俺のデータが映し出されているらしい。
「ですが、このゼノリス第二十六地区の住人ではないようですね」
青の天使がモニター上で指をスライドさせながら言う。
「『魔術犯罪者』の犯罪傾向として、自身の生活区域から離れたところでの通り魔的犯行が多いのは御存知ですか?」
「ほほう、興味深い話だ。そういえば少年、精霊プリズムはどうした?」
「『一億総精霊魔術師計画』────この国の者であれば、必ず所持しているはずですね。それとその胸に浮いている紋様ですが……」
三人の天使の視線が俺の胸のあたりに集中する。
「……『緋色の逆十字』……」
「ああ、間違いないな。悪魔の『吸血器』を使った痕だ」
血の気がさっと引いて、冷たい汗が頬を伝う。
彼らが何を言わんとしているのか、すべてを瞬時に理解することはできない。ただ、心の底で何かが「マズイ」と感じていた。やはり俺は彼らに、天使たちに知られてはならない何かを知っていた気がしてならない。
「おまけに、滝宮がこれを」
青の天使が、ジップ袋を手に取って見せる。中には、俺の額に貼り付いていたあの御札が入っていた。
「ゼノリスの隊員が発見した際、少年の額に貼られていたそうです」
「ほう? これはこれは」
三人はお互いに無言で目配せをすると、何やら頷き合っている。
「紋様から察するに、例のアレか」
「ええ、間違いなく『ガフィレフ』の術符でしょうね」
ガフィレフ!? ガフィレフって確か……ニュースで聞いたことがある。魔術犯罪者を支援する世界的組織とかじゃなかったっけ!?
「よそ者な上に精霊プリズムの不所持、さらには緋色の逆十字に、ガフィレフの術符!」
「不審人物のロイヤルストレートフラッシュといったところですね」
「いや、それを言うならビンゴだろう?」
「……否、チェックメイト……」
この人達ならさっきの金髪の男と気が合うかもしれないな、と思わずにはいられない。
「ひとまず、状況証拠だけ眺めると……」
「少年がガフィレフのメンバーであることは間違いなさそうだな」
な、なんだって!? 口から心臓が飛び出るかと思うほどに驚いた。




